第八章 生者の書

第8-01話 どことなく続く道

2035/09/25 15:30 六甲山のとある山道


━━━━━《斯波しば視点》━━━━━


 その日私は、六甲山周囲の山道の警戒線を調べに行っていたのでした。


 相棒バディーは連れずに一人で、行ってしまっていたのです。


 この程度の作業なら楽勝だと思っていたのも、不利に働いたようでした。



 ダブルチェックを怠っていたのです、そのため数か所に貼ってある結界を確認せずに来てしまっていました。


 お札が剥がれていることを確認せず、山道に踏み込んでしまっていたのでした。


 気付いた時にはすでに遅く、白い靄に包まれている状態だったのです。



 しかもソロです。


 確認を行うのもすべて、私一人で行わなくてはならないのでした。


 とはいえまだ学生組は出てきていませんでしたし、ラウ隊員と佐須雅さすが隊員は本日は所用で外されていました。


 折神おりがみ隊員と風祭かざまつり隊員も健康診断で、外れていた時に降って沸いた仕事だったのです。


 副課長から「暇な時でいいんで山道の結界チェックを数名で行っておいてくれないか、大した作業でもないし何か出るわけでもないから少人数でいいぞ」といわれたのでした。


 しかも長良ながら副長もみこと嬢を迎えに行っていておらず、一人の時にいわれたのでこの前のミスを取り戻すべく、焦っていた私はソロで出てきてしまっていたのでした。



きりもやかすみか?」と一人つぶやきますが、返答はどこからもありません。



 通信機があるかと単純なことを考え、通信機に向かい「こちら斯波しば検非違使けびいし八課本部応答どうぞ」と呼びかけました。


 代わりに答えたのは雑音でした「ジジ……ジジ……ジジ……」、「くっ。応答なしか電波妨害でも出ているのか?」そして戻ろうと思った時でした。


 帰り道が、がけに変わっているのに気が付いたのです。



 まさかな? と思いましたが事実そこはまぎれもなく崖でした。


 進むしかないのか? と思いを進めようにも周囲が濃密な白い何かにまかれているのです。


 そして時計の針も、あらぬ方向を指していました。


 確か出てきたときは、十五時ジャストだった時ハズです。


 今時計は午後の零時近辺を指しており、秒針は止まっていました。




2035/09/25 16:00 検非違使けびいし神戸分署仮八課棟第七班班室前


━━━━━《折神おりがみ視点》━━━━━


 そのころ七班の班室の前では健康診断から帰ってきた、風祭隊員と俺と、みこと嬢を迎えに行って帰ってきた長良副長とみこと嬢が、扉の前で鉢合わせしていました。


「ん? 鍵がかかっているな」と長良副長がいいました。


「我々が出てくるときには、班長は居たぞ? 鍵もかけてはこなかったんだが?」と風祭隊員がいいます。

 俺も頷きました。


「てことは、まさか!」と長良副長が、予備のカギを出し開けて中に入りました。


「班長! って居ないな」と長良班長が叫びます。


「トイレでも行っとるんじゃないかの?」とみこと嬢が呟きました。


「それにしては長いかもしれないな? トイレを見て来よう、まさか倒れてないだろうな」と風祭隊員がきびすを返しトイレを見に行ったのでした。


 その間に、長良副長が班長の装備ロッカーをノックして反響音を確かめていました。


「軽い音しか返って来ん、出かけたんじゃないか?」といいます。


「緊急の呼び出しはありませんでしたよ? 少なくとも俺が聞いていた限りでは……」と俺はいいました。


「少なくとも緊急の呼び出し音が鳴ればさすがに気が付きますからね」と追加します。


「ん? なんじゃこれは?」とみこと嬢が、班長の机の上から書置きを見つけたのでした。


「どれどれ?」と長良副長がのぞき込みます。


 そうやっているところへ、トイレから風祭隊員が戻ってきました。「トイレには倒れてはいなかったが」といいました。


『山道の警戒線を見回ってきます。斯波』とそこには書かれていたのでした。


「山道の警戒線てなんじゃ?」とみこと嬢が長良副長に聞きました?


 頭を軽くかぶりを振った、長良副長が「山道の警戒線ていうのは結界が貼ってあるところを線で結んだものだ。よく言うデンジャーゾーン手前ってやつだよ」といいます。


「普段なら二人か三人で見に行くものなんだが、一人で行ったのかね?」と長良副長がいいます。


「札は外出になってるぞ!」、と入口内側のドアのそばにある勤務札を見た風祭隊員がいいました。


「アチャー、せめて俺達に声をかけてくれれば付いて行ったものを……」と俺がいいます。


「折神隊員、それは今言っても、もう遅い」と風祭隊員からいわれてしまいます。


「でもなんで先走るようなことを? 班長らしくない!」と俺がいいました。


「何か発破でもかけられたんじゃないか? 副課長のところに行ってくる」と風祭隊員がいって出て行きました。


「ちょっと無線室行ってくるわ!」と長良副長も出ていかれました。


「俺と風祭隊員では、頼りなかったんですかね?」と俺は呟きました。


……



2035/09/25 17:00 検非違使神戸分署仮八課棟第七班班室 美空・他班員・班長除


━━━━━《美空みそら視点》━━━━━


「こんばんわー」と三人で、挨拶と敬礼をして班室に入っていきます。


 何かいつもと、空気が違いました。


 班長が居ませんし、副長の長良さんも、風祭隊員も部屋に居ません。


 ? と思っていると折神隊員が、かなり深刻そうな顔をしながら通常業務を行っていました。


 周防さんもパソコンで何かを検索しているようでした。


「何かいつもと空気が違わねえか? これはさすがに鈍感なあたしでも気付くぜ」と高木たかぎさんがおっしゃいました。


 温羅うらさんは、折神さんに状況を聞きに行ったようでした。


「何が深刻な事態でもあったんですか?」とおっしゃいました。


 折神さんは深刻な表情のまま「俺と風祭隊員が健康診断に行っている間に斯波班長が、山道の警戒線のチェックに一人で行ってしまったらしいんだ。しかも長良副長まで不在の時に、普段ならそのまま待ってくれていると思うんだが……」とおっしゃいました。


 といったところに副長の長良さんが「ダメだ無線は音信不通だ! いろいろ試してみたが繋がらねぇ!」とおっしゃいながら班室に走り込まれてきました。


「副課長のほうに行った、風祭隊員はまだ戻って来ないのか?」といった直後、副課長と風祭さんが戻ってこられました。


「一人で行けと言ったつもりはないし、数人で行けと言ったんだが? 斯波にしては珍しいな、一人で暴走するような様子には見えなかったんだが?」と副課長がおっしゃいました。



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