第九話 オタクと人形ちゃんの関係

「…まじ?」


「(こくこく)」


僕は驚愕の目で、目の前の美少女を見ていた。


昼休み、僕らはすっかりおなじみになった空き教室でお弁当を食べていた。

その時に、昨日なぜ眠そうにというか、実際に寝てしまったのかを聞いてみると、かなりえぐい内容が返ってきた。


「まさか、ワン〇ース全巻読み切るとはなぁ…」


「すごくおもしろかった…!」


そういって、目を輝かせた。いや、そこはいいんだよ。反応子供っぽくてかわいいんだけどね。


「それで、夜更かしして昨日はほぼ徹夜で学校に来たから、ああなったと」


「う、うん…」


「はぁ…」


昨日、昼休み寝てしまった理由もかなり子供っぽかった。

要は、作品が面白すぎて気が付いたら朝まで読んでたらしい。うん、子供かな?

まぁ、どこか子供っぽいところがあるというのは今に始まったことではないので、そこは置いておく。


「昨日も言ったけど、ほんと、男は何するかわからないから、あんま無防備な姿見せちゃいかんよ?たまたま昨日の僕は何もしなかっただけであって、今日は何かするかもしれないし…注意しといてね?」


「はい、ほんとに申し訳ないです」


昨日含めて何度目か分からない注意をすると、柊さんはしゅんとなった。


「最近僕の目の前での気が抜けすぎじゃない?」


「それは、私もほんとにそう思います…」


「まぁ、それだけ信頼してくれてるのはありがたいけど」


「そっ、そうですか…」


ボソッと出てしまった言葉が聞こえてしまったのか、お互いの頬がほんのりと熱を帯び視線を下にさげる。

そうだよな。この部屋は静かにしてたら時計の針の音が聞こえるくらい静かなんだ。そりゃ聞こえるよな。

チラッと柊さんの方を見る。すると、柊さんもちょうど僕の事をチラッと見たらしく視線があってしまい、僕らはサッと視線を逸らした。


「…ねぇ、西宮さん」


「ん?」


「この、一緒にいて心地いい、気が置けないような関係を、友達…というのでしょうか?」


「あぁ、そうかもしれない」


友達─。そう言葉にされると意外とスッキリして、その言葉にストンと落ち着いた。


「初めてだな…」


「え?」


「僕はこれまで友人と呼べる関係の人が居なかったんだよ、だからなんか…嬉しいなって」


「そう…ですか…」


ほんと、情けない話だよな。この歳まで友達が居ないって。

確かに、血のつながった家族ではないが親しい人はいる。でも、その人との関係は友人というより教師と生徒、姉と弟の関係に近い。そもそも、僕は一時期人間が嫌いだった時期がある。そこから、こんな可愛い友人が持てるようになるとは全く思ってもいなかった。だから、情けないと思う反面、初めての友達がこいつでよかったなと思う自分がいる。そんな自分に苦笑いをしていると、ぼそぼそと柊さんが羞恥に声を震わせて、呟き始めた。


「わたしも…」


「ん?」


「私も、友達ができたのは初めてです…その、私も…私も…すごくうれしいなって…」


そういって、こちらを向き「えへへ」といつも無表情な顔をだらしなく緩ませて、ふやけるに笑った。

その表情の破壊力はすさまじいもので、直視してしまった僕は思わず見惚れてしまい、固まってしまった。やばい、浄化される。


「そ、それでですね…友達って何をすればいいのでしょうか…?」


「…それを、ボッチな僕に聞くのか」


何言ってんだこいつみたいな感じで視線を送ると慌てて否定した。


「い、いえ、ただ、ライトノベルや漫画はそういった題材のものが多いって調べた時に書いてあったので…そういった知識がない私よりは、多少は分かるかと思い…」


「あー…」


そう言われて、少し考えてみる。

今まで読んだ物語の中で男女が友人となる話─そして、その物語のキャラクターと自分たちの立場や行動を照らし合わせていく。


「まぁ、何も変えなくていいんじゃないか?」


「え?」


でた結論としては、これまでと変えない。いや、変わるのかも知れないが、それはそれでいいのではという、完全に風任せな答えだった。


「誰にでも歩幅はあるんだよ。それを何かに合わせようとすると、足が絡まってコケるんだよ、だから、僕らの歩幅でいいんじゃないかって」


「そう……だね……」


この関係も、いつかは終わるものかもしれない、進展して何か変わるかもしれない、それとも一生続くのかもしれない。

まぁ、そんなことは今の僕らには関係ないし、僕らの関係は変わるようで変わらない。少しづつの変化はあるのかもしれない。その変化に気がつくことなく過ごしていけば、それはいつしかその時の普通になる。

そんな変わりゆく関係を僕は何故か面白く、楽しく感じた。

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