第3話

「分かりました。引き受けましょう」


あまりにも先生が頭を下げてくるものだから僕は首を縦に振った。

先生との密会も終了し、僕は一度坂口が待つ教室へと戻った。

外は暗くなり始め、教室には明かりがついていた。そっと扉を開けて、顔を覗かせると坂口と目があう。


「ごめんな、待たせて」

「いいのよ」


背筋を伸ばして凛々しい立ち姿で窓の外を眺めていた。坂口は鞄を手に持つと僕をじっと見つめる。


「好きな人…いるの?」


突然の質問に僕の脳内はその質問をうまく処理できなかった。

好きな人…

なぜ、坂口はそんなことを聞いてくるのか。さほど興味もないだろうその質問に僕も適当に答えた。


「いないよ」


その返事に教室が静まり返る。はじめから坂口と二人きりの教室だというのに人の気配すら感じない。目の前の坂口は生きているのか。そんなことすら感じてしまう。

坂口はそんな眉を寄せる僕を見て、不敵に笑った。


「そうなのね。」


それだけ言うと僕の横を素通りし、教室を出て行った。

あれ…?

彼女、僕と帰るために待っていたんじゃないのか??


平坂先生の元へ行く前の教室での出来事を思い出し、慌てて坂口を追いかけるももうすでに昇降口に坂口の靴は残っていなかった。

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