第12話
目を開けると、そこは何か布の天井の様だった。
どうしてそこに居るのかも分からず、混乱する。
息を吐いて吸ってを繰り返して何とか落ち着こうとした時、気が付く。
あれ程寒かったのに、今は寒くは無い。
それに、お腹、痛くない、と思う。
何とか落ち着き、腹と腕に力を入れ、よっこらせと気合を入れて起き上がる。
あの時は這って進むのさえ無理だったのに、今は身体を何とか持ち上げる力はあるらしい。
起き上がって気が付いたのは、私の服が違う事。
上着も着せられているし、下も清潔な服が着せられているみたいだ。
気持ち大き目の服に首を傾げつつ、自分の周りを見てみる。
人が二、三人は余裕で入れそうな、テント、だと思う、その中に居るらしい事が分かる。
テントみたいだけど、暖かい。
暑すぎる訳でもなくて、心身がかじかんでいたのが解れるぽかぽかな感じ。
暖房器具は無いみたいなのに、どうしてかな……?
私が寝ていた所には敷布団らしき物や枕、毛布があるのが確認できた。
他には特に荷物が有る訳でもない。
立ち上がれるほどの高さもあるテントに首を傾げていると、雨音がする事に気が付いた。
テントにあたっているのかな……?
お父さんのテントの様に撥水加工されている化学繊維でもなさそうなのに、濡れていない様だし、風も通していない事に疑問を感じた。
そこまで見回して、思ったのは、誰かが、私を、助けてくれたという事。
――――最後の記憶が甦る……
そうだ、誰かが私に話しかけてくれた。
皆が私を来たない物を見る様に避けて無視する中、誰かが……
そして、その誰かが、何かを訊いた気がしたのに、もうボロボロだった私は覚えていない。
何を、訊かれたのかな……
キョロキョロと辺りを見回しても、誰も居ない。
でも、テントを見る限り人の痕跡はある。
何処にいるのかな……
もしかして、外?
そう気が付いた時、中々力の入らない身体を無理矢理動かし、慌ててテントの外に出てみようと足を踏みだす。
入り口らしい所を捲ると、私は呆然としてしまった。
そこにいたのは、見たら最後意識が奪われてしまいそうな程、容姿の整った、二十歳以上だろう事以外だと不思議と年齢が良く分からない男性。
何となく、悪戯っぽい瞳が特に印象的に感じるけど、兎に角綺麗で、見惚れるしかない。
優しい銀髪に、深く濃い綺麗な青い瞳。
整った容貌は溜め息も漏れる暇はない位凄まじい。
思考が奪われて、テントの入り口で布を持ち上げたまま停止した私に、彼は気さくに、明るくて優しい美声を掛けてきた。
「目が覚めたか? ちょっと待ってくれ、今スープをよそうから」
その声を聞いたら、不思議と心が温かくなった。
思わず肯き、テントから出ようとするけれど、靴を履いていない事に気が付いて、どうしようとオロオロ。
「ああ、君の靴は洗って乾かしてあるけど、テントの中の方が良いと思う。まだ本調子じゃないだろうし。入り口付近に居てくれたら、スープを手渡すから」
そう言って綺麗な男性は、テントの入り口の布を捲って固定してくれた。
ちょこんと入り口付近に正座し、周りをまたキョロキョロする。
どうやら、木と木の間に確かタープだっけ? そう、布を渡してどうやらテントと自分の居る場所の雨除けをしているらしい男性。
そして気が付く。
まだ雨は激しく降っているのに、全然雨漏りがしていない事に。
彼の座っている椅子? 椅子だと思う、その前には火が焚かれていて、鍋がかけられている。
その鍋にはポタージュっぽい飲みやすそうなスープが入っていて、彼はそれを木製の深めのスープ皿によそってくれていた。
「豆と色々野菜のポタージュ風だ。柔らかくなるまで煮込んで潰してあるから君でも飲みやすいと思う。急いで飲まずに、ゆっくり飲んだ方が良い。治しはしたけど、突然大量に入れたら胃が驚くだろうから、慎重に」
そう言って彼は私にスープ皿と木製のスプーンを手渡してくれた。
持つのも結構疲れる事に驚きつつ、何とかかんとかスプーンにすくって、思わず匂いを嗅ぐと、温かくて、心に沁みる良い匂いがした。
お腹が急にグウと鳴り、ああ、あの粥っぽいスープ以来の食事だと気が付いて、何かが込み上げてくる。
同時に恥ずかしくなるが、沸いてきた食欲には到底敵わない。
そう、お腹は、もう背中とお腹がくっついてしまいそうな程、ペコペコだった……
一口、口にする。
温かくて、甘くて、凄く美味しい……
野菜の甘さとか、潰してあるという通り、トロトロで、とても飲みやすいそのスープに、純粋に感動していた。
「どうだ? 食べられそうか?」
彼の優しい言葉を聞いたら、もうダメ。
後から後から涙が零れて止まらない……
心の奥底から湧き出て来て、決壊したみたいに流れてくる。
嗚咽も漏れて、みっともなくて、情けない。
でも、スープを零しちゃいけないと必死で死守している状態。
もう色々限界で、人の優しさが本当に嬉しくて……
自分が最悪の状態だったのは分かっている。
そこを救ってくれたこの人の温かさが、スープからも伝わって、もう、涙も嗚咽も止まらない。
「辛かったな。良く頑張った」
彼がそう言って私の頭を優しく撫でてくれて、その温もりが嬉しくて、ただただ泣いた。
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