第十九話 オタクと人形ちゃん、目が覚める
…暖かい。それと、果物のようないい匂いと、そこに混じった汗の匂いがする。
ここはどこだろう。
今わかることは、僕は抱き枕のような何かに抱き着いているということだけだ。
それ以上のことは眠たい頭では何も考えれんとなり、僕はとりあえず温もりを求めて、いい匂いがする暖かい物体に抱き着く力を強めた。
「…んっ」
と、強く抱きしめた瞬間、聞きなれた声が頭の上らへんから聞こえた。
疑問に思い、重たい瞼をゆっくりと開けてみると、目の前にあったのは、真っ白な壁だった。
いや、壁というか、ふたつの小さなふくらみとうっすらと透けて見える二つの同じ形をした布…。
嫌な予感がして、ゆっくりと頭を動かして上を見てみると、そこには、見慣れた友人の顔があった。
その瞬間脳みそが一気に覚醒して、状況を把握した。
…もしかしなくても。抱き合って寝てるのか。
さて、状況を把握したのはいいのだが、そこまでの過程がわからない。
まず、体勢としてはアリスさんが僕の頭を抱きかかえるようにして寝ていて、僕は彼女の胸に顔を押し付けるように寝ている感じだ。
とりあえず、少し離れて状況整理をしようと体を動かそうとしたが、彼女の細い腕からどこにそんな力があるのかと思うほど力強く頭を固定され動くことができない。
どうやら、アリスさんが起きるまで僕はこの体勢でいないといけないらしい。
この体勢でまずいことと言えば、とりあえず、理性が死ぬ。
彼女の柔らかい胸や四肢。そこから伝わってくるこの少し肌寒い部屋には心地いいい温度、呼吸の音や、心臓の動く音、いつものいい匂いに、寝て少し汗をかいたのか、うっすらと匂う汗の香り。
僕の体の中まで彼女に侵食されているような気がした。
さて、そんな状態なのだが、相手は僕の初めての友達で、しかも、美少女だ。
こんな体勢で、邪な考えが思い浮かばなわけもなく─。
もう少し強く抱き着いても…いいよな…?
そう思い、彼女の胸に顔を押し当てて、ギュッっと強く抱きしめる。
彼女のよりしっかりとした匂いが、僕の中に入ってくる。
心臓の音がよく、聞こえる。
彼女の存在を強く感じる。
あぁ、好きだな。
そう思った。
彼女は無表情の完璧超人のように見えるが、僕の前で見せる姿は、どこか抜けていて子供っぽい。裏表があるように見えて、全くない。
それが、僕がこの一か月、一緒に居て思った感想だ。
こんな、いい子で美少女な彼女のことを異性として意識するなという方が不可能なわけで、気が付いたら僕は、彼女のことが好きになっていた。
まぁ、それに気が付いたのは今だが。
あまりにも遅すぎる気付きに僕は思わず苦笑いをこぼした。
首を動かし、彼女の顔を見る。そんな僕の心情なんてつゆ知らず、熟睡している彼女を見て、心の奥から暖かい気持ちが湧き上がってきた。
今なら、寝ぼけてたってことで言い訳が効くだろう。そう思い、もう一度顔を彼女の胸に埋める。
もう一度、彼女の存在が僕の中で強くなる。
僕は、アリスさんが目の前にいるということに安堵したのか、もう一度眠気が襲ってきた。
多分、アリスさんが起きたら、僕を起こしてくれるだろう。
そう思い、僕はまた意識を暗闇の中に落としていった。
***
「…た…くん…拓斗くん」
聞きなれた声が聞こえて、僕の意識は深い闇のそこから少しずつ浮上していた。
重い瞼を開けるとそこには、アリスさんの顔があった。
あぁ、そいえば、抱き合って寝てたなと回らない頭で寝る前のことを思い出す。
「ねぇ、今何時か分かる?」
「え…?」
そんなことを言われ、ベッドの上に置いてある時計を見ると夜の十時半を指していた。
確か夜十時以降は補導されるよな…ん…?補導…?かえ…れ…な…い?
ここまで来て、今朝のことを思い出す。
そう言えば、スーツケース持ってうちに来たよなこいつ。
…あれ?もしかしてお泊り確定??
「アリスさん、お迎えは…?」
「ないよ?」
「もしかして、お泊りですか?」
「うん」
そう言われて、僕は頭を抱えた。
いや、一緒に同じベッドで寝てて、お泊りはダメとは言えない。
僕の目の前には、「お泊り…初めて…!パジャマパーティー…!」と無駄にテンションの高いアリスさん。
そうですか、楽しみですか。
僕は、今夜一晩一緒に居て理性が崩壊しないか心配です。
「はぁ、とりあえず、朝飯以外食べてなくてお腹空いたからご飯にしようか」
「わかった」
そう、なんやかんや言って、昼飯を逃して、いつも夕飯を食べている夜七時も過ぎているため、僕のお腹はかなり空いていて、結構限界だった。
まぁ、とりあえず、飯で時間稼げばいい案も思い浮かぶだろうという、僕の浅はかな考えもあったりするんだが。
「夜寝るときも一緒に寝ようね?」
「…え?」
「ついさっきまで一緒に寝てたのにダメだなんて言わせないよ…?」
「あ、ハイ」
こうして、夜一緒のベッドで寝ることは確定してしまった。
「よし、これでパジャマパーティーができる!」
と、上機嫌になるアリスさん。
その姿は都市不相応に子供っぽくて、それでいて容姿に合っていて凄く可愛らしく、自分の思いを自覚した今、「僕明日の朝、マジで逮捕されてないかな」と不安に思ってしまうほど、彼女は魅力的だった。
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