第22話 水着回(その一)

「うわ~! 太郞君、すごい人だね~!」

「千秋! イカ焼き食おうぜ! イカ焼き!」


 雲ひとつない、突き抜けるような青い空。

 焼けるように熱い砂浜。

 燦々と輝く太陽に、キラキラと光る穏やかな海。

 そう、太郎は海水浴に来ているのだ。

 千秋は海水パンツでなく、サーファーのようなラッシュガードを着用している。

 サーフィンはしないのだが、冷たい水が苦手だと言っていた。

 太郎はというと、男らしくブーメランパンツを履いている。

 これはノボルに借りたもので、履き心地はそう悪くはない。

 そのノボルの運転でビーチまで来たのだが、彼はパチンコ屋で時間を潰すとのことだ。

 なにせ、ノボルの上半身には、カラフルな鯉が滝登りをしている。

 海水浴を断念するのも当然だ。


「太郎君、僕、イカ焼き買ってくるね」

「じゃあ俺、そこらへんで待ってるわ」


 千秋が海の家に向かったので、太郎は場所取りも兼ねてビーチパラソルを立てた。

 そしてビニールのゴザを敷いた上に座り、エロ目線でターゲットをロックオン。

 ロックオンしたのは、すぐ目の前にいる、アメリカ人と思しき数人の女性のグループだ。

 歳は二十歳前後で美人ぞろい。

 おそらく、旅行で日本に遊びに来たのだろう。

 そんな彼女たちは、ビキニ姿でビーチボールを楽しそうに投げ合っていた。

 その動きに合わせて、おっぱいがブルンブルンと揺れに揺れまくっている。

 しかも、AVでしか見たことがないような、超極小のマイクロビキニ姿だ。

 その紐をちょっとでもずらせば乳首がポロリ、即18禁と化す。

 けしからん、けしからんと思いつつ、太郎はムハムハと小鼻を膨らませた。

 そこへ――。


「太郞、変質者のような顔でどこを見ているのだ」

「どうせエロい目で女の人でも眺めてたんでしょ」


 水着に着替えを済ませたひとみと氷華が、太郎のもとへやってきた。

 ノボルの車で送ってもらったのは、太郎と千秋の二人だけでない。

 ひとみと氷華を合わせた、四人のメンバーで海水浴に来ている。

 気を利かせてくれた千秋が氷華を誘い、そして、氷華がひとみを誘い、この四人のメンバーが集まったのだ。


「生徒会長として忠告しておくぞ。盗撮だけはやめておけ」


 ポニーテールと蔑むような眼差しは、ひとみのトレードマークのようなものだ。

 しかし、そのフリルのついた黄色いビキニは、本邦初公開である。

 推定バストサイズ、Cカップ。


「あんたのスマホは、千秋君に預けておいたほうがよさそうね」


 肩にかかった髪をサッと後ろに振り払い、氷華はツンとした表情で腕を組む。

 そのボヨンと押し上げられたおっぱいを包み込むのは、パステルブルーを基調した花柄のビキニである。

 推定バストサイズ、Gカップ。

 そんな二人のおっぱいを見上げながら、太郎は千秋に感謝した。

 千秋が氷華を誘ってくれたおかげで、こうしてリアル水着回を体験することができたのだ。

 持つべきものはエロい友である。


「みんなー、お待たせー」


 そこへ、千秋が人数分のイカ焼きを買って戻ってきた。

 そんな彼がカンフル剤になったのか、ひとみと氷華の機嫌も良さそうだ。

 イカ焼きを食べ終えると、ひとみと氷華はゴザの上にうつ伏せとなった。

 日差しが強いので、パラソルの下で涼んでいるのだろう。

 そんな二人の白い背中を見て、太郎は荷物袋から日焼け止めを取り出した。

 むろん、下心があってのことだ。


「生徒会長、日焼け止め塗りましょうか?」

「そういえば、まだ塗っていなかったな。なら頼む」


 その言葉を受けて、太郞は日焼け止めをたっぷりと手にした。

 心の中では悪魔のような薄笑いを浮かべている。

 そして、日焼け止めをローション替わりに、ひとみの背中にそれを塗りたくる。


「あッ――」


 ひとみがピクンと反応を示した。

 ヌルヌルでエッチなローションの効果により、体が過敏になっているのだ。

 これはまだ前戯の段階に過ぎない。

 本番はここからである。

 太郎は舐め回すような手つきで、ひとみの尾てい骨あたりを攻め入った。

 お尻のビキニの下に、ヌルッと指先が滑り込む。


「た、太郎……どこを触っているのだ……」


