第十二話 オタクと人形ちゃんの寄り道だらけの帰り道
「そういえば、拓斗くんの家ってどの辺にあるの?」
「あー、ゲーセンの時の分かれ道を奥に行ったとこのマンションに住んでるよ」
「ほう…」
日は沈み、少し涼しくなった帰り道。
たわいのない会話をしながら、二人並んで下校していた。
二人一緒に帰るのは、ゲームセンターで出会ったとき以降で、あれから関係が変わったなとしみじみと思っていた。
「拓斗くんってそのマンションで何人で生活してるの?」
「うちか?今は一人暮らししてるよ」
「え…」
そういえば、だれも僕が一人暮らししてるってこと知らないということに気が付いてしまった。友達はアリスさんしかいないし、クラスのやつらとは全く喋らないしで、そもそもそんなこと話す機会がなかった。なんか悲しくなってきた。
ふと、横にいたアリスさんが立ち止まったので、どうしたのかと視線を向けてみると、驚愕の表情で僕のことを見ていた。
「…え?弁当は毎日自分で作ってるの…?」
「ん?まぁ、前日の夕飯やら冷凍食品やら組み合わせて作ってるよ?」
「おぅ…」
いつも通り短い反応をして、頭を抱えた。
「もしかして、拓斗くんって料理とか得意?」
「まぁ、昔から作ってるからそこそこは?」
「弁当のクオリティが完全に主婦だと思うんですが…」
「そうか?」
「うん」
女子力でも負けたと絶望的な表情になるアリスさん。
僕としては、こうしないと月の食費がカツカツになるので、余裕を持つために自然と身についた技術だから、これを女子力と言っていいのかと思ったが、別に運動神経とか勉強とか勝ってるのにんな大袈裟な反応をされて困惑した。
さて、どう声をかけようかと悩んでいると後ろから急に誰かに抱きしめられた。
「やぁ、少年。そんな美少女を連れてどこに行こうというのだね?」
「え?ラギ姉?」
聞き覚えのある声に驚きつつ、声の方へ首を振り向くと、髪の毛を銀色に染めた見慣れた女性が居た。
アリスとは違うタイプの整った容姿。
アリスとは違う匂い。主に酒の匂い。あと、その酒の匂いに混ざっている嗅ぎなれた優しいにおい。あぁ、やっぱお前か。
「ガラケー女」
「ぶっ殺すぞお前、ガラケー今年卒業したわこのクソガキ」
「え?まじ?」
「うん、まじまじ、ライン交換しようぜ」
「いいよ」
と、僕に抱き着きながら酒臭い口で「ふへへ」とほほを緩ませて笑った。
このやり取りも懐かしいな、何年ぶりだ?と、懐かしい思いがこみ上げてきて、ラギ姉との関係が頭の中で浮かび上がってきた。
この女性は僕が住んでるマンションの隣の部屋に住んでた女性で、名前は楽木銀。通称ラギ姉。容姿は銀髪で気の強い女性って感じで、無駄に整った容姿をしている。
ラギ姉とは無駄に仲のいいご近所付き合いをしていた為、僕のことをよく知る人物であり、一時期勉強を教えてもらっていた為、僕が教師のように姉のように慕っている人物だ。
年齢は今年で二十四歳。彼氏はいる。というか今後ろで腕を振りかぶっている男性だ。
「オラァ!」
「いったあああああぁぁぁああぁぁ!!」
と、とんな掛け声とともに全力で振り下ろされる拳。
その拳は見事にラギ姉の頭の頂点に当たり悲鳴を上げて、ラギ姉はその場にうずくまった。
「ふぅ、拓斗くん。迷惑をかけたね」
「いえいえ、今後は手縄を握っていただけると助かります」
「ははは、申し訳ない…」
と、疲れたように笑うのはラギ姉の彼氏で名前を鈴木直也というさわやかイケメンだ。
この人は僕が兄のように慕っている人物で黒髪黒目のザ日本人という感じの容姿をしている。
「あの、拓斗くんこの人たちは…?」
と、困惑した様子でアリスが聞いてきた。そういえば、アリスってこの人たちとは初めましてだよな。そんなことを思い一人ずつ紹介していく。
「このうずくまってる女番長は楽木銀、通称ラギ姉で僕の姉のような人で拳骨落としたのは鈴木直也さん、直也さんは僕の兄貴のような人だよ」
「ほへぇ~…」
珍しくポケーっとした反応をする。まぁ、確かに唐突にこんな茶番劇が始まったらだれでもこうなるわな。
「どうも初めまして、鈴木直也と申します。えっと、拓斗君の御学友で大丈夫かな?」
「は、はい。柊有栖と申します…」
と、お互いの自己紹介をすると、アリスさんは恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして僕の背後に回り、背中に隠れるように僕の背中に密着して、僕の体の横からの直也さんのことを見た。
そいえばこいつコミュ障だったな。今の年まで友達いないくらいの。
そんな行動もいちいち可愛いなと思いつつ、苦笑いを浮かべていると酔っ払いがガバッと起き上がった。
「たーくん、そんな美少女の友達できたの!?」
「うん、酒臭い叫ぶな」
「ははは…申し訳ない…」
顔が近くして叫ばれて、クッソ酒臭いにおいが僕の鼻の中を通過していく。
割とマジで嫌そうな表情をしたのか、直也さんは非常に申し訳ないような表情をした。そんな表情するくらいなら止めてくれ、あんた彼氏でしょうが。
「そんなことより、ここで立ち話もなんだから居酒屋行こうぜ!」
まぁ、目の前の酔っ払いはそんなことはどうでもいいのか、アホみたいなことを言い出した。
いや、あの、僕ら帰り道なんですが…。
さて、どう断ろうかとチラッとアリスさんを見ると、目を輝かせて「いざかや…!!」と、小さく呟いていた。
あ、すっごい嫌な予感がする。
そして、その嫌な予感は、数秒後に現実となった。
「あ、あの!私門限二十二時までなので、二十一時までなら居酒屋…その、行ってみたいです!」
「おーおー!そうかそうか!友人が付いてくるっていうんだからたーくんもついてくるよなぁ?」
と、目を輝かした美少女の肩に腕を回して、上機嫌でゲラゲラ笑いながら拒否権ねぇぞと、冷ややかな目で僕のことを見てきた。
「あ、はい」
「いや、拓斗くんほんとにごめんね?」
「昔からなんで慣れてます…」
「ほんとごめん…」
こうして、僕たちは居酒屋に向かうことが決まった。
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