第26話
「……あの、リアム……?」
恐る恐る声を出していた。
何が行われるのかが分からなくて。
リアムに見捨てられるのか不安で不安で訳も無く震えが止まらない。
「大丈夫。説明すると気が付かれる可能性があってね。でも、何とかなるから」
リアムが温かで優しい眼差しと声で伝えてくれる言葉に、震えながら肯いた。
この人に任せよう。
そう思った。
私には既に自分についての決定権は無いのは分かっていたから。
――――それなのに態々私の意見を聞いてから動いてくれるリアムには感謝しかない。
「わ、分かりました。……心を落ち着かせるのは……むずかしい、かもです……」
心がどうしても落ち着かない。
不安と心配に押しつぶされそうで、平静な状態になんてなれっこない。
そんな自分が情けなくて下を向いてしまった。
「心配はいらないから。大丈夫だ。誰だって不安になる。だからそれ用の魔法もあるんだ。少し目を閉じていてくれ。それで終わりだから」
リアムは私の肩に手を置きながら安心させる様に優しい笑みを浮かべている。
それに促されて私は静かに目を閉じた。
瞬間、強い光を瞼に感じる。
「良し。目を開けても良いよ、ミウ」
恐る恐る目を開くと、不思議と視界が明るい様な気がした。
今までは何か霞みでもかかっていたかのように感じて目を瞬く。
見え方が違う。
色彩も鮮やかな気がするし、何よりも――――
「うん。大丈夫そうだ。上手くいったよ、ミウ」
今まで以上にリアムが眩しく感じてしまう。
一枚色をくすませる眼鏡でもかけていたかのようだ。
リアムの優しくて綺麗な銀の髪も透き通るような青い瞳も、さっきまでの比じゃない位にキラキラ輝いている気がして、真面に彼を見れなくなった。
目が吸い寄せられるし全身が、特に顔が熱を持つし熱くて熱くて……
「ミウ? どうしたんだい?」
リアムが首を傾げている姿さえ、動悸がおかしくなる。
「……ミウ、もう一つ良いかな?」
首を傾げていたリアムが、大きく息を吐いて私を真剣に見詰めていた。
ただならぬ気配を感じて、知らずに目を瞬かせてしまう。
……淡い期待に更に脈が速くなった。
「髪型を変えてもらいたいんだ」
唐突に言われて、色々霧散した結果、居た堪れなくなった。
……私って……
「難しいかな……? 何か宗教的な制約や種族的な決まりごとが?」
出逢ってから見た事が無い様な不安そうな眼差しに面喰いながら、どうにか言葉を口にする。
「ええと、髪型を変える事は特に抵抗もないですけど、理由を教えてもらえますか? それと、宗教的? と種族的な? というのは?」
私にはあまりなじみのない言葉に驚きつつ、理由を聞いていた。
特に嫌だとかこの髪型に固執した覚えも無いけれど、美容師さんのアドバイスでしたミディアムの下ろした髪だ。
変えるのなら単純に理由を知りたいと思った。
「確かに説明不足だった。この国では、否、この世界ではだね。幼い子供ではない女性の髪が短い事は忌避される。最低でも胸の辺りまで無いと……出来れば腰まであった方が安心かな。短い髪の女性は罪人か異常者というのが常識なんだ。だから君に宗教的か種族として髪型を変えられない事情があるのなら仕方がないけれど、出来得るなら髪を丸くまとめてもらえると色々誤魔化せると思ったんだよ。どうしても髪を下ろしていたり軽く結んでいるだけだとその髪の長さでは悪目立ちしてしまう。流石に帝都でその髪の長さは……」
リアムが言葉を濁すというのは、彼と出逢ってまだ間もないけれど相当に重い事態だと分かってしまった。
ただ、こちらでは宗教の決まり事はかなり重要視されるみたい。
あ、でもそうだ。
日本でも厳しい修行をしたりする人達もいるのはお父さんに教えてもらっていた。
こちらの国? 世界? ではやっぱり私が思っている以上に信仰心が篤いのが当たり前なんだ。
あれ?
でも、種族?
リアムは何故種族って……
「あの、リアム。人間以外の言葉や共通の決まり事を持っている種族がいるんですか?」
目を瞬かせたリアムは、一つ肯いて口を開いた。
「ああ、どう言ったら良いかな……シビュラ大陸に代々暮らしている人々を、エトルリア大陸に住んでいる者達は『シビュラ族』という自分達とは別の種族で人間ではない、という認識しているんだ。だから特に帝国人なんかは彼等は『亜人間』だから自分達より魔力が強いのは当たり前、という自己欺瞞をしたりしている。帝国の中でも貴族はより顕著だね。私の認識としては同じ人間なんだが……色々難しい所だ」
色々複雑そう……
でも、分からなくもないかも。
私も絶対に敵わないならきっと自分を騙してどうにか心の平穏を保とうとすると思う。
ちょっと不安になったから訊いてみよう。
どうして髪が短いといけないのかが分からないから。
それも女性だけというのは疑問だし。
「あの、リアム。どうして女性だけが髪が短いと罪人や異常者というレッテルを張られてしまうんですか?」
リアムが眉根を寄せて口を覆い何か悩みだしたものだから、訊いたらいけないことだったのかもしれないと自己嫌悪にドップリ浸ってしまった。
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