第二十話 オタクと人形ちゃんはコイバナをする
「拓斗くん、どうしましょう」
「いや、僕に聞かないでもらってもいいですか?」
お互いパジャマ姿でベッドの上に正座すること数分。
お互いの頭の中はこの一言で埋め尽くされていた。
(パジャマパーティーって何すればいいの???)
と、平穏に晩御飯を食べて、お風呂に入ったまではよかった。
でも、そこから先が、グダグダだった。
まず、お互い他人のパジャマ姿なんか見慣れているはずもなく、顔を赤くしてお互い直視することすらできなかった。
それで、何とか喋れるくらいに落ち着いた時、アリスさんが「ベッドの上でパジャマパーティーするって聞いた」と言ったので、ベッドの上に移動。
ここから何すればいいのか、お互い全く分からず冒頭に戻る。
「とりあえず、調べましょう」
そう言って、彼女が手に取ったのは最強の文明の利器、スマホ。
最初から使うか先に調べとけやとも思ったが、今までのアリスさんの行動を考えてみると、あっ、絶対ノリと勢いだけでどうにかしようとしたなこいつということが分かってしまう。
そういう姿も、微笑ましく思ってしまうのだから、そろそろ末期だと思う。
「見つかりました」
「お、なんて書いてある?」
「コイバナが定番って書いてあります。というわけでやってみましょうか」
というわけでやってみましょうか…?
え?なに?僕らコイバナするん?
「………え?マジで言ってる?」
「はい」
疑問の目を向けると、彼女は相変わらずの無表情で返事した。
マジかいな。僕、アリスさんが初恋なんですが。え?ここでバレるん?辛ない?
「他はなかったの?」
「だらだら喋るだけでもパジャマパーティーにはなると某百科事典には記載されてました」
「そっちではだめなの…?」
「ここはオーソドックスに…?」
「さいですか」
「さようでございますよ」
どうやら、アリスさんはコイバナがしたいらしい。
どうにかして、バレないようにしないと。
そんなことを思っているうちに、質問が始まった。
「初恋はいつですか?」
「んー、つい最近かな…?」
「えっ…?」
僕の回答に、大きく目を見開くアリスさん。
その目は、驚きと不安が混じってるように見えた。
どうしたんだろうと思ったが、すぐにいつもの表情に戻った為、僕は気にしないことにした。
「アリスさんは?」
「私ですか?同じく最近ですね」
「ほうほう」
その回答に僕は、胸がキュッと締め付けられるような感覚に陥った。
最近ということは、最低でもここ数年ということだ。彼女の好意的な感情をだれかに向けていると思うと、胸が苦しかった。
彼女はスマホの画面をスライドして、次の質問を問いかけてきた。
「それでは、その人とどんなことをしたいですか?」
「どんなことって言われると…んー、悩む」
はっきり言えば、キスとかしたい。けれど、これ口に出すと、もし、アリスさんのことが好きだとバレた時に引かれそうだから、口に出すことはできない。
「え?そんなにあるんですか?」
「うん、まぁ。アリスさんは?どんなことしたい?」
「私…ですか…?そうですね…いろんな場所に行ってみたいです」
私は、いつも独りぼっちでしたので。
そう言って、目を伏せた。
「まぁ今は友人の僕がいるし独りぼっちじゃないさ」
「え…」
「その好きな相手が誰かわからんが、今は一人じゃないそれだけは覚えといてくれよ」
「そう…ですね…」
そう言って、僕の目をじっと見てきた。
僕は彼女が何を思っているのか全く分からず、恥ずかしくなり、視線を横にずらしてしまった。
「初恋の人の名前を出すのは…いや、ですよね…」
「そうだな…」
お互いの考えが一致したのか、そこで黙ってしまう。
そして、多分それが最後の質問だったんだろう。完全に会話が途切れてしまう。
僕は特に話すネタなく、ここからどうしようかと考えていると、アリスさんが小さな声をボソッと漏らした。
「じゃあ、ミイってどんな存在の人だったんだろう…」
「え…?」
僕は、驚いて彼女のことを凝視してしまった。
どこでその名前を知ったんだろう。
彼女はこの言葉がまさか聞こえてしまうとは思っていなかったらしく珍しく少し焦った。
この部屋は僕ら2人しかおらず、エアコンの風を送る音がしっかりと聞こえるほど静かな部屋だった。夜も遅いため、外に車も走っていないから、その声はしっかりと僕の耳に届いてしまっていた。
「あ、あの、寝言で言っていたので…その、気になったのです。私が初めての友達と前に言ったじゃないですか…」
「うん、そうだね」
そういうと、彼女は不安そうな瞳で僕を見てきた。
「だから、気になったのです、あなたが、寝ているときにうわごとの様に呟いて辛そうな顔で泣いてました。その存在があなたにとって、どのようなものなのか、知りたいなと…私はあなたが辛そうな顔で泣いている姿なんて見たくないから…」
「そっか…」
多分彼女は友人として、僕のことを心配したのだろう。
だから、こんなコイバナをやろうだなんて言い出したのか。その存在のことを知るために。
ここまで引きずってるとなれば、大切な存在。友達では無いから初恋の相手かもしれないと思っても不思議ではない。
だから、気付かれないように、出来るだけ触れないように知ろうとしたところに、に彼女なりの気遣いを感じられ、僕は少し嬉しく思ってしまう。
だから、僕は彼女に僕の過去を話す決意をする。
多分、普通の人なら僕の過去は引かれて、僕は避けられるようになるだろう。
でも、彼女は受け入れてくれる。なんの確証もないが、なぜかそんな気がした。
もう二度と大切な人を作らないと決めた過去。それを乗り越えてできた大切な人だから、ごまかさず、すべてを話そう。
「ミイは…僕の昔の家族なんだよ」
「えっ…」
「少し長くなるけどいいかな…?」
そういうと、彼女は真剣な表情でコクリとうなずいた。
さぁ、語ろうか。僕が、惨めで何の力もなく、ただひとつの大切な存在すらも守れなかった過去を。
僕が背負い続けると誓ったものを。
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