第0-27話 身辺警護:VS半魔×2

━━━━━《由良ゆら視点》━━━━━


 その日も、特に何事もなく終わりました。


 学校の中ではです。


 その帰り道、兄に送ってもらう最中のことでした。


 その日は同じ帰り道だからといって折神おりがみさんと佐須雅さすがさんが一緒に乗っていたのでした。



 信号待ちをしている車列の前に、大岩が地響きとともに生えたのでした。


 他の車も、びっくりです。


 兄が後方に車で、下がろうとしました。まさかのまさかですが、後方にも大岩が生えたのでした。


 そして、瘴気しょうきのオマケ付きです。


 濃い瘴気は、大岩二つの間に漂っています。


 車の窓を閉めても、瘴気が車内に入ってきておりました。


 私は自己を保つために、自己強化術式じこきょうかじゅつしきで対応します。


 瘴気にれている検非違使けびいしのメンバーはいいですが、一般人はそうはいきません。


 由良ゆら専用発信機を、レッドシグナルにします。そして元を断とうとするように動き出そうとしました。


香織かおりは残って支援に徹してくれ。美空みそらさんをよろしく頼んだ」と温羅うら義之よしゆきこと長良ながらさんが金沃懸地塗きんいかけじぬり青龍せいりゅう蒔絵まきえ螺鈿らでん太刀拵たちごしらえ深緑しんりょく銀糸ぎんし花菱家紋はなびしかもんの入った鞘袋さやぶくろから持ちだしながら、そのようにいったのです。


「外は何とかしよう」と折神さんもS&W M29を抜きながら、そのようにいいました。


「市民を守るのが警察官の職務だ」と続けられます。


「お二人にばかり、格好いい所ばかりは渡しませんよ」というとサードシートに座っていた佐須雅さんもFN P100を抜いて「背後は何とかしましょう、班長さんが来るまでは守り抜きますよ」といって、後ろに降りてゆくのでした。


