第三十一話 オタクと人形ちゃんはプールに行く
照り付ける日差し。塩素のなんとも言えないの匂い。大量の人。
僕は今、市民プールに来ていた。
市民プールに来ることなんて久しぶりで、小学校の頃、両親に連れてきてもらったとき以降、特に友達もいなかった僕は市民プールとは縁がないものだと思っていたが、まさか、美少女な友人と来ることになるとは。
久しぶりのプールということで、少しワクワクした思いを胸に秘めつつ、プールに入る前のシャワーを浴びて浮き輪や飲み物やご飯の入った袋などの荷物を持ち、さっさと休憩スペースの日陰に移動し、レジャーシートを引いてアリスさんが来るのを待っていた。
日焼け止めを塗りながら待っていたら、後ろから声がかかった。
「ごめん、用意させちゃって…待った…?」
「いや、これくらい大丈夫だ…よ…」
振り向いた先にいた彼女は、黒いビキニ型で少しフリフリが付いたものを着ていた。
少し照れたように頬をうっすらと赤くしながら「どうかな?」と言って視線をチラチラ送ってくる姿はあまりにも可愛すぎて固まってしまった。
「あ、あぁ、凄くかわいいよ」
「そっか」
何とかカタコトだが感想を言うと、嬉しそうに笑った。
その仕草や表情が僕の胸をドキドキさせて、頬が赤くなっていくのが分かる。今日一日心臓持つかな…。そんなことを思っていると、おずおずと日焼け止めを差し出してきた。
「背中…届かなかったから…塗ってもらってもいい…?」
「あ、ハイ、了解しました」
訂正、持たない。
こうして僕はアリスさんの日焼け止めを塗った。お互い顔を真っ赤にして塗っていたら、周りの人から白い目で見られたけど、羞恥心で僕らはそれを気にする余裕はなかった。
ちなみに、アリスさんの肌はクッソスベッスベで、触り心地がやばかったです。
***
「ここが、流れるプール…!」
そう言って、目を輝かせているのは、お腹に浮き輪を装着したアリスさんだ。
今日は特に泳ぐというよりも遊ぶ感じで来たので、お互いゴーグルはつけていない。
色々なところに行くたびに見せる子供のような見慣れた姿を見ながら、僕は変わらないなぁと苦笑いしていたら、いつものように不満げな表情を見せず、僕の手首をつかみ、「早く早く…!」そう言ってせかしてきた。
その反応は珍しいなと思いつつ、僕らは流れるプールに入っていった。
「あー…涼しい…」
「そうだね~…」
流れるプールに流されること数分。僕らはあまりの心地よさに完全にとろけていた。
僕らは二人並んでぷかぷかと流れていて、誰かと時々接触することはあるが特に転覆とかすることなく平和に過ごしていた。
「うおっ!やったな!!!」
「アハハ!!」
と、騒がしいプールの中で僕の目に留まったのは友達同士で浮き輪を転覆させまくっている子供たちの光景だった。
ふと、横でとろけているアリスさんに突然やったらどうなるのだろうと思い、僕はアリスさんの浮き輪ギリギリまで近づいた。
そんな僕を見たアリスさんは「どうしたの?」と疑問の声を上げたが、わざと無視してアリスさんの浮き輪に手をかけて、思いっきりひっくり返す。
「よいしょ!」
「きゃっ!」
と、短い悲鳴を上げて水中に沈んでいくアリスさん。
細い腕が浮き輪につかまり、体全体を穴に通すようにして浮かび上がってきた彼女は面白いくらいに不満げな顔をしていた。
「むぅううう……いきなりなに…」
「いや、な…プッ…アハハハハ!」
色々だ、ほんと色々面白くて爆笑してしまった。
君の表情も、関係もすべて面白い。
そんな爆笑する僕を見て彼女は不満そうな顔をして近寄ってきた。
「むぅうう…えい!」
「ちょ!」
そう言って、僕の浮き輪に手を伸ばすと思いっきりひっくり返した。
当然腕力だけでひっくり返らないのは分かっていたのか、彼女は足で僕の足をを水中で上の方までもっていき、重心がずれたタイミングで思いっきりひっくり返した。
まさか、やり返されるとは思わなかった僕は頭から水中に沈んでいった。
目を開けると、水色の美しい靄がかかった世界が広がっていた。
まぁ、景色を楽しめたのは一瞬で、絶賛反対向いてるので鼻の穴から大量の水が入ってきて死ぬほどつらい。僕は急いで起き上がり、プールの底を蹴って、一気に浮上する。
「ぷはっ…!死ぬかと思った…」
「それはそれは…クッ…アハハハハ!」
爆笑されてなんとも言えない気持ちになった僕はとりあえず、浮き輪の中に入って、手に水をすくい思いっきり爆笑している彼女の顔にかける。
パシャっと音を立ててきれいに顔面に直撃した。
「わっ!…やったな…!!」
そう言って、アリスさんも水をすくい僕の顔面目掛けて水をかけてきた。
「ちょ、目に入る!」
「クッ…アハハハハ」
「アハハハハ」
自然と笑い声が出てしまう。やばい、楽しすぎる。
こうして僕たちは、プールから出ないといけないアナウンスが鳴るまで、水を掛け合ったりひっくり返したりして、はしゃぎまくった。
***
その光景を見ていた一般人たちの反応
「あぁ…なんか初々しいカップルがいるなぁ…」
「いいわねぇ…ねぇ、あなた、昔あんな感じだったんですよ」
「クソッ、やっぱりイケメンが得をする世界なのか!」
「あの子可愛いけどナンパしてもシラけそうだし、やめとくか」
こうして、二人だけの世界は作られていった─。
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