第2話
「えー、では文化祭の催し物について決めたいのですが、何か案はありますか?」
さっきとは裏腹に落ち着いた様子の天野。天野はクラス全員の顔を見渡し、ある人物を指さした。
「はい、伊賀原。何か案を出しなさい」
ぼんやりとしていたため、急に教卓の前に立つ天野に指さされて戸惑う。
「え…僕!?」
先程のパンチラ事件が癪に障ったのか、少し気に食わないというような顔で僕を見つめる天野。僕は渋々立ち上がり、天野に向き合った。
クラスの視線が僕に突き刺さる。特別、何か目立つようなことはしたことがない。このように視線にさらされる経験は僕には貴重だった。
「カフェなんてどうでしょう」
「ありきたり。却下」
僕の案は虚しくも即答されてしまった。
「じゃ、お化け屋敷なんか「却下」」
どんな案でも却下の一言で終わらせてしまう天野。僕はだんだんと苛立ちを覚えながら案を絞り出していく。
「チュロス!」
「好き嫌いに分かれる、却下」
「タピオカ!」
「他のクラスと被る、却下」
「焼き鳥!」
「今どきの子たちが焼き鳥を食べるとでも??却下」
坂口や誠、松永ですら今の状況に苦笑いを浮かべる。クラスは妙な雰囲気に包まれる。僕たちのやり取りを楽しむものもいれば、対して不快に思い、さっさと進めろと肘をつき、居眠りを始めるものまでいる。
「おいおい、天野。そんなんじゃ決まらないだろう」
僕に救いの手を差し伸べてくれたのは担任の先生だった。僕らの担任は苗字を
噂によれば、この学校に来た20代当初はイケメンともてはやされて、学内一の人気者だった。今じゃこの通り、無精ひげを生やし、襟足が長く手入れのされていない髪。イケメンとは到底程遠い。
「先生はカフェ、いいと思うけどなぁ」
先生の近くに座る生徒も先生と目を合わせて頷く。その様子に天野は顔を歪める。
「それじゃありきたりなんです!」
確かにそうかもしれない。文化祭という特別な感じはでない。カフェなんて学校を出れば、どこにでもある。
「じゃあ、メイドとかコスプレなんかもしたら??」
僕は先生が話している隙にこっそりと座る。先生の提案はクラスの男子たちのテンションをマックスにさせた。
「いいじゃんメイド!」
「俺、松永のメイド姿見てぇ!」
「俺も!!」
そして、挙句の果てには先生まで。
「スカート短くしちゃってさ、女子皆メイド服着て…いいんじゃない?いっぱいカモつれるぞ」
そんなカフェに寄ってくんの男だけなんじゃねぇの??
先生の下心丸見えの顔をジトっと見つめながら思う。ちらりと誠を見てみると何か考えている仕草をしている。顎を手で触り、そして、首に手を添えている。
一時はメイドカフェと決定しそうになったが、それをよしとしない者たちは大勢いる。
「なんであたしたちがメイド服なんか着なきゃならないのさ!」
「私だっていやよ!」
クラスの女子からの大ブーイング。その意図は勿論委員長である天野も汲み取れているわけで。
「先生、セクハラですよ」
「厳しいねぇ」
メイドカフェの案はなしになった。
「他に案は??」
天野がため息をつき、時計を見た時、誰かが手を挙げた。
「はい、松永」
ビシッとまっすぐに伸ばされた手は紛れもなく松永のものだった。
「私、メイドカフェいいと思います」
「だーかーらー、それはもう却下なんだって!」
「いいえ、私たち女子がメイドをするんじゃなくて男子がメイドをするんです」
松永の発言はクラスをどよめかせた。脳筋な男たちは誰がメイド服を着るかと言い合いを起こす。女子は皆、その案に賞賛する。
平坂先生は手をおでこに当てて、ため息をつく。
「俺も男子メイドカフェいいと思う!!!」
一人の男子が賛成の声をあげた。
男子の中から阿呆が現れたかと思いきやそいつは誠だった。
誠は嬉しそうに僕を指さし、
「辰也のメイド姿ぜってー可愛いぜ!!」
回りに餌を振りまいた。初めは誠の反応にきょとんとしていた天野は僕の顔を見つめるとにやりと微笑んだ。
「じゃあ、メイドカフェで決まりね。メイドは男子がすることね」
「「「えーーー」」」
女子が圧倒的勝利を手にし、僕たち男子は女装させられる羽目になった。
HRが終了し、平坂先生は教室を出る際、黒板にかかれたメイドカフェという文字を見て呟いた。
「なんで俺が男のメイドなんざ見なきゃならねぇんだ」
女子の可愛いメイド姿を期待していた先生にとっちゃこれは最悪の展開なんだろうな。
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