 前戯は入念に済ませてあるので、体の自由を奪ったも同然である。

 口では嫌がっていても、体がそうはさせてくれないのだ。

 彼女が今できる精一杯の抵抗は、悶えるように腰をくねくねと動かすことだけだった。

 これではまるでエロマッサージ師のエロ動画そっくりだ。

 リンパの流れが、などと嘘八百を並べ、最後はチンコを使ってマッサージをするという、とんでもないエロ動画だ。

 しかし太郎は違う。

 あくまでもこれは日焼け止め対策の一環であり、それに付随して、マッサージを施術しているだけなのだ。


 そして、ここで秘伝中の秘伝、閻魔家に伝わる径穴指圧術を披露する。

 その名も『閻魔神拳』。

 閻魔神拳とは、体に百八ある特殊な径穴を刺激し、気を送り込むというものだ。

 その刺激により、さまざまな効能をもたらすという、都合のいい指圧術である。

 一例として高揚感が挙げられる。

 普通、地獄に堕とされた罪人は、恐怖に怯えて針の山になど登らない。

 しかし、高揚感の経穴を刺激することで、罪人はハイテンションで針の山を登っていく。

 まあ、登頂する前に串刺しになるわけだが。

 そんな効能の一つに、性的快楽を高めるという夢のような経穴がある。

 場所は尾てい骨の下。

 そのくぼみを刺激すれば、性的快楽は極限にまで高まり、不感症であっても一発で昇天だ。

 ひとみには、この極上のリラクゼーションを味わってもらう。

 太郎は中指を使い、尾てい骨下のくぼみをクイッと指圧した。

 すると――。


「はうううううううううううううううううッ!!」


 ひとみは人目もはばからず喘ぎ声を上げ、上体を大きくのけ反らせて昇天。

 そして彼女はバタリとゴザにひれ伏し、ピクピクと体を痙攣させて失神した。

 生徒会長にはいつもお世話になっている。

 これで満足して頂けただろう。

 できることなら、千秋に撮影係をお願いしたかったのだが、残念なことに、彼は波打ち際で波と戯れている。

 しかたがないので、太郎は氷華に閻魔神拳をお見舞いしてやることにした。

 幸い、彼女はイヤホンに耳をあて、音楽かなにかを聞いている。

 ひとみの喘ぎ声には気づかなかったようだ。

 ひとまず太郎は、たっぷりとローションを手に取り、氷華の背中にそれを塗りたくる。


「あッ――」


 氷華もピクンと反応を示した。

 ここからは時間との戦いだ。

 最近ポンコツキャラと化した生徒会長とは違い、氷華は依然、猛獣にも等しい危険性をはらんでいる。

 彼女が牙を剥いて反撃に出る前に、体の自由を奪っておかなければいけないのだ。

 ゆえに、太郎は千手観音のように両手を動かし、入念かつ迅速に前戯を済ませた。

 そして、お尻のビキニの下に、ヌルッと指先を滑り込ませる。


「ちょ、ちょっと……ど、どこ触ってるのよ……」


 体の自由を奪われた氷華もまた、くねくねと腰を動かして悶えている。

 今がチャンス。

 クイクイ、クイクイ。

 と、太郞は中指を使い、快楽スポットのくぼみをいやらしく何度も刺激した。

 すると――。


「だ、だっめえええええええええええええッ!!」


 氷華はシャチホコ状態で見事に昇天。

 そして彼女はバタリとゴザにひれ伏し、魚のようにピクピクと体を痙攣させて失神した。

 二人のJKを昇天させてしまったわけだが、これはなんら罪にはあたらない。

 自分はただ、尾てい骨下のくぼみを指圧しただけなのだ。

 なにか文句を言われても、毅然とした態度で正当性を訴えてやればいい。

 積み重ねてきた論理(ロジック)、『理』は、太一が見る限り太一にある。

 そんなところに千秋が戻ってきた。


「あれ? 生徒会長と旭山さん、なんかぐったりしてるけど、どうしたの?」

「たぶん、軽い熱中症じゃないかな。暑さにやられてイッちゃったんだと思うぞ」

「二人とも、大丈夫なの?」

「そこで休ませておけば、そのうち股間の熱も――いや、頭の熱も冷めるだろ」

「それならいいんだけど」

「それより千秋! 海の家でなんか冷たいもんでも食ってこようぜ!」


 と、太郎は強引に話を切り上げ、千秋の手を引いてその場からさっさと逃げ去った。

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