第9話 騎士爵様と夜の花火と

 


 宿屋に戻ると受付の前でマルグリットさんが待っていた。


「色々と情報収集していたらすっかり遅くなってしまって申し訳ない!」


「いえ、大丈夫ですよ。それよりも何か良い情報でも得られましたか?」


「夜、花火祭りがあるそうなのですが2人で教会の塔に登って見に行きませんか?」


「おお、それはよいですね。行きましょう」


 マルグリットさんは祭りの事は知っていたらしいが今日だったとは知りらなかったそうだ。

 そもそも一緒に行く人がいないのでそこまで気にしなかったとか……


「でしたら私もここで1泊して帰ります」


 オレとマルグリットの会話を聞いていたのか受付にいた店員さんが軽く手を挙げた。


「申し訳ないのですが祭りの影響でただいま空いている部屋がない状態となってますので相部屋という形になってしまいますがよろしいでしょうか」


「そうなのか、マサキ殿は私と2人で寝る事になってもかまいませんか?」


 マジか?なんだよこの展開は?


「えっと……オレは大丈夫ですよ」


そういって2人で部屋に入ったがやはり気まずい雰囲気だった。


 1時間後、オレ達は宿屋を出ようと扉を開けると外ではすでに夜になり、大勢の人が賑わい夜店がそこら中に並んでいた。マルグリットさんは目を輝かせてもうずっとキョロキョロしっぱなしだし、まぁそりゃそうだよなオレでもこの美しくライトアップされた夜の町並みに心が躍る。


「すごい人集りですね、私、夜この街を出歩いたのは初めてなんですよ。それに夜店も気になるところがたくさんあります」


「じゃあ夜店を散策しながら教会を目指しましょうか」


 それにしても祭りのせいかすごい人集りだ。

 こりゃスリとか置き引きに気を付けないとな


「おっそこのお2人、氷結魔法で凍らせたここいらではちょっと珍しい南国の果実だよ。一本ずつで銀貨6枚、どうだいお兄さん!」


 ふとパインやキウイフルーツを冷凍したようなコンビニでよく見かけるアイスが頭に浮かんだ。

 それにしても一体どうやってここまで持って来るんだろう


「へえ、南国の果実ですか。初めて見ました」


 マルグリットさんがちょっと欲しそうにしていたのでオレは犬耳の店員に金を払い、凍りついた果実を受け取るとついでにこの冷凍果実の輸送方法を尋ねてみるとどうやら収納の能力スキルを持つ者を雇っているらしい


「えっ…マサキ殿に出して頂くわけにはいきません」


「大丈夫ですよ。オレの奢りなので」


「……では遠慮なく頂くとしましょう」


 財布を出した状態で戸惑うマルグリットさん……

 彼女はあまり男にねだったりしないんだな

 まあそりゃそうか騎士だしな


 2人で冷凍果実を食いながら夜市を見て回る。

 怪しい雰囲気の道具屋があったのでちょっと覗いてみるとよくわからない壺や杖などの魔道具が置いてあり、だがそれよりも隅っこの方に本が数冊置いてあるのが目についた。

 店の人に断って手に取ってみたが重い! どうやら紙が分厚いので本の厚さのわりにはページ数が極端に少ないのだ。


「珍しい、本が置いてあるなんて?」


「そうなのですか?」


「ええ、値段も高いですし有力商人か上級貴族でもない限りなかなか手に入るものではないですね。そもそも学のない一般の平民家庭では文字の読み書きが出来ないので……」


 そうなのか?この世界では本が流通していないってのは印刷技術以前にまだ識字率が低いのか?


「そういえば村に子供が学べるような施設はなかったですね」


「学校へ通えるのはせいぜい貴族や領主様の子供くらいです。それに小さな村で暮らす平民家庭では子供も労働力とみなされてますしそもそも彼らにそんなお金など無いですしね」


 TVでタレントが発展途上国に学校を作ったりしている様子を見たことがあるがこの世界もそういうのが必要なのかもな?


 手に持っている本を戻して、また夜市を見回りはじめると目の前にある串焼き屋のお兄ちゃんが話しかけて来た。


「なあアンタら俺の鳥と猪の串焼きもよかったらどうだいけっこう人気商品なんだぜ」


 猪だって? 確か旅館とかでしか食べれない高級食材じゃねえか! 美味いって聞いた事があるぞ。


「兄ちゃんそれ2本もらえるか」


 2人で串焼きを食いながら夜市を歩き、ようやく教会に着いた。

 看板には入場料銀貨2枚と書いてある。

 入場料取るんかよ…


 まあいいとりあえず受付のシスターに入場料を払うと教会の地図を見せてくれた。

 礼拝堂を通り抜けた所で観光客の行列が出来ている。


何だろう? 神父が何か飲み物を注いでいる。


「あっ、自家製の温かいぶどう酒ですね。

確かこの祭りでしか飲めないのだとか——」


おおー、ホットワインか!

いいな美味そうだ。


「温かいぶどう酒 銀貨1枚になりますがいかがですか?」


「マサキ殿、一緒に飲みましょう! 今回は私の奢りです」


 木のカップを受け取り、ホットワインを注いでもらい螺旋階段を登って塔の屋上へと着いた


 塔の屋上から見たケルトブルクの町並みは酒場が多いのか夜にもかかわらず温かみのある光とレンガ造りの建築が混ざり合って美しい景観を生み出していた。そんな中でもオレンジや赤茶の三角屋根の建物が随分と目立っていた。



「夜景綺麗ですねーっ!街の建物を見てるだけでものすごく感動しますね」


「ええ、来てよかった……この世界に」


「えっ?」


 ドドーンババババーン!



 花火が始まった。目の前の夜空で爆発する光の乱舞。



「その……信じられないかもしれないけど

 実はオレ、この世界の人間じゃないんだ。別の世界からの旅行で来ているんだ」


「旅行? マサキ殿のいた世界? どういう事ですか?」


 オレはマルグリットさんに打ち明けた。

 とある神のはからいによって日本という国から転生された両親に会うための3ヶ月間の滞在しているという事を………


「オレ、マルグリットさんと一緒にいたい!

 オレと付き合ってください」


「えっ? あの……マサキ殿の言う『付き合う』というのはそれはどういう意味なのでしょうか?」


「まだ結婚未満の関係ですが男女といつまでも一緒にいたいと思う相手といる事です」


「わ…わ……私でよろしいのか? 婚期などとうに過ぎて最近ではよい縁談もなく社交界でも若い殿方から相手にされぬ貧乏貴族だぞ」


 オレはマルグリットさんを見つめながら無言で頷き手を握ると彼女はオレの頭を抱えて身を引き寄せ、オレのことを見つめながらオレの頬を撫でる彼女……



 ドドーンババババーン!



 咲き乱れる花火を背景にゆっくりと二人の唇が重なり合った。

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