第1話

「終わった終わったぁ!!」


僕の席から少し離れたところで誠が大きく伸びをしているのが見えた。誠は僕と目が合うとにやりと笑い、こちらへ向かってきた。


「おーひる!」

「はい…」


僕が母さんが作った誠のお弁当を渡すと誠は嬉しそうに僕の隣の席に座る。


「おい、坂口が怒るぞ」


僕の隣の席の子は坂口さかぐち比奈ひなという女の子で見た目は文句なしのクラスのマドンナだ。しかし、彼女はクラスの男子女子共に話しかけないほどの欠点がある。それは彼女がとてもマイナス思考の持ち主であるということだ。ごく一部の男子からはと言われて好評らしいのだが。


「いいよ。別に…」


僕の背後からか細い声が聞こえたかと思い、振り向くとそこには目を細めて僕と誠を見つめる坂口の姿があった。

坂口の視線はとても冷たい。

誠は坂口の視線に顔を青くさせる。彼女は机の横にかけてあったお弁当箱を持つと教室を出ようとする。

彼女、これから一人で昼食をとるのか?


「なぁ、坂口」


僕は坂口の寂しそうな背中を見ていられなくなり、ついに声をかけてしまった。

僕が坂口を呼び止める声を聞いて、誠は止めるように僕の腕をつかんだ。

ゆっくりと坂口が振り向いた。

僕は坂口と目が合うと、


「よかったら一緒にお弁当食べね?」


と誘った。


さっきまで騒がしかったはずの教室が一気に静まり返る。

クラス全員が目を見開いて僕を見つめている。何かおかしいことでもしたのか。

そりゃそうだろう。あのクラスでも学年でもヤンデレと謳われる坂口を昼食に誘っているのだから。

坂口は小さくうなずいて、僕らの輪の中に入ってきた。

なんてことしてくれんだと僕に目線を向ける誠。坂口の席を取ったのは誰だよ、しょうがないだろ。


坂口はすとんと椅子に腰を下ろすと小さくありがとうと呟いた。

そこからはいつにも増して静かな昼食だった。坂口はちらちらと僕を見て、たまに誠に目線を向ける。


「なんで誘ってくれたの?」

「なんでって…寂しそうだったから?」


なんていえば、坂口は顔をうつむける。



昼食を食べ終えると誠は弁当箱を僕に渡す。


「旨かった!」


幸せそうな表情を僕に向ける誠。僕は返事を返して、空の弁当箱を引き取った。

一方、坂口はその様子を不思議そうに見ていた。


「やっぱり…二人は付き合ってたの?」


暗い表情で僕らを見つめる。誠は坂口の発言に驚きを隠せず、挙句の果てには爆笑した。


「うはははは、ひぃーひっひっひっ、、そ、そんなわけないだろ!」


誠は俺の肩に腕を回す。


「以前に俺たちは男だぜ?確かに辰也は女みたいかもしれねぇが」

「おい」

「こいつの母親が俺にいつもお弁当を作ってくれてんだよ」


誠はそう弁解した。のだが、坂口の表情はさらに暗くなる。鋭い視線が向けられた。


「それ、可笑しいよね?」


何か地雷を踏んだのか、坂口は細く尖った視線を僕たちに向ける。そんな坂口に誠は身の毛をよだらせる。


「僕の母さんは可笑しいんだよ。それは今に始まった事じゃない。あのお弁当に毒物も何も入ってないし、二人は気にしなくて大丈夫だよ」


僕がそう話すと不服そうに納得した。坂口は空になったお弁当を再度机の横にひっかける。

そして、


「私の席」


そういって、誠を自分の席から立ちあがらせた。

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