第1話
やっとテストも終了した。
「辰也、帰ろうぜ!」
テストが終了してご機嫌な様子の誠。誠は帰宅準備をする僕に抱き着いてくる。
その様子を坂口が目を細めて見ている。
「誠、部活は?」
「今日は休むー」
ズルかよ。僕は大きくため息をついた。
帰宅準備を終えると、誠は僕の鞄を勢いよく持ち、走って先に教室を出て行った。
「おい!」
僕は後ろから大きな声で叫ぶも誠は見向きもせず、昇降口の方へ走っていった。
ひったくりかよ…。
僕は慌てず、歩いて昇降口に向かった。すると
「ねぇ」
昇降口に向かう階段を降りようとしたとき、背後から坂口に声をかけられる。
「一緒に帰ろうよ」
「うん、いいよ」
僕は二つ返事で了承した。それから昇降口までは坂口と一緒に向かった。
僕を昇降口で待っていた誠は坂口の姿を見るとゲッと声を漏らした。
「なんで坂口が…?」
「一緒に帰りたいんだって」
僕は誠から鞄を奪い取るとスタスタと靴を履き替える。坂口も戸惑う誠を気にも留めず、靴を履き替える。
外へ出ると強い日差しが僕を照り付けていた。
ふと振り返ると誠はまだ靴も履き替えていない。
「誠、帰るぞ」
そう僕が一声かけると嬉しそうに靴を履き替えていた。
そこからは三人で帰路についた。坂口は自分から話すことはなかったが、僕が彼女に話題を提供することによって会話が途切れなかった。
「じゃあ、私、こっちだから」
「また明日」
僕が彼女に軽く手を振る。
誠は彼女に何も言わずに背を向けた。
「挨拶ぐらいしたらどうなんだ」
「嫌。俺が先に辰也と帰る約束してたんだぜ?」
「小学生か、お前は」
誠は最後まで坂口の文句ばかり唱えていたが、最後、別れるときには僕に手を振ってくれた。
「じゃあな!」
「またあした!」
僕は今日も平和な一日を過ごした。
帰宅すると母さんが玄関で待っていた。
「おかえり!」
母さんはぎゅっと僕を抱きしめる。この歳で帰宅後母さんにハグされるのは可笑しいかもしれないが、我が家ではいつもの事なのだ。
「ただいま」
「今日も誠くんと帰ってきたのね。それに女の子のお友達まで」
キャーと頬をピンクに染めて、手で顔を覆う母さん。てか、よくそんなことが分かったな。
母さんは嬉しそうに僕を見て、リビングへ戻っていく。
僕も母さんについてリビングへ行くと、ダイニングテーブルにはすでに夕飯が用意されていた。
「母さん、早くない?」
「今日は夜からお友達とデートなの」
だから母さんは機嫌がいいのか。
嬉しそうにエプロンを脱ぎ、椅子に座る母さん。綺麗なお洋服を着用し、化粧もばっちり済ませている。
僕も荷物を下ろして、母さんに続いて着席した。
「いただきます」
母さんと二人で手を合わせて、いつもより早めの夕飯を取った。
僕は黙々と夕飯を口に運んでいく。その様子を母さんはじっと見つめる。
始めは無視をしていたんだけど、ずっと見られるものだから何かと思い声をかけた。
「何?」
「ねぇ、美味しくないの?」
「いや、そんなことないけど」
母さんの表情はだんだんと暗くなる。何か怒らせるようなことをしたか!?
「美味しいなら美味しいよの一言があってもいいんじゃないの!?」
「お、美味しいよ!」
「なんで取ってつけたみたいに言うの?」
「本当に美味しいって!!」
いつもは美味しい?って聞いてくるのに今日は聞いてこなかった。
久しぶりにこんな母さんを見た気がする。
「もういい!!あたし、もう行ってくる」
母さんは皿に料理を残したまま、出て行った。
僕は母さんが出て行った扉を見つめた後、母さんが食べていた皿を見つめる。
「これ、捨てたらブチぎれるよな」
母さんが残していった料理。これをどう処理するかだ。ラップして冷蔵庫に入れるとしても明日になれば味だって落ちてるだろうし、できる限り残しておきたくはない。
僕は携帯を取り出し、誠に電話を掛けた。
1コール目で誠は出た。
「もしもし、誠?」
『おう!どうした』
「今からうち来ない?」
『行く行く!待ってろよ!』
何も理由も聞かず、嬉しそうな声色で返事をした誠。
今晩の夕飯の処理は何とかなりそうだ。流石に母さんの残り物を食べてもらうわけにはいかないから母さんの残り物は僕が食べるか。僕の残した料理を誠に食べてもらうか。
誠のこと、都合のいいやつとか思っちゃダメなんだけど、実際なんでもしてくれるから僕としてはとても助かる。
ピンポーン
数分してインターフォンがなった。
「いらっしゃい」
扉を開けると大荷物を抱えた誠が立っていた。僕は誠が抱えた荷物が何なのか悟り、苦笑いして家にあげた。
「誠、泊っていくんだな?」
「よくお分かりで!」
ニシシと笑顔を向ける誠。僕はリビングに誠をあげた。
「誠、これ僕の残りだけど食べてほしいんだ。母さんが出て行ってしまって。捨てるわけにも明日まで残しておくわけにもいかないから僕がこれを食べる」
誠はテーブルに乗る、僕が先ほどまで口にしていた食事を見つめる。そして、ごくりと喉を鳴らした。
「いいのか!?うまそー!」
次の瞬間には嬉しそうに声を上げて、席についていた。
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