第24話

 温かい温もりに包まれた事で意識が戻ってきた。

 ……どうなったんだったかな?



 ああ、そうだ、『奴隷の首輪』。

 物騒な名前のそれが私の首に――――



 手を首に当てようとした時、どうやら私は抱きしめられている事に気が付いた。


「ああ、良かった。大丈夫か?」


 耳元でするリアムの優しく響く美声に、私の頭は大パニックで何故か体温が急上昇。

 顔が熱い。

 心臓も早鐘どころじゃなく打ちまくっているし、全身が熱くて熱くておかしくなりそうだ。


「だ、大丈夫です! ええとどうなってこうなったんでしょうか!?」


 この状態でいたい様ないたらおかしくなりそうな混乱中。

 どうにか出た声は裏返っている。


「もう大丈夫そうだな。君が唐突に気を失ったので支えたんだが……すまなかった」


 リアムはあっさりと私から手を離す。

 表情もいつものまま。



 その事が何故だろう。

 無性に悲しいし悔しくてグチャグチャな心を持て余して、下を向いてしまった。

 さっきまでの心臓の速い鼓動も、全身の熱さも嘘みたいに引いていく。


「『奴隷の首輪』について説明した方が良さそうだ。そちらの世界には無いようだから」


 リアムは静かに私を見ているようで見ないで、顎に手を当てた。

 そしてまたリアムの瞳は何処か別の所を彷徨ってから、私の首に嵌められているナニカを見る。


「何らかの対価と共に持ち主に絶対服従を強制する魔道具はいくつかある。その中でも『奴隷の首輪』は最も安価で大陸で主に広まっている代物だ。基本的に奴隷ならば皆付けられている。ここまでは良いかな?」


 リアムが真面目な表情で告げる言葉をどうにか理解しようとするんだけど……

 どうしてそうなってしまったのかを考えた。



 あの薄いお粥っぽいのの対価が『奴隷の首輪』にどうしてなるんだろう……

 絶対従うという重い枷を嵌められる程の事とは思いない。

 おかしいとしか言えないと思うんだけど……


「君が考えるだろう事は分かる。確かに見合わない対価だろう。だが、別段契約が等価交換でなければならないという決まりはない。特に奴隷に堕ちる様な人々に対しては。この大陸ならば『奴隷の首輪』を嵌められるような人物はその程度という認識だ。『奴隷の首輪』に抵抗できない輩は奴隷になるべくして存在しているというのは、世界共通の価値観だな」


 さも当たり前という風なリアムに愕然となる。

 奴隷になるべく存在しているって……

 抵抗って何かさえ分からないのに。



 等価交換じゃないって……

 それじゃあんまりにも酷すぎる。

 なのに嵌めた人が悪いんじゃなくて、嵌められた人が悪いって……

 あんまりにもあんまりだ。


 それじゃあ何の落ち度が無くても『奴隷の首輪』を嵌められて奴隷になってしまうっていう事じゃないの……



 折角希望が湧いて生きていたのに、今はどんどん力が体から抜けて行って真面に考えられなくなる。



 どうして私が……

 何も悪いことしてないよね……

 今まで普通に生きてきただけで、どうしてこうなるの……



「基本的に『奴隷の首輪』は帝国の平民の一般的な魔力があれば嵌められることはない。それくらいあれば何の問題も無く抵抗できるから。効果は無いんだ。平民としてと言えるほどのあれば」


 リアムの言葉が、私の頭の中を流れて行く。

 つまり……


「そう。『奴隷の首輪』を始めそれ系の代物は、で作られている。だから純粋な帝国民にとっては何も怖くはないのが『奴隷の首輪』。それ以上のモノになると値段が跳ねあがるからあまり使われることも無い。とはいえ、帝国の住人として最低限の魔力というのは……」


 リアムは顔を顰めて大きく息を吐いた。



 それだけで察する事は簡単だ。

 帝国の人達は他の人達より魔力が強いんだと思う。

 だから自分たちの基準で相手を従わせるモノを作ったんだ。



 あれ?

 でも……


「ああ。因みにだが、帝国よりもシビュラ大陸の民の方が魔力量は多い。それこそ格が違うと言わんばかりに。これが様々に厄介でね……帝国人にとってのコンプレックスとでも言えばいいのか……だから帝国人の前でシビュラ大陸の人間についての話は禁句だ。いいね」


 リアムが先程より真剣さが感じられる眼差しで告げる言葉に、兎に角肯いた。


「すまない。話がそれた。それでだ、ミウ。君に嵌められている『奴隷の首輪』は何の問題も無く作用している。それはだ、君が『奴隷の首輪』に抵抗しなかったから、ではない。もっとこれは帝国に都合の良いモノだ。要するに帝国民ならば劣化品の選別。他国であれば良い労働力の確保を担うのが『奴隷の首輪』。一定以上の魔力があれば一切の効果がないんだ、は。抵抗する意味さえない。抵抗して防ぐレベルは帝国民としては要らない存在だな。だから罠にはまって知らずに嵌められても帝国は何もしない。抵抗して防げるレベルなら嵌められた後でも自分でどうにかできる可能性がある。そして今重要なのは、この『奴隷の首輪』は君が抵抗しようが普通に作用するという事。つまり、今の君の生殺与奪を含む全ての権限は、その『奴隷の首輪』の所有者のモノという事だ」

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