第53話 第八章 理不尽な激流、前へ…

 はい、読者の方には脳内再生で爆風スランプさんの「runner」を爆音で流して頂きました所で今回のレースが始まりましたぁっ!!

 語るとも劣らず、吉備津彦と岳の果敢なるレースの火蓋が切って落とされた訳でございます。

 解説は著者である私、岡崎モユルが担当させて頂きます。

 川の流れは尋常になく獰猛で、人としての関与を優に超しておる次第にございますが、この両人はどのように対処するのかが正しく見ものであります。

 片方、吉備津彦というと、流石と評しても過言ではない。

 激流に負ける事なかれ、見事、立ち泳ぎのまま路無き路を進ませているぅぅぅっ!!

 岳はと言うと…。まさかの展開っ!!というか、予想していた展開だと申しても過言ではない…。既にその場にはおらず、下流へと流されているではないかあああああっっ!!

 濁流の音、風の声、そして岳の叫び声…。入り混じる音は悲しく交差して、この場へと届いてくるっ!

「た、岳ええええええっっっ!!!!」

 おっとぉ、吉備津彦が叫んだぁっ!!

 しかしながら、その叫び声は空にこだまするだけで岳の方へと届いていない様子。そんな吉備津彦も激流に流されないように必死に抵抗しているが故に、岳を助けに行く事ができないっ!!

 岳、序盤から万事休すだああああああっ!!!

 反対の岸辺にいる天鈿女はおろおろと様子を窺っているのであるが、狭野尊はというと…、まさかの大笑いっ!!腹を抱えて笑っているではないかっ!!

 この漢は鬼かっ!?悪魔なのかっ!?自分の子孫と自らの口から評した者が絶命の窮地に立たされていると言うのに、何故に笑っていられるのであろうかっ!?

 その心中、全くもって理解できないぞっ!狭野尊っ!!!

「おいっ、著者よっ!!俺の事をディスるなんて何事だっ!!俺はお前に良いように描かれる霊ではないぞっ!!分かってんだろうなっ!ええっ!?」

 私の解説に対して、狭野尊からまさかのクレームが直接心の中へと叫ばれてきました。

 幾ら私の著内であっても、この漢の意見は相当怖い訳でございまして、この漢の言動は暫く無視させて解説をお届け致します…。

 はい、仕切り直しまして、岳はと言うと、既に視界から姿が確認できない所まで流されているっ!という事は、これにて岳はこの大和への旅を遂行する事ができなくなったというのかぁ!?

 天鈿女は元々大和までの道案内で同行しているだけの存在。狭野尊はさて置き、吉備津彦は只の里帰りという話になるだけである。

 岳がいないこの旅など、正に桃太郎不在のまま鬼が島へと行くようなものであり、この物語の進行を続ける意義がなくなるという事を意味する。

 ここは私自身も叫んでおこう。


『岳津彦おおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!』


 やはり…、岳からの反応はない。激流の白波が見えるだけで、岳の姿は最早それに呑み込まれ、亡き者となっているのであろうか…。

 これまで彼の成長を描き、毎日が楽しくて仕方がなかった。しかしながら、彼はもう既にいないのである。

 岳津彦、享年一五。摂津国、北の河に没する。


                    古今叙事大和本紀  完 



 て、そんな馬鹿な話ある訳なかろうっ!!!

 こんな尻切れトンボで終わる物語なら、私は初めから書いていないっ!!

 岳は一体どこまで流されているのかは定かではないが、生きて戻ってくる事を信じて眺めている事しか今はできない。

 そうこうしている内に、吉備津彦は北の河半分辺りまで差し掛かったようであるっ!岳を心配する気持ちは確実に抱かせているも、任務を遂行できているこの心は、正しく鉄の心と言えよう。

 流石は吉備津彦っ!立派だ吉備津彦っ!!

 んっ?ちょっと待って下さい…。

 下流の辺りから一瞬激しい光が、辺り一面に広がりを見せた様子であります。何が起こっているのでありましょうか…。

 我が斥候隊を派遣し、光の正体を確かめに…。


『んんんっ!!!?』


 皆様、その必要はない様子ですっ!!

 岳ですっ!!岳が生きておりましたっ!!下流から激流を跳ね除け、すごい勢いで吉備津彦が立ち泳ぎしている場所まで戻ってきているうううっ!!

 しかも、泳いでではなく、まさかの水面上を走っているではないかっ!これは先程、天鈿女が見せた神通力と同じ…。否、激流を力強く跳ねのけている事から、もしかするとそれ以上かもしれないっ!!

 おっとお、岳に対し、右翼から一際背の高い荒波が覆い被さろうとしているっ!!どうするっ!どうなるっ!!そして、どう出るっ!!?


『ずがあああああああんんんっっっ!!!』


 右腕を激しく振るわすと同時に起った衝撃波でその荒波を相殺させたっ!!どこまでの力を秘めているのだ、岳津彦っ!!

 吉備津彦の姿から確認できる所まで戻ってきた岳の瞳は、炎のように真っ赤に燃えているではないかっ!!

「岳っ!!!大丈夫かっ!!?」

 吉備津彦は苦渋な表情を浮かべながらも、岳に対し、労いの言葉をかけているっ!!流石、紳士吉備津彦っ!!

「吉備津彦…、もう大丈夫である。心配かけて済まなかった。」

 無事に生還を果たした岳に対し、読者の皆々様に私からお願いしたい。暖かい拍手とエールを…。

 ここまでの解説は著者、岡崎モユルでした。

以後、本編をお楽しみ下さい…。

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