第0-38話 身辺警護延長:食と送

━━━━━《長良ながら視点》━━━━━


「分かった折神おりがみさん、佐須雅さすがさんのほうはまかせた。俺はお嬢さんたちを送る準備に入るよ」といって、車の中身を若干整え始めたのでした。


 八人乗りと言うのは伊達ではないのです。


 お嬢さん方が乗ってももう一人分、誰か予備シートが余るのです。



━━━━━《由良ゆら視点》━━━━━


 そのころ、ファーストフード店で無事すべてのものを購入し広場に戻る三人の姿があったのでした。


 特に戻り道も問題は起きなかったのでした。


 三人で分担していることもあり、特に誰かに荷重が寄るようなこともなかったのでした。


 そのころ、広場のベンチでは「何がどうしてこうなったのですか?」と美空みそらさんに詰め寄る加奈子かなこさんの珍しい姿が見れたのでした。


 美空さんが言うには、じゅつかたちしていないすべを使ったから普段よりも疲れたんだ、とのことでした。


 由良ゆらとしてはよく分かりますが、温羅うら香織かおりとしては何を言っているのかよく分らないといったふうをつらぬきました。


 要するに粘土を一からねて形を作るのと似たようなことを美空さんは術でやってのけたということでした。


 かなり凄いことではありますが、それで術者が倒れてしまっては意味がありません。


 普通は粘土に対して、何某なにがしかの型枠がありそれを使用してじゅつとして機能させているのです。


 つまり型枠なしで自在じざいねて術を使ったということなのです。


 それそのものをしっかりとした形に成せば術として機能するひな形を作る作業に似ていると言えば良いのです。


 術と言うのは数字で言う一以上の状態であり、美空さんが行ったのは零の状態から一の状態に変化させて術として扱ったということなのです。


 よっぽど術に詳しく、術を使うことにけてないとできないことなのです。


 加奈子さんも、あまりよく分っていないようでした。


 無理もありません術者ではないのですから、アレを分かれと言うのはかなり無理がありました。


 そんなことをやっているうちに、ファーストフードをもってみんなが返ってきました。


彩名あやなさん、静香しずかさん、あかねさん、おかえりなさい」と私がいいます。


「みんな、おかえりなさい」と加奈子さんもいいました。


「おかえり……なさい」と美空さんもかろうじて声をしぼり出しました。


「そんな、無理しなくても」と静香さんが美空さんに袋を預け、「これが美空ちゃんの分」と言い、茜さんが「香織さんの分はこっち」と袋を手渡してくれたのでした。


「加奈子ちゃんの分はこっちね」と彩名さんが袋を手渡します。


 美空さんもベンチで、身を起こして中身をこぼさない様に開けると早速ハンバーガーにかぶりついていました。


 お腹がすくのには耐えられなかったようでした。


 私も美空さんがひざから身を起こし、ベンチの背にもたれて食べ始めたのを確認すると、私もハンバーガーからいただくのでした。


 ハンバーガー、フライポテト、ジュースの順繰じゅんぐりで食べ始め、みんなが食べ終わる頃に合わせて、こちらも食べ終わります。


 まあ最も、一番早くに食べ終わったのは美空さんでした。


 少し元気が回復したようでした。


 多少まだ支えが必要と思われましたが、歩けるまでには回復したようでした。

 そこにメールが飛んできました、兄からでした。


『すまない、残業続きで今日は送れそうになくなってしまった。代走を頼んだから代走の長良さんに宜しく言っておいてくれ、長良さんはこころよく引き受けてくれたよ』というメールでした。


 自作自演なのですが、これはこれで、みんなに報告せねばなりません。


「今日はウチの兄は帰れなくなったみたい。代わりに長良さんが代走で送ってくれるって」といいます。


「場所も指定があるけれども、美空さんは移動できそうですか? JR神戸駅の南側ロータリーの西側でタクシーの列にからまないところで待ってるって」と聞きます。


「走るのは難しいけれども、歩くだけなら行ける」と返答がありました。


 ショルダーを肩にかけ移動の準備を始めたのでした。今の時間はまだ少し早めの午後七時三十分でした。


「午後八時くらいには来てくれるって、この前の白のワンボックスみたい」とも続けます。


 まあ、あの車なら八人は乗れるし大丈夫よね。


 と思いながら私も、ショルダーバッグからマフラーを出して巻き巻きします。


 二月の下旬ですからまだ寒いのでした。みんなも、それなりに着込んではいるのでした。


 そして私は、美空さんを左側から支えて歩き始めるのでした。


 右側からは加奈子さんが支えているのでした。


 なるべくこちら側に重心が寄る様に歩くのです。加奈子さん側に、負荷がいかない様にするためでした。


 午後八時前にはJR神戸駅の南側ロータリーには着きました。


 すでに白いワンボックスカーが停車しておりました。


「あれがそうね」と言うとゆっくりと移動していきます。


 美空さんに、負荷がなるべくいかない様に気を付けながらでした。


 車両の近くまで行くと、ドアをオートで開けていただけました。


 私と美空さんと加奈子さんでサードシート側に座ります。


 順は私がまず上がって、美空さんを引き上げてサードシートに進行方向右側から私、美空さん、加奈子さんの順です。


 座ってからでしたが「長良さん今日は、代走ありがとうございます」と挨拶をします。


 セカンドシートには、降りる順で進行方向右側から静香さん、彩名さん、茜さんの順です。


 この逆順で降りていくのです。


 みんなして、声をそろえて「よろしくお願いします」と言います。


「まあ、温羅さんに仕事を預けてしまった様なものだしな」と長良さんが、軽く仕事の話に触れました。


「さて行くか」と華麗にハンドル操作をしながら、車を走らせ始めました。


「美空さんは元気がないようだが、大丈夫かい?」とこちらの状況を確認しながら気にかけてくれます。


「力を使いすぎてしまったみたいなの」と私が代返をします。


 みんなそれにはうなずいていましたので、意味は伝わったと思われたのでした。


 そしてみんなを予定の場所でそれぞれ降ろし、美空さんと私だけになったとき、長良さんが「今日の突入の際に支援してくれたのは由良さんか?」と聞いて来たのです。


「多分それは美空さんよ、無理に集中していたみたいだから。それに私ではその距離の術は無理よ」と答えを返します。


「何があったの?」と今度は私が聞く番でした。


「天の声っていうか、そういうのが聞こえてな。危険な場面では先に知らせてくれたんだ、斯波班長や折神さんにも聞こえたらしい。おかげでこちらには被害が無かったんだ」と答えたのです。


「神術にはそういうのがあるのか?」とも聞かれましたが私は神術にはあまり縁がない為よく分らないのでした。


 なので、「美空さんのオリジナルみたい、相当疲労が蓄積ちくせきするみたいだったけども」ということにしたのです。


「御婆様にあやまっておいてくれ、突入班の我々が不甲斐無ふがいないばかりにそれだけ消耗しょうもうさせてしまったんだと、頼む」と長良さんから頼まれたのでした。


「とりあえず、美空さんを運ぶのを手伝ってもらえないかな?」と今度は私が問う番でした。


「美空さんフラフラで歩けないみたいなの、私一人では力が足りなくって」ということにします。


 事実ですから仕方がありません。


「分かった抱きかかえる役は俺が引き受けた。荷物のほうと扉は任せる」といわれたのでした。



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