第11話
どれ位呆然としていたのかな?
全然止まってくれない自分の排泄物と痛みに、もう何も考えられない……
どうして良いか分からない。
上半身は裸で排泄物まみれ。
下半身も自分の排泄物で汚染されている。
なんだか無性に泣きたいのに、心は空っぽで何も反応してくれない。
惨めで、情けなくて、恥ずかしい。
もう動くのも嫌だと思考を放棄しているのに、ブリブチュと相変わらず垂れ流される排泄物に、もう何もかもが嫌になる……
どうしてこうなったのかも分からない。
私、何かしたっけ?
ただ、いつも通りに生活していただけだよね。
それがこんな所に跳ばされて、ようやく見つけた人達には襲われて、そして良い人達だと思ったのに見捨てられて……
そうしてただ無心に蹲っていると、色々な人が私を素通りしていくのが分かる。
私のいる場所が、木が無くて馬車も止められる位の広場になっているのがようやく分かった。
ただ我慢して必死に耐えていた私は気が付かなかったけど、ここってもしかしてトイレ休憩の場所だったりするのだろうかと思った。
奥にそれなりの建物があって、皆そこに入ってしばらくしてから出て行くからだ。
そうして思う。
折角トイレの場所まで連れて来てくれたのに、私が漏らしたりするから、置いて行ってしまったのかな……
自分が情けなくて、あの人達に申し訳なくて、何もかもがもう嫌で涙は出ないけど、誰も私に声を掛けて来ない事に安堵もしているのに気が付く。
こんな状態で話しかけられても、私もどうしたらいいかが分からない。
人が皆私を避けていく……
当然だよねと思うのに、誰か助けてとも思う。
ただ無心に蹲っているなんて私には出来なくて、助けてほしいと、切に思うのに、声も出ない……
何か言いながら私を避けていく人達もいる。
だけど、私を助けてくれる人なんて、誰一人としていない……
相変わらずお腹は痛くて、肛門も緩みっぱなしで垂れ流し、本当にもう全てを放りだしたい位嫌になってるのに、それでも生きたいのだとも思う。
……帰りたい……
私は家に帰りたい……
家に帰ったらきっと直ぐにお母さんがお父さんに診せてくれて、お父さんがちゃんと治療してくれる。
そうだ、小さい時に吐き気が止まらなくて酷い時も、私の吐瀉物を嫌がらずに片付けてくれたのは家族だった。
今の私の状態でも、見捨てないんだろうなと思えるのは家族だけで、だから、私は家に帰りたい。
何があっても味方でいてくれる事のありがたさが、今になって本当に分かる。
今頃分かったダメな娘でごめんなさい……
もっと良い子になるから、だから、家に返して下さい……
私はそれを一心に祈っているのに、神様は叶えてくれる気配はちっともない。
その事に渇いた笑いが漏れる頃、出るものも無くなって、水の様な便が相変わらず垂れ流されていると言うのに、空も暗くなってきているのが分かってしまった。
そうか、もう夜なんだ……
夜の暗闇に包まれて、臭いも麻痺はしているけどきっと酷いだろうから、獣は襲ってこないでしょと、それだけを祈る。
こんな状態でも死にたくはなくて、ガタガタと痛みと恐怖で震えてただひたすら目を閉じていたら、いつの間にか朝になってしまう。
それでも止まってくれないのは私の排泄物だ。
止まったと思ったら、何かの拍子にまたボタボタと垂れ流される。
ほとほと嫌になって、もうその事も考えられなくなった頃、雲で太陽が見えなくなった。
そしてしばらくして、大粒の雨が後から後から叩き付ける様に振ってきた……
雨特有の匂いがしたと思ったら、もう土砂降り。
私を容赦なく濡れ鼠にしていく。
空が暗くなってから人が居なくなったと思っていたんだよね、もしかして雨宿りの準備でもしていたのかな?
そんな明後日に思考が飛ぶ。
だってこんな状態で雨に当たって、私が無事に済む保証なんてより一層無いって事くらい、いくら私でも分かる。
それを裏付ける様に、上着の無い上半身は一応は一時的に綺麗にはなったけど、今度は雨の飛び跳ねる雫で排泄物と泥まみれになっていくのと同時に、寒くて堪らなくて、ガタガタと震えが走る。
ガクガクと鳴る歯。
それでも立ち上がれない身体を動かし、木の下に行こうとするのに、もう身体に力はまるで入らず、その場から動けない。
冷たい雨に降られて、震えは止まらないし、目だって開けていられない。
こんなボロボロでも、まだ私は死にたくない……
死にたくないの……!
誰か、誰でも良いの、誰か、誰か助けて……!!
心の中では必死に叫んでいるんだけど、声はかすれて、誰にも届かない……
もしかしたら声さえ出てはいないのかもしれない。
声を出していると思っているだけかも……
雨に当たり放題で、体温が急速に下がっていったのだろう。
意識も朦朧とし、手足の先から感覚が失われていく。
段々何も感じなくなっていくのに、それをどうとも思わなくなてきた。
辺りも真っ暗で、何も見えない、聞こえな――――
「生きたいか?」
唐突に耳に入って来た声。
霞む意識の中でも、不思議と心地良く、スルりと私の脳内に響いてくる。
私は、ただ夢中で、その声に答えようとする。
全身に力を入れようともがくのに、何も出来ず、目を開ける事も出来ない。
辛うじて動いた瞼は、何とか強く閉じて、肯こうとする。
こんなんじゃ、きっと分かってもらえない……
私の体力はもう無い。
でも、これが、きっと最後の機会!
瞼に全意識を集中させ、辛うじて動いたと思う。
それ以降の記憶は、ぷっつりと闇に閉ざされた……
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