第0-26話 身辺警護:追跡する半魔

━━━━━《由良ゆら視点》━━━━━


 ある意味賭けでした。


 やってみないと分らない、ただ強襲された場合は対処ができない可能性がありました。


 そうなった場合は被害甚大です。


 一般の方にも被害がいくと思われたのでした。


 そうなれば辞職どころの騒ぎではすみませんでした。


 こちらの思惑は相手が追えなくなること、又は追跡をあきらめることそれに賭けたのでした。


 列車の中で半魔が暴れたら、ただではすみません。


 乗っている人数にもよりますが、被害が半端ないことになるでしょう。


 しかし半魔は落ち着いた動きをしているようで一方的に襲い掛かってくるということは無さそうでした。


 無差別殺人をくわだてているなら、さっきの雑踏で仕掛けて来ているはずです。


 そうしなかったのはこちらの本陣ヤサを調べるつもりで付いてきている、としか思えなかったのです。


 なのでこの手が有効になると思われました。


 今の時間は、午後七時を少し回ったところです。


 みんなとJR元町駅で別れました、歩きで帰る子が一人、バスで帰る子が二人、列車を短い距離ながら使って帰るのが三人です。


 その三人の中に、加奈子かなこさんと美空みそらさんと私が含まれているのでした。


 雑踏を歩くのに疲れた、という演出をさせてもらったせいもあります。


 加奈子さんは、JR三ノ宮駅からは別のバスで帰るようでした。


 私たちも、方向は違えどバスで途中まで帰るのです。


 JR三ノ宮駅からはタクシーを使ってもよい距離でしたが、追跡されると厄介ではあるのでバスを考えたのでした。


 そして運命の分かれ道、半魔は私たちの後を付いてはきましたが、列車に乗るのはあきらめたようでした。


 半魔が列車に乗って無いことを再確認します。


 乗ってきてはいないようです。


 気配がありませんでした。


 すぐにショルダーに手を入れ由良ゆら専用発信機のシグナルをグリーンに戻しました。


 通常になったと信号で発信したのでした。


 少し疲れたような感覚に襲われました。


 かぶりを振ると、「大丈夫ですか?」と加奈子さんから聞かれてしまいます。


「少し疲れたみたい、明日には回復しているはずだから大丈夫」と答えました。


 美空さんも若干ではありますが、心配そうにしていました。


 多分さっきの気配を、感じ取っていたのでしょう。


「タクシーを使いましょうか?」と美空さんからいわれたのです。


「そうしましょうか、なぜかいつもより疲れているような気がするのです」といいました。


「慣れないことをしたからでは? モデルはかなり疲れると、聞いたことがあります」と加奈子さんがいってくださいました。


 JR三ノ宮駅まではすぐでした。


 元々、歩いていけるくらいの距離なのですが今日は半魔をくために、ワザと使ったという意味があるのでした。


 JR三ノ宮駅についてから、加奈子さんと別れました。


 そしてその足で、南側のタクシー乗り場に回ったのでした。


 タクシーの運転手さんに、美空さんが自宅の番地と町名を伝えました。


 タクシーが無事、正面門の前まで付きました。


「支払いは経費で落とすから大丈夫」といって、私が先に払って降りてしまいます。


 美空さんは忘れ物がないか、しっかり確認してから降りてきました。


 特に、忘れ物はないようです。


 まずは美空さんから、小門を開けて中に入り、続いて私も中に入るのです。


 そこから玄関まで少し歩き、ようやく家に辿たどり着けたのでした。


 玄関で沙羅御婆様さらおばあさまがお待ちでした。


「すみません遅れてしまいまして、大分だいぶ予定が狂ったものですから」と私が伝えます。


「話は、座敷で聞こうぞ」ご立腹とかではなく、心配でたまらなかったようでした。


 座敷に移動して、今日の顛末てんまつを話しました。


「そうかえ、大変じゃったの、モデルとはのう。頼み込まれたのであれば、致し方ない無下むげに断れなかったのじゃろう」と理解を示していただけたのでした。



「しかし半魔が出たということは、まだ油断はできんということじゃな。改めてよろしくお願いする」と頭を下げられたのでした。


「頭をお上げください、私のほうでも演技と身辺警護が同時ですから、かなり難しい選択を迫られることがあるのです。ですが、一度頼まれたことですので最後までやり抜きます。ご安心ください」と答えました。


 その日は、お風呂に入り夕食を食べ寝ることとなりました。


 次の日に、疲れは残ることはありませんでした。



 朝には兄、温羅義之うらよしゆきのお迎えが復活しました。


「昨日は、やばかったみたいだな」と兄がいいました。


「昨日はひやひやものでしたよ、いつ襲い掛かって来るか、知れたものではありませんでしたし」と答えます。


「やはり、昨日の気配は魔物か、それに類する物の気配なのですか?」と美空さんから聞かれました。


 どうやら、気付かれていたようです。


「あれが半魔の気配です」と私が答えます。


「半魔の気配に気付くなんてすごいな、俺でもなかなか掴めないぜ。魔物の気配ならよく分るんだがな」と兄が答えました。


 と話しているうちに、学校の正門へ着きました。


「帰りは、時間になったら呼んでくれ。すぐに行くから」と美空さんと私を降ろすと、仕事場に行くようでした。


 風紀の先生に朝の挨拶あいさつをして、学内に入り教室まで行きました。


 特にその間に視線が発生したとかそういうことはなかったわけです。


 つまりあの半魔は、別の能力を得ているということでしょう。


 それか全く違うところから来た、半魔なのかもしれませんでした。


 後者の確率が高く、非常に危険な存在と思われたのでした。


 その場合、力の源が違うのです。


 今回の大ボスが、倒されていたとしても何ら関係が無いのでした。


 それが二匹も残っている、ということが脅威なのです。


 多分半魔が狙っている対象は、美空さんでしょう。


 ただし間に私が入っているということを、問題だととらえている可能性があるのでした。


 私が、ターゲットになっているうちはいいのです。


 主に、私が狙われるだけです。


 例のホームページの件は、まだ誰にも気づかれてはいないようでした。


 昨日の今日ですから、気付く方がおかしいのです。


 学校で噂の種になるということは潜入警護としては失格同然です。


 元々私と似たモデルさんを使っているホームページではありましたから、見破られる心配は毛の先程もありませんでした。


 そちらの方は当面置いて良さそうな些細ささいな問題でした。



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