第28話
口を一旦閉じたリアムは、大きくため息を吐いた。
とても忌々しそうに。
「宦官の中に去勢したと偽るだろう輩が出るのは分かっていた。それによって血筋が汚染される事を危惧されていたから対策はとられていたんだ。それであるにも関わらず国が崩壊するほどの事態になったのは、穴があったからだ。対策の穴がね」
血筋の汚染対策はされていた?
遺伝子検査みたいなものがあるということ?
私が首を傾げていると、リアムは苦笑しながら教えてくれた。
「ある程度神の血が濃くないと反応しない魔法石があるんだ。それに血を一滴でも垂らせば良い。血が濃くない場合は一切魔法石は光らない。光の強さで血の濃さを測るんだ。濃ければ濃い程、つまり血を垂らした時の魔法石が眩ければ眩い程に皇帝としての資格があるとされる。今でもそうだね」
目を丸くしている私に優しい笑みを向けてから、リアムは難しい表情になり話を続ける。
「宦官は先程も言ったように去勢した男性だ。だからこそ男性としての性機能があるかどうかが分かる魔法の道具はあった。後宮に入る時にそれで何度も何度も調べていた。ところがだ、男性の性機能が在るか無いかのみに特化していた弊害で、男装している女性を見落としていたんだ。これはある意味あえて長く見逃されていたんだが……結果的にはそれが最悪の結果を招いた」
あえて見逃されていた……
もしかして、Y染色体みたいに男性だけが受け継ぐ遺伝子とかがあるのかな……
それで男系継嗣が大事なんだってお父さんが言ってた。
だから宦官が女性でも問題は無かった。
なら、どうして最悪の結果に……?
私の頭が疑問で一杯になったのを察したのだろう。
リアムは一つ重い溜息を吐いてから続きを話し出した。
「起こった事を簡単に言えば、当時の皇帝陛下を始め男性の皇族がほぼ篭絡された。男装した女性の宦官に。本来魅了系の魔法は後宮では効果は無い。無いはずだった。打ち消す魔法が施されいるんだ。だが、彼女は……最悪な事に例外だったんだよ。おかげで男性の皇族のほぼ全員が誑かされてオカシクなった。彼女を独占しようとね。結果、内乱でほぼ全ての皇族が死に絶えた。大陸中が酷く荒廃した。皇族同士の魔法の打ち合いが最たる原因だ。毒殺に始まりお互いがお互いを殺し合ったんだ。……その宦官の女性に唆されてね」
……何故、その女性の魔法は効果があったんだろう?
それに、男装して宦官になって、どうしてそこまでするようにしたのかが分からない。
本当は、彼女は何がしたかったんだろう……
「何故その男装した宦官が魅了系の魔法を使えたかと言えば、皇族の血を引いていたからだ。……とても濃いね」
リアムはどこか突き放したような表情で言葉を続ける。
私は、”とても濃い”という所を強調していたのが気になってしまう。
濃いって一体どういう事?
後宮にわざわざ設置されているくらいの打ち消す魔法が効かないって、相当魔法の力が強いっていう事だよね。
想定以上だった、で合ってると思うんだけど。
それだけ力があったのに、どうして男性として宦官なんて……
「ああ、そうだった。大事な事を忘れていた。皇族の血を引いていたからというのは知られていない。邪神の信徒由来の能力とされているから、対外的には邪神は恐ろしいというスタンスでいるといい」
……どういう表情をすれば良いのか分からない……
「大丈夫大丈夫。うっかりポロッと皇族云々口にしても、邪神はやはり悪、とか言ってれば誰も疑わないから。皇族が特別な能力持ちが多い事も知られているし、最終的には生き残りの皇族に男装の宦官は討たれている。邪神も目障りだから皇族を狙ったんだろうしという話になるんだ」
眩しい笑顔のリアムに、私はただ肯くしか出来なかった。
「今のウーヌス帝国の皇帝陛下は、宦官を殺した生き残りの皇族の末裔だ。内乱の結果、皇族の遠縁の連中が建国して国が無数にできたんだ。現在のエトルリア大陸はかなり国の数が減って統一されている。昔は誰も彼もが皇族の裔だと言って建国していたからね。ただウーヌス帝国には皇族の血を引いているかどうか見極めるモノが遺されていたから、段々淘汰されていったんだ。ウーヌス帝国の上から下まで全員、エトルリア帝国の時代に戻るべしっというスローガンで凝り固まっているから、十分気を付けて」
ただただ圧倒されてしまっている私に、リアムは苦笑している。
「これを知っていると知らないとで大きいからね。まあその男装の宦官の女性の所為で、髪の短い女性や男装している女性に対して非常に厳しい対応になるんだ。未だにね」
私が難しい表情をしているからだろう、リアムは優しく微笑しながら続ける。
「彼女の目的が分からないという顔だ。端的に言えば復讐だよ。名前も性別も偽って宦官として後宮に入ったのも、敢えて皇族の男性同士を殺し合わせたのも。彼女の親だとされていた男も彼女の虜にされていてね。何でもしたそうだ。けれどその女性にとっては、その親として後宮に送り出させた男も復讐対象だった。だから後に長い拷問の末に殺している」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます