第1話

「誠ー、風呂沸いたから入っていいよ」


夕食が終わり、僕はお風呂のお湯を張った。僕が誠に声をかけるとテレビを見ながら笑っていた誠がこちらに振り向いた。


「先にいいのか?何か申し訳ないな」

「なら僕が先に入ろうか?」

「えーそれも何か気に食わない」


誠は僕と一緒に風呂に入りたいのか?

ケラケラと僕の反応を楽しんでいる誠を蹴り飛ばしたくなる。


「じゃ、おっ先ー」


僕の肩にぽんっと手を置いて、嬉しそうに脱衣所に向かう誠。僕はその姿を呆れた眼差しで見ていた。


「本当に誠ってやつは…」


母さんもそうだが、誠も十分手がかかる。

僕は食器を洗いながら、誠がつけたテレビを眺める。誠はさっきまで何かドラマを見ていたようだ。


「しかも…」


いつも真昼間にやっていてよくうちの母さんが見てるやつ…

再放送かなんかだろう。ドロドロした男と女の三角関係、恋愛がほつれてごちゃごちゃになるようなドラマだ。

僕、この話嫌いなんだよな。

手についた泡を落とし、リモコンでテレビの電源を落とす。


食器洗いが終了すると僕はスマートフォン片手にソファに寝転がる。


「誠、遅いなぁ」


誠の風呂の長さにビックリしながらも、スマートフォンで動画を見る。

今日も色々あったなぁ…

なんて思っていると瞼が重たくなってくる。


うつらうつらとしていると数分後には目を閉じていた。




目を開くと、目の前には誠の顔があった。


「あ、起きた??」

「何してんだよ」


誠の顔があまりにも近くにあったものだから、僕も少しだけビックリしたが、いつもの調子に戻す。


「お先にどうも」


誠はにこにこ笑顔で髪の水分を拭き取りながら、僕に言った。僕は重たい体を起こし、大きなあくびをして脱衣所へ向かった。

脱衣所で服を脱いでいた時、


「あれ?」


自分の服に違和感を覚えた。ズボンのチャックが全開だったのだ。

僕、今までここ開けたまま生活してたのか!?

どこでチャックを閉め忘れたのか、考えれば最後に用を足しに行ったのはテスト後の昼休み。

あのときからチャックは全開だったのか…

自分の間抜けさに大きなため息をついた。


「はぁ…」


風呂に入り、湯船に浸かると、今日一日の疲労がどっとでたかのようなため息をついた。

母さん、こんな夜中にどんな友達と遊んでんだろ。危ない友達じゃなけりゃいいけど…


数分して、烏の行水のような速さで風呂を出た。


「あれ?はやくね?」

「洗うとこなんか限られてんだろ…」


そういえば、誠は長風呂だったよな。

僕は髪をわしゃわしゃとタオルで拭う。そして、簡単に櫛で整える。

なんか飲みたいなぁと思っていた時、

ソファでくつろぐ誠が僕を凝視していた。


「何?」

「え…いや…何も」


思ってもいなかった戸惑った誠の反応に僕自身も戸惑う。

そういや僕、誠のこんな顔見たことないや。


「誠、なんか飲む??」


気まずさを隠すように僕は冷蔵庫を開いた。


「コーヒーがいい」

「分かった」


誠の事だからコーラとかソーダがいいとか言い出すかと思いきやコーヒーときた。僕は誠のためにコーヒーを入れた。コーヒーを誠に渡すと僕はガラスのコップに一杯の水を入れ、飲み干した。

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