第十七話 オタクの家に人形ちゃんが襲来する
七月二十七日
とうとう、アリスさんが自宅に来る日になってしまった。
そんな中、僕は今、絶賛寝不足で死にそうです。
いや、楽しみで寝不足になったわけではない。
まず、友人でありしかも美少女であり令嬢でもあるアリスさんが初めて自宅に来るのだ。念入りに掃除しないといけないだろうと思ったのが前日の夜の九時。で、今は朝九時。約十二時間も掃除をしていた。バカじゃないのか。
まぁ、過去の自分を恨んでも仕方ない。
僕は目をこすり、無駄に綺麗になった部屋をコーヒー片手に眺めながら、アリスさんを待つこと約十分、約束した九時十五分ピッタリに「ピンポーン」と来客を知らせる音が鳴った。
手に持ったコーヒーを一気飲みして、無理やり頭を覚醒させてから玄関に向かう。
「いらっしゃ…い…?」
ガチャリと音を立てて扉を開けると、巨大なスーツケースを持った白いワンピースに麦わら帽子をかぶった、見慣れた顔があった。
ちょっと待て、情報量が多すぎる。
まず服装。こんな街中で麦わら帽子ってなんだよ。日傘さしてこいや。
次にピンク色の巨大なスーツケース。下にコロコロが付いていて、ある程度こすった痕跡が見られるため、多分ここまで引いてきたんだろう。何が入ってやがる。
「どうしたんですか?そんな私のことをジロジロ見て」
「いや、どうしたも何も…とりあえず、そのスーツケース何?」
「あ、これですか?お泊りグッツです」
「はぁ…」
また変なものを持ってきたな。お泊りグッツなんて。うちでどう使おうっていうんだよ。まさか泊まるわけではあるまいし…?ん?お泊りグッツ…?宿泊用の…?
「はぁ!?なに?アリスさんうちに泊まる気できたの!?」
「ダメでしたか?」
「色々ダメだと思うのですが」
相変わらずの無表情で返されて、僕は反応に戸惑ってしまう。だって、お泊りだぞ。美少女が。マジでなんでこうなった。
「ところで、外は暑いのでそろそろ家に上げていただいてもいいですか?」
「あ。はい、どうぞ」
「では、お邪魔します」
そういって、礼儀正しく玄関で小さくお辞儀をして部屋の中に入っていった。
僕はその姿をただ唖然と見ていることしかできなかった。
***
「ここが拓斗くんのお部屋ですか」
「まぁ、ハイ。そうです」
なぜ、アリスさんが僕の部屋に居るのかというと、あまりにもきれいに掃除し過ぎたリビングには何も物がなく、マジで何もすることがなかった為、僕の部屋に移動となった。
僕の部屋はよくも悪くも物であふれている。
部屋の端に飾った昔作ったプラモ。本棚に所狭しと並んだラノベと漫画。あとは自作PCに工具。部屋の中央にはちゃぶ台サイズの机(冬はこたつに変身する)。あと、端っこにベッド。
これが、僕の自室だ。ちなみにリビングはソファーに机、テレビにテレビゲーム機しかない。うん、なんも遊べんわな。
「拓斗くん、ベッド座ってもいい?」
「ん?いいけど、下に座らんの?一応座布団あるけど」
「アニメで友達と一緒にベッドに座って漫画見てるシーンがあって、仲良さそうで私たちでもやりたいなって思ったの」
「さいですか」
「さようでございますよ」
と、ベッドの端に座り、可愛らしくニコっと微笑むアリスさん。
最初の無表情キャラはどこ行ったんですか。
ポンポンとベッドの空いている部分をたたいて、ここに座れと目と行動で訴えかけてきた。
僕は、小さくため息をついて、アリスさんの横に座った。
「ふふふ…」
そう言って、僕に密着してきた。
いつも通り少し高い体温。お互い薄着のため、いつもより正確に伝わってくる肌の柔らかさ。そのどれもが、僕には毒だった。寝不足で時々はっきりしない頭では理性を完全に抑えきれる自信がなく、いつか暴走するんじゃないかとおもってしまった。
「ねぇ、拓斗くん。これ一緒に読もう?」
そういって差し出したのはスマホ画面。そこに写っているのは最近漫画化した、妖怪と天使が戦う漫画だった。
「えっと、なんでこれ?」
「拓斗くんがおすすめした漫画…これだけまだ読んでなかったから、一緒に読みたいなって」
そういって、少し頬を赤らめるアリスさん。
その表情に、僕は何も言えなくなって、固まってしまった。
その隙に、えいっと言って、抱き着くように密着してきた。
「あの、さすがに近すぎませんか?」
「画面が小さいから、これぐらい密着しないと見えない。ほら、一緒に読もう?」
そう言って、画面をスライドして一ページ目を開けた。
これは何を言っても変わらんなと思い、僕は、この状況を極力意識しないために、漫画に意識を向けた。
画面の中では、主人公がボロボロの状態からスタートした。そして、暖かい心を持つ者たちによって、心身ともに回復した主人公はその者たちを守るために戦いに身を投じていく。
前半はわりと緩い感じだったのだが、後半になるにつれて、エロ要素と戦闘シーンが増えていく。その一つ一つに反応するアリスさんがかわいくて、全く内容が入ってこなかった。
過去に小説で読んだことがある作品な為、ある程度は補完できたので、まぁ、それで良しとしよう。
「面白かった…!」
「そうだね~、原作小説だから、コミカライズはどうかと思ってたけど、かなり作りこまれてて面白かったね」
「リンネが覚醒するところとか、すごくいい…!かっこよかった!」
「僕はユキが自分を犠牲にして千鶴たちを助けるところが好きかな」
「そこもよかった…!」
冊数としては七冊ほどで、割と長かったが、戦闘シーンは会話文が少なくサクサク読めるのでそこまで時間はかからなかった。と言っても三時間ほど密着した状態で僕らは小さな画面を見ていが。
その態勢のまま、自然と僕らはこの漫画の感想を言い始めた。
どうやら僕らの感性は似ているらしく、同じようなシーンを好きになったりしていた。
「あ、もうこんな時間」
「楽しくて忘れてたけど、そういえば、お昼ご飯食べてなかったね」
時計を見ると昼の二時半を指していた。
こうやって、一緒に読んだり読んだ直後に感想を言い合うなんて初めてで、あぁ、これが友達かなんてしょーもないことを思っていたが、まさか、時間を忘れるほどっ喋っているとは。
と、少し疲れた寝不足の頭でボケーっと考えていると、気が付いたら、アリスさんがお手洗いに行ってしまった。
静かな部屋に一人取り残され、喋り見て、理性を削られ、誰かと好きな場面を喋っているという興奮からも冷め、眠気がピークとなった今、僕の睡眠をだれも止めれる人はおらず、気が付いたら僕はベッドに体を倒していた。
そして、心地の良い眠気が僕を包んでいき─僕は意識を深い暗闇に落としていった。
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