第23話
明日早速ウーヌス帝国の帝都であるアイオーニオンへと向かうというので、寝た方が良いとリアムに進められたけど……
「あの、リアム。貴方はどこで寝るんですか?」
テントはもう一人寝れるとは思うんだけど、でも、その、ですね。
私が耐えられそうにありません……
「ああ、大丈夫だ。私は寝る必要が無いから」
リアムがさも当然の様に言う言葉に訳が分からず混乱する。
「え? でも寝ないと、あの……」
言葉が上手く出てこない。
心配なのに、それが上手く出てこない。
私に気を使っているのかもしれないと思うのに、それが嬉しい私は終わってる。
「ああ。”神の愛し児”はあまり睡眠の必要が無いんだ。特に”結界”の外は寝るという習慣が私には無くて。だから大丈夫だ」
リアムは優しく微笑んでくれるのに、私の心が何故かちょっと悲しくなって自分で自分が嫌になる。
「あの、結界の外、というのはどういう事でしょうか?」
嫌な自分を誤魔化すために、気になった事を訊いてみる。
「普通この大陸では、否、この世界では、か。都市や町、村、集落、兎に角人が複数住む場所には”結界”が張ってあるものなんだ。それによって魔物や魔獣を防いでいる。個人用の”魔物魔獣除けの結界”は非常に高価だから、普通は王族貴族しか使わない。ただ最近はどうも”結界”が通用しない事態が出てきているらしくてね。皆”結界”の外に出る際は護衛必須。交代で寝ずの番となっているんだ。それでも遭遇した魔物や魔獣次第ではどうにもならないんだが」
リアムの言葉を聞いたからこそわかる。
私は今まで本当によく無事だったということが。
魔物や魔獣という存在に出遭ったけれど気が付かれずに無事だった私は、実はとても運が良かったんだ。
あの時、もしあの人達を襲ったナニカに私が認識されていたらと思うとゾッとする。
間違いなく、私はあそこで死んでいた。
――――リアムに出逢う事もなく。
そう思うと、自分の幸運に感謝しかない。
私が色んな意味で無事だったことが、純粋に嬉しい。
……あの人達がどうなったのかは、考えたら立ち直れない気がした。
死が、こんなにも近い場所。
そんなところに私はいるんだ。
知らない内に体が震えていた。
今彼といるこの場所を安全と言えるところだと認識したからかな。
そこにいるからこそ、私は怖いと思った。
この世界が、何もかもが。
――――私は、帰れるのかな……
考えている事がどうにも後ろ向き真っ逆さまの時、リアムの声がした。
「ミウ。気になっていたんだが、そのチョーカーは?」
私が短い間で知ったリアムという人は、優しい笑顔を浮かべているけれど、猫の様な悪戯っぽい瞳が印象的な存在。
そんな彼が、初めて見る程厳しい眼差しで私の首を見つめていた。
「……え? これ!? いつの間に……って、あ! あの時……」
首に見慣れないモノがある事に驚きながら、いつ付けたのかと考えてみた時に思い出したのは……
「どういう状況で付けられたか教えてもらえるかな?」
いつになく緊迫した声に戸惑ってしまう。
表情は優しげなものだけど、瞳の真面目さに余程の事なのかと怖くなりながら、どうにか言葉にした。
「……ええと、確か……森の中を彷徨っていた時、どうにか道に出た後……朝だったからだろうけど、朝食を摂っている集団がいて……その人達に食事を分けてくれるように頼んだら分けてもらえたんです。その後……そう、そうだ、おかわりを頼んた時に、だと思うんですけど、その時におかわりを持ってきてくれた人に付けられた……のだと思います」
記憶を探り探りだから端的に説明できなかったことに落ち込んだ。
もう少しちゃんと説明しないとだよね……
「そうか……話してくれてありがとう、ミウ。そのチョーカーは外した方が良い。自分で外せるか試してもらえるかな?」
リアムの優しい笑顔ながら真剣な瞳に恐々と肯き、自分では見えないから何とも言えないけれど、彼の言葉を借りるのならチョーカーだというモノを外そうとする。
したんだけど……
「――――……あの……どうやっても外せないというか……そもそも触れないみたいです……何かあるのは分かるんです。でも……上手く言えないんですけど、こう、膜? みたいなのがあってどうしようもなくて……」
この感覚をどう伝えて良いかが全然分からない。
あまりにも自然に私に馴染んでいるんだけど、触ると確かにナニカはある。
リアムに言われなければ気が付きさえしなかった。
それくらい当たり前に私の首にはまっているんだ。
「……やはりか……ミウ。落ち着いて聞いて欲しい。それは『奴隷の首輪』と言われるものだ」
リアムは大きくため息を吐いてから、私を案じるように見詰めながら教えてくれたんだけど……
私には衝撃があまりにも強くて、呆然自失して身体の制御も覚束ないからかな。
全身の力が見事に抜けていった。
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