第六話 オタクは人形ちゃんと弁当を食べる

時刻は12時半。僕は弁当を持って、3階の空き教室に来ていた。なぜこんなところに居るのかというと、それは、真横に居る栗色の髪の毛を持つ無表情な美少女と一緒にご飯を食べるためだ。


この教室は、物置として使われていて、たくさんの高く積まれた段ボールとその中央に少し古くなった校長室に元々置いてあったという机とソファーが一つ置いてある。


ちなみに、どんな感じでこの部屋を借りたかというと、柊さん曰く、「勉強をするのですが教室では集中できないので、空いているこの部屋を借りたいです」といったところ一発で通ったらしい。流石主席。先生も疑うことを知らないとは、やばい発言力だな。


「「いただきます」」


そんな話はさておき、僕たちは、弁当を食べ始めた。

柊さんは、可愛らしいピンクの小さなお弁当に色とりどりのおかずとご飯という、いたって普通の弁当だった。野菜多めな感じで、だけれど、その一つ一つがきれいに盛り付けられているところを見ると、すべて手作りということがわかる。

そして僕の方は、無駄に凝った弁当になっていた。唐揚げと卵焼きにほうれん草の胡麻和え、タコウィンナーにプチトマトと昨日の残飯の白米といった感じになっている。前日から仕込みをしていたので、唐揚げの下味はしっかりとついていて、かなりおいしい。ちなみに、ニンニクと醤油につけたのだが、醤油は少し多めにしたので味は濃いめになっている。

卵焼きも無駄にきれいにまいて、卵は砂糖を少し混ぜて甘めに仕立ててある。タコウィンナーとほうれん草の胡麻和えとプチトマトは見たまんまである。

はっきり言って、気合の入りすぎで、ここまでする必要があったのかという感じになっている。いや、なかったと思う。

もっと手を抜いて楽すればよかったと後悔をしていると、柊さんがまじまじと僕の弁当を見てきた。


「ん?どしたの?」


「…あの、卵焼きおいしそうだなって、それ手作り?」


「うん、そうだよ。一個食べるかい?」


「(こくこく)」


どうやら、僕の弁当の卵焼きが欲しかったらしくて、見てきたらしい。

ところどころ子供っぽさがあって凄くかわいいなこいつ。


そんな感想を抱きつつ、手に持っていた弁当箱を柊さんの方に差し出すと、おそるおそる卵焼きを取って、口に入れた。


すると、相変わらず無表情だったのが、少し崩れて子供っぽいうれしそうな笑顔を浮かべた。

どうやらその反応を見るに、柊さんの口に僕の卵焼きはあったようだ。

その反応に安堵していると、柊さんは自分の弁当を睨み悩みだした。そして、一つの具─肉団子を一つ、可愛らしい箸で丁寧につかんで僕の方に差し出してきた。

あれ?デジャビュを感じる。


「それ、僕が食べていいの?」


「…うん」


多分、行動原理としては前回のUFOキャッチャーの時と同じで、貰ったものには何か返さないとという考え方が染みついているんだろうか。

にしても、こういう行動を無自覚にやられるとほんとに困る。仮にも僕は、美少女に耐性のない陰キャなんだ。そんな行為をされるとぶっちゃけ勘違いしそうになる。やめてくれ。ほんとに、心臓に悪いから。


「お前、自分がどんな行為をやってるかわかるか?」


「????………っ!?」


そう言葉にしてみると、少し目を閉じて自分の状況を考え始めた。

そして、初めは疑問に思っていたが少しづつ何かに気が付いった。そして、ハッとした。

ゆっくりと目を開けて、自分の持っている箸とその先端にある肉団子と僕を交互に見て、自分のやっている行為に恥ずかしさを覚えはじめたのか、少しずつ顔を真っ赤にしていった。


それを下げるに下げることのできない状況だし、顔が少し赤くなったあたりからさっさと食べたほうがいいのは分かったが、先が揺れていて、きれいに口に入れるのは困難だと思われるため、少し待っていたら向こうが自分の行動に我慢できなくなったのか、僕の口に無理やり肉団子を入れてきた。

とっさのことだったが、うまいこと口を開けることができてしっかりと肉団子は僕の口の中に納まった。そして、顔を真っ赤にしてご飯をがつがつと食べ始めた。

あ、肉団子くそうめぇ…絶対家政婦やら料理人が作ってるだろこれ。


あぁ、そんな勢いで食べると喉が…と思っていたら、案の定それで喉を詰まらせて急いでペットボトルのお茶を飲んだ。

胸をたたいて、ご飯を無理やり流し込むと僕のことをキッとした目で睨んできた。


「…言わなければ、気が付かなくて恥ずかしくなかったのに…いじわる」


「その行動をすることに僕が恥ずかしさを覚えたんだよ…なら、僕が同じ事やってろか?」


「え?」


そういって、唐揚げを一つ箸でつまみ柊さんに差し出した。

柊さんは、僕と唐揚げを何度も交互に見てた。そして、どんどん顔が赤くなっていく。

僕はその顔色の変化を見て、いじわるそうな顔をした。


「ほら食えよ、おいしいぞ」


「うっ……」


「食べられないなら食べさせてやろうか?ほら、口開けて─」


真っ赤な顔で、カラメル色の瞳を羞恥で左右に動かしていたが、僕がそういうと、目をキュッと閉じて、小さな口をゆっくりと開いた。

何この、くそ可愛い生物。浄化されそう。

そこまでやったのはいいが、ぶっちゃけた話やっている僕もかなり恥ずかしいのだ。

唐揚げ、そこそこ大きいから口に入るかななんて思って、気をそらしつつ、ゆっくりとその可愛らしい口に唐揚げを入れた。

入れる途中で少し大きめに口を開いてくれたおかげで割とスムーズに唐揚げは口の中に入っていった。


箸を口の中から抜くと、柊さんは顔…というよりも首くらいから真っ赤に染めて、顔を手で覆い後ろを向いた。

僕は、柊さんがその行動をとってくれてよかったと安心した。だって僕も顔が発熱していることが分かるくらい、赤くなっているだろうから。あー、くそ恥ずかしかった。


そして、顔のほてりがお互い収まったころ、僕たちはまた弁当を食べ始めた。

時計を見ると、あと十分で昼休みが終わってしまうため、二人そろって急いでご飯をかきこんだ。

そして、教室に二人で戻る時、廊下で「唐揚げおいしかったよ」そう言った。横を見ると相変わらず無表情だったが、少し頬が上がっていた為、どうやら、唐揚げも柊さんの口にあったようだ。


教室のドアの前で柊さんはいきなり立ち止まった。僕がどうしたのかと思っていると、くるっと僕の方を向いて背伸びをしてきた。そして、僕の耳元で「間接キスだったね」そう小さな声で言った。

柊さんは逃げるように僕から速足で自分の席に戻っていき、取り残された僕は顔を真っ赤にして立ち尽くすしかなかった。


なお、この後の授業は全く集中することができなかった。

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