第三十話 オタクと人形ちゃんはカラオケに行く

「おおぉ…」


「いや、そんな目を輝かせるようなところか…?」


駅前のカラオケに来た僕たちは、ジュースをコップに入れてカラオケルームの中にはいった。

選んだ部屋は四人部屋で、僕ら二人だと少々広いと感じる部屋だった。


アリスさんはここに来るのは当然のごとく初めてで、部屋に入ると同時に目を輝かせた。

そんな彼女を苦笑いをして微笑ましいものを見ているように眺めていると、頬を膨らませて不満げな表情をした。


「…私を見ている目が失礼な気がする」


「いや、何でもないよ」


入口に立ってるのも疲れてきたし、そろそろ座ろうか。というと、何か言いたげな不満げな表情を残しながら、しぶしぶといった感じで席についた。

僕は前に置いてある歌を選択する機械を持ってきて、アリスさんの横に座った。

すると、不思議なものを見るかのように機械を見てきたので説明をする。


「これが歌を入れる機械だよ」


僕は音程が目視できないと少しずれるタイプの人間なので、パパっと採点モードにしておく。

弄ってみる?そう言って機械を差し出すと。

恐る恐る手に取って、目を少し輝かせながらポチポチと操作し始めた。

曲を入れてみていい?と言われたのでいいよと言うと、一度は絶対聞いたことのある有名な恋愛ソングの題名がテレビに映し出された。

その光景を見たアリスさんは「おぉ…!」と感嘆の声を上げた。


そんなことをしていると、曲が始まりイントロが流れ出した。

どうすればいいのかわからず困惑しているアリスさんに、僕はマイクを差し出した。


「アリスさんが入れた曲だし、アリスさんが歌いなよ」


「私が…!?」


そう言って驚愕の表情を浮かべるアリスさん。

早くしないと歌が始まるよと催促すると、差し出したマイクを恐る恐る手に取り歌い始めた。

アリスさんの歌声は、ぶっちゃけやばかった。

採点で出た点数は九十七点。機械にもプロ歌手並みと評価されていた。

その評価を見て嬉しそうに笑う彼女をボケっと眺めていると、次は「拓斗くんの番」と言われ、機械を渡されのでいつも歌っているボカロを入れる。

イントロに入ると横にいるアリスさんが何かを思い出したかのように声を発した。


「あ、この曲知ってる」


「え?マジ?」


「うん、拓斗くんが鼻歌で歌ってることある曲」


「え?マジ?」


と、予想外の発言に思わず同じ言葉を二回返してしまう。

僕は鼻歌歌ってる時なんかまったく歌ってないつもりだったが、料理をしているときは歌っているらしく、この前自宅に泊まった時に聞いたそうな。クソハズイ。

予想外の告白に、動揺していたが歌詞に入ると歌の方に意識を集中させて羞恥心を消した。


そんなこんなで結果は九十五点とそこそこいい点数を取ることができた。

集中を解き、ふぅ…と一息つく。そんな僕をアリスさんは驚愕したような見開いた目で見てきた。


「どうしたの?」


「歌が予想以上に上手でびっくりした」


「そんなにか?」


驚愕するほどかと苦笑いすると、こくこくと首を上下に振った。

カラオケの得点の出し方は何となくだが練習してそこそこ出せるようになっているため、歌がうまいかと言われると僕は疑問だったが、アリスさんがうまいと言っているので上手いということにしておこう。


「まぁ、多少は練習したからな…ほれ、次何歌う?」


「んー今探してる…あ、あった」


そうして、僕らは交互に曲を入れて行った。

別に縛りというわけではないが、アリスさんは恋愛ソングを多く歌い僕はボカロ系を多く歌った。

ボカロの恋愛系を歌うとアリスさんが何故か嬉しそうな顔をするので後半は、恋愛系のボカロを多く歌った。


そして、終了間際になり、そろそろラスト一曲どうしようかと声をかけようとした時アリスさんからリクエストが入った。


「ねぇ、この曲一緒に歌おう…?」


そう言って提示された曲は、デュエットで歌う恋愛ソングだった。

僕も何度か聞いたことがあり歌えるので、了承すると嬉しそうな表情をしてその曲を入れた。


僕は誰かと歌うなんて中学の頃の合唱振りで、緊張していると、そんな僕を見てクスクスとアリスさんは笑った。


「肩が上がってる、もっと力を抜いて」


「お、おう」


そう言われ、若干頬に熱を持たせて息を大きく吐いて言われた通り力を抜く。

まだ少し緊張しているのが分かるのか、何か優しい目で見られたけど、曲のイントロが始まるとお互い曲に集中し始めた。


そうして始まったデュエット曲。

最初はお互いぎこちなかったが、最初のサビに入るころには慣れて、そっからは予想以上うまく歌えてしまった。

歌い終わり点数が出ると僕らは、自然と手を上げてハイタッチをした。

ちなみに点数は本日最高の九十九点だった。


帰宅した後その行為を思い出し、ハイタッチを自然とできるようになるんて、ほんと、友達やってんなぁ…と思ったりしていたが、ラインでアリスさんに『自然とハイタッチしましたが、凄く友達っぽくって良かったです』と同じこと言われて、なんか似た者同士だなと少し笑ってしまったのはここだけの話。

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