第4話
「辰也、お前、平坂に好かれてんの??」
「は?そんなわけないでしょ」
誠の発言で朝食のパンを食べていた手を止める。まじまじと誠の顔を見ていると、そんな僕に気づいたのか誠は照れたように笑う。
「なんだよ」
なんでいきなりそんなことを言い出すのか、僕には不思議でたまらない。
何かおかしなものでも食べたんじゃないかと誠の顔色を確認しても至って正常。
「誠、腹痛くない?」
「痛くねぇけど?」
不思議そうに首をかしげる誠。
これ以上は頭が混乱するので考えないことにしよう。
僕は気にしないふりをして、食事を進めた。何も話さず、誠との間に沈黙が続く。
僕の食べる姿をまじまじと見る誠。僕が誠に鋭い視線を送ってもやめることは無かった。
ついに見られていることに羞恥心を感じて、誠に声をかけた。
「おい、なんだよ」
「何も…」
誠は何か考えているのか、上の空で返事をした。
僕はもう、誠の事は気にしないことにした。
朝食のパンを食べ終えた頃には短い針は8時を指していた。ざわざわとざわついている廊下。そろそろ皆が来る時間帯だ。
「おはよう」
最初に登校してきたのは坂口だった。
「おはよう。早いね。いつもこの時間帯?」
坂口はすとんと僕の隣に腰をおろした。
「今日だけこの時間帯」
そう呟いた。誠は坂口の顔を見て、眉間にシワを寄せる。
僕はそんな誠の眉間のシワを指で押す。
誠は僕のそんな行為に慌てた様子を見せた。
「あなたは?」
静かな空気感の中、凛とした坂口の声が響いた。
「僕?僕は…「俺とデートだよ」え?」
僕の声に被せるかのように誠が声を発した。坂口は目を真ん丸くさせた後、くふふふと笑い出した。
「そうなのねっ!仲がよろしいことで!」
うふふと今までに見たこともない笑顔にほんの少しどきりとする。
誠は物珍しそうな表情でいた。
好きなだけ笑えたからなのか、坂口は申し訳なさそうな顔をして、
「ごめんなさいね」
笑いすぎて出てきた過剰涙を指で拭っていた。
「ずっと気になってたことがあるんだけど」
坂口は自分の席に腰を下ろす。ちらりと僕の顔を見ると荷物の整理を始めた。
「何?」
僕は聞き返すが、何か思い悩んでいるようでなかなか口を開かない。
「なんだよ…」
誠も僕に続いて、聞き返す。
話を切り出さない坂口に少し苛立っているようだ。
「あのね…伊賀原くんのお母さんってどんな人?」
聞かれた質問は意外なものだった。
「僕の母さん?「伊賀原の母ちゃんは美人だぞ」…」
「え?」
僕の声に被せて、勝手に質問に答えた誠。
「ピアスめっちゃ開けてて、ちょっと頭おかしいかも」
「何それ、変な人なんじゃ…」
誠が次々と母さんの特徴を答えていく。あながち間違ってはいないが、けなされている気がしてならない。
僕は黙って、誠から見た母さんの印象を聞いてみることにした。
「辰也が大好きで、飯が旨くて、スタイルも良くて、依存体質で…」
「依存体質?」
誠の発言に坂口は不思議そうな表情をする。
「所謂、メンヘラってやつだよ。僕の母さんは」
僕がそうフォローを入れると複雑そうな顔をする坂口。
「めんへら…ね…」
めんへら母さん 枯崎 情 @zyou_1351
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