第0-39話 身辺警護延長:謝と誤

━━━━━《由良ゆら視点》━━━━━


 そして、長良ながらさんが車両を一旦門の近くに停車させると、美空みそらさんを抱きかかえて降り、私が美空さんの荷物を持って降りてくるのを待ってくれました。


 私が降りると、いったんドアをフルロックさせ、物理盗難防止装置をオンにしたようでした。


 そして私が、小門の近くに設置してあるインターホンを押します。


 直ぐに綾香あやかさんが出ていただけました。


「小門をあけていただけないでしょうか? 美空さんは疲れて眠っておいでなので――」と伝えると。


「分かりました。直ぐに開けに行きますね」との返答を得られたのでした。


 一分半後、小門が開き綾香さんが迎え入れてくれました。


 綾香さん、私、美空さんを抱いた長良さんの順で正面玄関に通されました。


 当然と言えば当然なのですが、今日は沙羅さら御婆様おばあさま以外に頼王らいおう御爺様おじいさまも玄関口で待っておいででした。


「美空さんは、疲れて眠っておられますが、命には問題ありません。私がもう少し早くに気付いていれば、このような状態には」と言うと。


「それは美空の問題じゃ」と沙羅御婆様が言われたのでした。


「まあ玄関で立ち話もなんじゃから、応接に入って来てもらおうかの」と極めて優しい口調で頼王御爺様が言いました。


 そして「綾香さんや、布団一式を応接へ持ち込んでもらえんか少し長い話になりそうじゃからの」と言われたのでした。


 綾香さんが手早く応接の中の端に布団を敷きました。


「どうぞ、よろしくお願いします」と綾香さんが、長良さんを応接内の布団に導きました。


 美空さんをいったん、仮に寝かせる様でした。


 長良さんが布団の敷物の上に美空さんを降ろし、綾香さんが上掛け布団を整えました。


 そして二人分の座布団が用意されたのでした。


 こちらは申し訳ない気持ちで一杯でした。


 美空さんのショルダーバッグを渡そうとすると、「それは美空のそばにおいてやって貰えんか。麒麟きりん様が心配しておる」と言われたので美空さんの近く、枕元にそっと置きました。



 頼王御爺様と沙羅御婆様が先に上座に座られると我々も座布団に座るように勧められたのでした。


 私の右側に、長良さんが正座で座りました。


 私も、正座の態勢です。


「この度は御心配をかけてしまいまことに申し訳なく思っております」と座卓に頭を付けそうな勢いで長良さんが謝ったのでした。


「突入班の我々が不甲斐無ふがいないばかりに美空嬢には負担をかけてしまった様で、面目めんぼくなく思っております」と頭は下げたまま話したのでした。


 そこに綾香さんがやってきて、まず頼王御爺様にいつもの有田焼の燿変辰砂ようへんしんしゃで赤の強い筒型の夫婦茶碗めおとぢゃわんの大きいほうに茶を濃い目で、沙羅御婆様に同じくいつも有田焼の燿変辰砂で赤の強い筒型の夫婦茶碗の小さいほうに茶を少し濃い目で入れると、客人用の有田焼の油滴天目ゆてきてんもくの蒼の強い端反はたぞり型の茶碗二つ追加し程よい温度と思われるお茶を入れられ、私たちの前にセッティングして、一旦下がられたのでした。


「美空の事じゃ、また暴走したのであろう」と頼王御爺様が困り顔で「おもてをあげてくだされ。むしろ、暴走に巻き込まれて大変だったのではないか?」と優しく聞かれたのでした。


 長良さんが、おそるおそる顔をあげると怒ってはおらず、むしろ困り果てたと言った顔の頼王御爺様が居たのでした。


 同様に隣にいる沙羅御婆様も頼王御爺様と似たような困ったといった感じの顔でこちらを見ておられたのでした。


「美空の悪いくせのひとつでな、昔から誰彼構わず助けが要ると思った際には、自分の出来る範囲までじゃが、暴走強行軍してしまう子なのじゃ」と頼王御爺様がいったのでした。


