第33話

「あら~大丈夫~?」


 支えてくれているのは……見た事のない女性……の姿をした男性だ。

 多分男性。

 翡翠みたいな綺麗な髪を緩く片方に垂らして結び、橙色の瞳が鮮やかだった。



 初対面の間違いなく美人に見える男性の登場に、頭はフリーズする。


「どうした? 夜に教会でという話じゃなかったか?」


 リアムが何でもない様に話しかけているのだから、彼の知り合いなのだと思うんだけど……


「ちょっと急ぎで報告があるのよ。今大丈夫かしら」


 愉しそうに私を見ていた美人な男性は、リアムが声をかけた途端、酷く真面目な顔になって話し出したものだから更にビックリ。


「分かった。ミウ、レッドと表通りを散策していてくれると助かる。ウィル、普通の狼よりは大きなサイズになって護衛を」


 リアムはその男性の言葉にすぐさま肯いた後、矢継ぎ早に指示を出す。


「わ、分かりました」


 私がどうにか肯いたのを確認してからなのだと思うけど、レッドとウィルが目の前に現れて本当に驚いた。


「任せた」


 チラリと私達へと視線を向けてからリアムは女装した男性と足早に去って行った。



 それを見送りながらどうしようと戸惑ってしまう。

 表通り……

 この世界に来てから都市に入った事が無いから、ちょっとどころじゃなくドキドキしている。



 何度か深呼吸してから、勇気を出して表通りに通じているらしいドアを一直線に目指して、ドアノブに手を置いてからまた何度も深呼吸を繰り返した後、どうにか扉を開けてみた。



 ――――この世界に来て一番の人通りだと思う。



 なんだろう?

 歩行者天国なのかな。

 車二台が余裕ですれ違えるくらいの石畳の道の両端に、一段高くなって歩行者用らしい石畳の模様が違うけれど確かに道がある。

 車道も歩道も関係なしに人は歩いているんだから、多分歩行者天国的な何かの日だと思う。



 人が引っ切り無しに往来していてドキドキと胸が鳴るのを抑えながら、おっかなびっくり道に出てみた。

 人がちょっと目を丸くしてから避けて行くことに驚きながら、キョロキョロと周りへと視線を向ける。

 視線が結構私に向いていてどうにも落ち着かない。

 レッドとウィルがいるからかな?


 周囲の店も世界遺産の歴史保存地区の様でありながらお洒落て清潔感があると思う。

 あまり飛行機とか好きじゃないし、特にヨーロッパに興味があった訳じゃないから詳しいわけじゃないんだけど……



 ただ、ギリシャとかローマとかの街並みっぽさもあると思う。

 地中海沿岸の町、みたいな感じというか。



 通りが全体的にカラフルな壁だけど、白が基調となってるから派手で目に染みるという訳じゃなくて、明るい印象と綺麗だなというのが感想だ。

 色々な看板が店先にあって、それもデザインが分かりやすいし見やすい。



 どうしよう。

 通りを歩いてみても良いのかな……



 レッドへ視線を向けると、特に表情も無くトコトコと歩き出したものだから慌ててついて行く。



 レッドさんは歩行者用らしい所をトコトコトコトコ歩いて行く。

 唐突に止まったかと思えばドアに触れてもいないのに、どこかのお店らしい所の扉が開いていくから、どうしたら良いか分からず混乱してしまう。



 そんな私を置き去りに、またトコトコとレッドさんは店に入って行ってしまった。

 ウィルは私に視線を一瞬向けてから服を噛んで引っ張るものだから、ヨロヨロ引きずられながら何の店かも分からず入っていくしかなかった。


「いらっしゃいませー!」


 元気のいい声と共に笑顔を向けてくれたのは、二十代以上だろうけれど年齢不詳に見える明るい印象の美人の女性。


「あら……? ウィル様にレッド様ですか? リアム様はどうなさいました? それにこちらのお嬢様は?」


 不思議そうに眼を瞬かせているこの店の店員さんらしい女性へ、トコトコとレッドは近づくと、ポンと何か石を手渡した。


「再生すればよろしいのでしょうか?」


 その女性を見てレッドが一つ肯くと、彼女は手に乗せれられたキラキラと眩く輝いている石へともう一つの手を重ねる。

 すると更に白く輝いた後、石はまるで沈黙した様に静かに光が落ち着いた。


「分かりました。お嬢様のお洋服一式揃えるようにとの事ですので、サイズを測らせて頂けますでしょうか? 否でしたら目測させて頂きますので御安心ください」


 笑顔で店員さんらしい女性が言った言葉に百面相になりながら、どうにか言葉を返す。

 中身はフリーズしているからもう訳が分かんなくて逃げ出したい。


「――――どういうことか分からないので、説明お願いします」


 キョトンとした店員さんは、納得するように肯いてから温かい笑顔で答えてくれた。


「申し訳ありません。既に伺っているものとばかり。お嬢様がこれからお仕事と生活に必要な衣服を靴等の服飾品含めまして一式揃える様にとの事でございます。お仕事用、普段、外出、就寝とそれぞれ三セットずつを最低限。それ以外はお嬢様のお望み分を好きなだけとの事でございます」


 ――――目が点になるってこういう事なのかな……

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