第五話 オタクは人形ちゃんとラインをする その1

柊さんの視線に耐えて、帰宅してきた。


あまりものが存在しない自宅。

僕は、2LDKという無駄に広いアパートに住んでいる。そのため、一室を倉庫のような部屋にしているため、リビングなどには全く物が存在していないというだけであるが。

両親は、家賃や食費は出してくれるが、遊びなどにお金を使うとすべてカップ麺等だとお金が足りなくなるいい感じのお小遣いをもらっている為、僕は昔から自炊をよくしている。

とりあえず、ご飯を1合炊く準備をして、炊飯器にセットして電源を入れる。炊き上がるまで大体30分ほど暇になるので、その間に他の料理を作る予定だったが、今日丸一日様々な人の視線を受けていた為、少し疲れたので料理はご飯だけでいいやとなり、僕は自室に戻ってベッドに寝転がった。

スマホで動画でも見ようかと思ってスマホを持ってきたが、昼間なれない視線にさらされ続けたのが思ったよりも疲れたのか、ベッドに寝転がったら心地よい睡魔が襲ってきて、僕は意識を闇の中に落としていった。


* * *


目が覚めると帰宅したころにはまだ明るかった空はすっかりと暗くなっていた。

時計を見ると夜8時を指していた。どうやら僕は3時間ほど眠っていたらしい。

さて、飯を食べようと思い、ベッドから降りようとした時、枕元に置いていたスマホにラインの通知が入ってきていることに気が付いた。


僕のラインを持っているのは、両親と柊さんだけだ。

だから、両親からの連絡かなと思ったが、送り主は予想外にも柊さんだった。

僕が寝た直後くらいに最初のラインが来てて、その後3時間で約20通近くのラインが入っていた。

…なにこれ怖い。

とりあえず、内容を知らないと返信することができないので、最初から読んでみることにした。


ひいらぎありす『西宮さん、こんにちは。本日は大変申し訳ございませんでした。学校でずっと西宮さんのことを私が見ていたせいで、西宮さんが悪く言われるような噂が立った事は大変申し訳なく思います』


ひいらぎありす『それで、本日のことを見て思ったのですが、人前で喋らなければいいのではないかと思いました。ですので、明日からお昼ご飯を一緒にどうですか?』


ひいらぎありす『使用していない空き教室の使用許可を得たので、そこなら、大丈夫だと思います。どうですか?返事お待ちしています』


ここまでが最初の30分くらい。

こっから時間が飛んで2時間後。


ひいらぎありす『あの、私はもしかして、嫌われてしまったのでしょうか。いえ、この前の反応から多少なりと私のことを嫌っている部分はあるとは思っていましたが、この前ゲームセンターを案内してもらったとき、楽しかったと言っていたので、多少は仲良くなれたと思っていたんですが、やはり私の勘違いだったのでしょうか?』


ひいらぎありす『あの、ほんとに、申し訳ございませんでした。私は学校でも仲良くしたいと思い先日の発言と、本日の奇行に走ったわけですが、迷惑でしたよね。相手のことを全く考えない行動と発言だったと思います。大変申し訳ございませんでした』


ひいらぎありす『ほんとに申し訳ございませんでした。もし、嫌ってなかったら反応をお願いします』


と、その下からは同じような大量の謝罪文が送られてきていた。

やべぇ…確かに、少しうざいとは思っていたけど、そこまで気にしていなかったから、罪悪感がやべぇ。


拓斗『すまん、少し眠くて寝てた』


とりあえず、ありのままの現状を返信したら秒で既読が付いて返信が来た。速いわ。絶対僕のとこで待機してただろ。


ひいらぎありす『それならよかったです。かなり心配したんですから、何か一言くらい入れてください』


拓斗『寝てたのにどう返信しろと』


ひいらぎありす『それもそうでしたね、少し気が動転しているようです。すみません』


拓斗『いや、大丈夫だけれど』


ひいらぎありす『優しいですね、ありがとうございます』


拓斗『それで、お昼ご飯の事なんだけれど』


ひいらぎありす『はい』


拓斗『いいよ、一緒に食べようか』


ひいらぎありす『本当ですか?』


ひいらぎありす『本当にいいんですか?』


ひいらぎありす『嘘じゃないですよね?』


拓斗『おう、嘘じゃない』


ひいらぎありす『我儘を聞いていただき、ありがとうございます』


拓斗『そこまでして仲良くしたいと言われたら断れんて、普通にうれしいよ。こちらこそありがとう』


ひいらぎありす『それでは明日、楽しみにしてます』


拓斗『うん、それじゃ。僕も楽しみにしてる』


そうして、僕は柊さんとのやり取りを終えた。

…明日から、柊さんとのお昼ご飯が決まってしまった。どうしよう。

僕は、弁当を自分で作って学校に持って行っているため、あんまりにも冷凍食品ばかり使った手抜き弁当だと、柊さんがいつも食べている弁当に見劣りしてしまうかもしれない。というか、鼻で笑われたらどうしよう…。


そんな不安を胸に抱えつつ、僕はとりあえず夕飯食ってから考えようと思考を放棄して、リビングに向かった。



その後、やっぱり不安になった僕は、明日の朝に間に合うように料理の仕込みをしっかりとしましたとさ。



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