 私が一瞬聞こうかと思いましたが、今の場の流れは頼王御爺様と長良さんの場です。私が乱すわけにはまいりませんでした。


 しかし、長良さんが思わず聞き返してしまい「暴走なのですか? むしろ、それのおかげで我々突入班には損害が無かったのですが」といってしまいます。


「この子は出来ると一旦思うと、思い込みだけで事を成し遂げようとする。そんな暴走癖があっての。我々も度々助けられてはいるのじゃが、その度に自らをかえりみない癖があるのじゃ。傍に安心できるものが居る時は常になのじゃが、つまりできると思った限界まですべを可能な限り使ってしまうのじゃ」と頼王御爺様がいわれたのでした。


 確かに覚えはありました。持てる力の全てを使ってしまい、崩れ落ちるように私目掛けて倒れてきたのが、その証だろうと思われたのでした。


 かたわらに安心できる人がいると、そのようになるのであろうと思われたのでした。


 沙羅御婆様がこちらの思考に気が付かれたようでした。


「美空の事じゃから、今日は香織さんのほうに倒れていかなかったかね」と聞かれたのでした。


 それには「はいその通りです、力を出し切ったと思われる後は、そのような状態になりました」と答えました。



「美空は暴走するかしないかを、みずからの基準において決めておる様なのじゃ、心を許した者や、頼りになると思われる者の前では、暴走する確率が極めて高い。しかし一人の時のほうが暴走率はもっと高くなるようなのじゃ、極めて危険な兆候なのじゃ。自身しかいないときのほうが倒れる様な事をする確率は極めて低くなるのじゃが」といわれたのでした。


「で今日は何を使ったのじゃ?」と沙羅御婆様が興味津々といったふうで聞かれたのでした。


「合っているかどうかは分かりませんが、多分。遠視の能力と、建物を透視する能力、特定の波長を持つ生命力の探査をできる能力と、声を長距離の特定の人間に伝える能力かと思うのですが。そんな便利な術は神術の中に在るのでしょうか?」と現場にいて実感した長良さんが、答えを引っ張り上げます。


「近いものはなん種類かあるが、そこまで便利なものはないのう。まさか美空はじゅつねたのではないか? そうでなければ説明がつかん、これ以上は本人から直接聞くしかないが。まだ寝ておるのう……何か食事は済ませた後かのう?」と沙羅御婆様がいわれたので思い出したのです。


「食事は倒れた後で、一度軽食ファーストフードを食べています」と私が答えました。


「それと、美空さん自身が言っていたのですが、美空さんが言うには、じゅつかたちしていないすべを使ったから普段よりも疲れたんだ、と言われていました」と私が答えました。


「やはり術をねよったのか、多分天性の才能か能力だと思うのじゃが、普通の術師じゅつしには出来ないことをあっさりとやりおる。これが正と出るか負と出るかは、いまだ分からぬが。今回のはじゅつではなく感じたことを伝えただけじゃと思う。だから術ではなくすべに該当するじゃろう。その代わり消費する力は距離と目標によってだいぶ変わるはずじゃ。ワシにもそれくらいしか分らんのう――」と、沙羅御婆様がいいました。


「あくまでも現在の神術は形を成しておるから、後世に伝えるために始祖か神が形として伝えたものではないかと言われておる。本来の意味での神術と言うのは、神の力を代行する者の使う術と言う意味じゃ。じゃから美空の使っている術を捏ねたものが本来の神術の姿に近いのじゃと思う。なんでもできたそうじゃからのう、神話の世界の話ではあるのじゃが」と横で沙羅御婆様の話を聞いていた頼王御爺様がいわれたのです。


「それと一度飯を食べたということは、朝までぐっすりコースじゃぞ、沙羅婆様や」と続けられました。



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