「美空さん、瘴気です。これを吸い込まない様にしてください」と私もいうと、リュックの中から五鈷鈴を出します。


 美空さんもリュックの中から、金糸きんし麒麟きりん刺繍ししゅうが入った濡れ羽二重ぬれはぶたえ紫紺しこんの袋から、黄金に輝く短刀を出しました。


 その瞬間黄金の短刀が、一瞬でしたが輝きます。


 瘴気が、五メートルは退いたのでした。


 瘴気が何かの力に反応して、近寄ってこないのでした。


 私も、五鈷鈴を鳴らし呪文を静かに唱えることによって、車の周囲五メートル程度にまで結界を広げました。


 いつの間にか、かなりの範囲にまで瘴気が広がっているようでした。


 私の張った結界は、魔の物が入ってこれないたぐいの結界です。


 半魔でも、魔の物である以上は入ってこれないはずです。


 車の外からは短い間隔で、銃や兄の威嚇いかくで叫ぶ声が聞こえてきます。


 何もできないのが、もどかしいのでした。


 とはいえ、ここを動くわけにはまいりませんでした。


 現在の任務は、美空嬢みそらじょう第一優先の身辺警護なのです。


 次の瞬間、美空さんが術を唱えました。


 その瞬間白虎びゃっこの姿が美空さんの背後に見えたような気がしました。


 それと共に、虎とおぼしき吠え声がしました。餓鬼玉と思われる浮遊魔物が、数十匹飛び散ったようでした。


 瘴気もその瞬間半径二十メートルくらい、直系四十メートルぐらいが晴れていました。



 後方の岩に、かなり大きなヒビが入っていました。


 先程の術の影響えいきょうをモロに受けたのでしょう、後二・三発もらえば崩壊ほうかいしそうでした。



━━━━━《斯波しば視点》━━━━━


 そのころ班長は、他に残っていた四班と合流して緊急出動をかけていました。


「急げっ! レッドシグナル発生だ! 由良が危険だっ! 副課長、スクランブルで出ます。サイレンならしていいですよね?」と急ぎ提言します。


「検非違使の専用バンならサイレンと識別灯をつけても構わん! 急ぎ出撃せよ、なお現場には取り残された民間人もいると思われる。


 救助要請も実施する序に救急車も呼んでおけ。


 七班一台、四班三台の構成で出てくれ! 識別灯のカラーはあかだ! 四班の車両は、七班の車両を追っていけ!」と副課長が叫びます。



「斯波、出ます。どうぞ」というと、四班から「先導よろしく頼みます」と答えが返りました。



 現場は比較的近いとはいっても、道がそこそこ混んではいたので、サイレンと識別灯が有効でした。


 マップに重ねてみるとレッドシグナルは、二本車線の比較的幅の広い車線上から出ていました。まだ車に、乗っていると思われたのでした。


 車で帰るコースの場合は、丁度中盤ちゅうばんくらいに当たるのです。


 詰まり帰る途中に、事故に巻き込まれたか何かだと思われたのでした。


 一緒の帰っているはずの長良ながらさんの信号も近くにはありますが、そっちはイエローシグナルにしかなっていませんでした。


 何かのトラブルなのか、それとも……と心配はしました。


「四班の二台は、南側からイエローシグナルのある交差点へ回れ。どうぞ」と言います。


「四班二号車了解」、「四班三号車了解」と返答が入ります。


「四班一号車はそのまま付いて来てください。どうぞ」といいました。


「四班一号車了解」と返答がありました。


「四班二号車、西側から瘴気を確認した。対処に入る」と報告が飛びました。


「四班三号車、南側から侵入中、瘴気を確認した。対処に入る」と二つ目の対処報告が入りました。


「こちらからも瘴気を確認した。まるで結界のようだ。一面灰色で何も見えない。どうぞ」あの中に居るのか……無事でいてくれよ、と思いました。



━━━━━《折神視点》━━━━━

 

 そしてそのころ、中では交差点内で魔物と戦う、温羅義之が居たのです。


「佐須雅のほうは、まだP100の音がしないところを見ると索敵中か」と俺はつぶやきました。


「こっちは雑魚を、義之のほうに行かせないので手いっぱいだというのに」と俺が一人で愚痴ぐちります。


「あの風船、意外とうっとおしいな」といいながら向かってくる、餓鬼玉に狙いを付けて一発一匹でほろぼしてゆきます。


 しかし、車の中に居るとはいえ一般市民がやばいな、俺もこの瘴気ってやつにはそんなに耐性がないんだが、と思いました。


「さっき一瞬晴れたのは何だったんだ、あれが来れば勝機はありそうだが……」とも呟きます。



━━━━━《由良視点》━━━━━


 そのころ車内では、「美空さん、さっきのは?」と私が聞いていました。


「あれは怒雷どらいという術です。魔物やアヤカシにしか効果がありませんので一般の方や皆様・物品は大丈夫なのです。半魔に効くかどうかは、分かりかねますが。多少疲れてしまうので、何とも言えませんが」といわれました。


「あと二度ほど放てれば、後方の岩は崩れそうですが」と感覚的なことを言ってみます。


 すると、美空さんがうしろを向いて、「あら本当ですね、あの大きさの亀裂きれつだと二発か三発と言ったところでしょうか? あとはお任せすることになると思いますけれども大丈夫でしょうか? かなり疲れてしまいますので」といわれたのでした。


「前の大岩と後ろの大岩が結界を構成しているかもしれないので、その選択もありだと思います。スマホの電波も届きませんし、通信シグナルも今はほとんど見えないでしょう。多分最終位置で、シグナルが立ってるだけだと思います。無理を承知でやってみますか? ガードするだけなら私でもなんとかなりますし」といってみました。



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※この作品はフィクションです実在の人物や団体、

 ブランドなどとは関係ありません。


S&W M29:強力な.44マグナム弾を発射できる回転式拳銃リボルバーの一種。


FN P100:2030年に新型として製造されたP90の後継機種。


     A1型はP90と弾は共通である。


     A2型は5.56ミリNATO弾にも対応している。

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