第10話

 グルグルとマイナス思考に陥っても、何の解決策も見いだせない。

 ただ思ったのは、どうやったら帰れるのか、その一点。



 ここ、訳が分からないんだ。

 トイレだって無いし、だから低木の影でして、持っていたティッシュで拭くしかなかったし……

 それだって一緒に居た人達に遅れない様に必死になりながらだから、もう焦ってばかりで気も休まらなかった。



 キャンプ場にはトレイが必ず併設されていて、どれだけ清潔な環境だったのかと思い知る。

 何か外のトイレってどうなのとか思っていた自分に、日本のトイレの綺麗さが身に染みて今更分かっても、戻れないんじゃどうしたら良いのよ……



 体育座りし、足に顔を付けて泣くのを必死に堪える。

 取りあえず、良い人に出会えたのかもしれないんだから、もしかしたら運良く帰れたりだって出来るって……!

 そう自分を鼓舞し、精神の安定を図る。



 もう何だか、全部が嫌になりかかっているんだ。

 こんなに頑張っても、結局どうにもならないんじゃないかとか、マイナス思考は引っ切り無しに私に諦めさせようとする。



 それでも思う。

 死にたくないと。

 やっぱり生きていたい。

 生きていなくちゃ、帰れる可能性だって消えてしまう。

 なら、頑張らなきゃ。



 そうは思っても、現状どうして良いかまったく分からない。

 馬車に乗せてくれた人達に付いて行ったら、どこか生きていける場所とか紹介してくれないものかな?



 都合が良い考えなのは承知だ。

 でも今の私にはこの人達しか居ない。



 食べ物を分けてくれて、馬車にまで乗せてくれた。

 良い人達なのだと思う。

 だから何とか自力で生活出来るようになるまで、お世話になる事って無理なのかな……



 そんな事を考えながら馬車に揺られる。

 どれ位進んだんだろう?

 太陽が中天に来ているんじゃないかと思う頃合になっている。

 何だか段々お腹が痛い様な気がしてきた。



 ゴロゴロと鳴っている様な気もする。

 冷や汗が流れて止まらない。

 震えもさっきから出始めている。

 どうしよう、トイレ、トイレに行きたい……!



 声を掛けてみようか?

 そうするしかない。

 ここで漏らすなんて、そんなの絶対に嫌だ……!


「あの、トイレ、トイレに行かせてください!」


 私は身振り手振りで、恥も外聞も無く必死に訴える。


「×※●? △■×? ●×▽◇▲※◆○×■▼○□※●△◆×▲」


 そう言って、馬車を運転している人はまた前を向いてしまう。



 どうしよう、どうしよう、もう、漏れそう……!

 お腹のゴロゴロも止まらないし、冷や汗も滝の様に流れ出して目に沁みる。

 手足も諤々としているし、肛門はもう限界だと何かを放出しそうで、それを全神経を投入して抑え込んでいる。



 座る事も出来ず、立っているからバランスを取るのも大変で、それも余計に消耗を強いて来る。

 もう限界で、目の前が真っ暗。

 終わりだと思ったら、馬車が突然停止する。


「○◆、×※●▽。※■○」


 何か声を掛ける馬車を運転している人。

 それを合図に、皆が降りていく。



 私も何とか震える身体を動かし、馬車から降りる。

 焦って飛び降りてしまった影響だろう。

 肛門からの放出を止められなかった。



 水の様な便が後から後から止まらない。

 一度決壊した肛門は止まってくれず、もう成すがままだ。

 それは下着からあふれ出し、足を伝って地面に流れ落ちる。



 もうどうして良いか分からない私を置いてきぼりにして、流れ出るものは止まらない。

 恥ずかしくて惨めで死にたくなるのに、ちっとも止まってはくれず、ただ流れ落ちていく。



 もう顔は真っ赤で、目を閉じるしか出来る事は無くて、しゃがんで何とか隠そうとかしてるけど、開放感とは別の、ただただ苦痛な時間が続く。

 それでも流れ落ちるものは止まってくれず、ただただ出続ける。



 段々水としか思えない便になっているのに、それでも止まらない。

 お腹はゴロゴロ言いっ放しで、痛さも止まらず、もう立ち上がる事も動くことも出来ず垂れ流しだ。



 この森に来てからも一応便は出ていたが、それとは出方が明らかに違うのに気が付いても、どうして良いか分からない。

 もう全てが嫌で、羞恥心と後悔、諸々の大混乱。

 何とかしてとそればかり思っても、止まらず出っぱなし。



 どれくらい経ったんだろう?

 永遠とも思えるし、一瞬の様にも思える時間が経過した。

 お腹は先程と変わらずゴロゴロと言うし、さらにギリギリと痛みを訴えてくる始末で、医者に見せた方が良いのでは思い始めた頃に


「▽●×■※×▲▽■○×。※○◆▼□●×■△▼※▲○◇▼」


「◆×、□●※。◆△●□●◇※▼◇△×◆○●※▲」


「▼△」



 男の人達が何か言っているのは目を閉じていても聞こえてくる。

 もしかして医者でも呼んでくれるのかなと楽観的に考える事しか出来ない。

 恥ずかしくて、惨めで、どうして良いか本当に分からない。



 男の人達が唐突に、私を立たせようと腕を纏めて引っ張る。

 訳が分からない。

 運んでくれるのかとも思ったから目を開けてみる。


「……あ、あの?」


 お腹の痛さで出ない声を絞り出す私を無視して、強引に立たせて上着を脱がせ始める男の人達に、痛みと惨めさと恥ずかしさの中でも混乱していた。


「ど、どういう事なんでしょうか……?」


 怖さと混乱、恥ずかしさに惨めさで一杯の中、痛さで朦朧とするけど声を何とか発するのに、綺麗に無視される。

 そして男の人達は、私の制服のジャケットとシャツのボタン、上の下着を早々と外すと脱がせ、手を放す。



 力なんて入らない私の身体は、自分の垂れ流したものの中に糸が切れた操り人形さながらに崩れ落ちる。

 それを気にした風も無く、男達は私の制服のジャケットとシャツ、上の下着を持ち去ってしまう。


「ま、待ってください……」


 痛さと混乱でか細い声を一生懸命出しても、何も反応は無い。

 馬車を降りていた人達も私を避けて馬車に乗り込んでいく。



 護衛の人達も馬に乗ってしまう。



 必死に這って行って、馬車に乗り込もうとするのに、護衛の人の鞭が飛ぶ。

 当たりはしなかったけど、思わずビクッとなって手を離したすきに、馬車は走りだしてしまった。



 馬車が、馬車が行ってしまう……

 その事にも目の前が真っ暗になる。

 自分の肛門から出た物でグチョグチョに汚れながら、上半身は裸になってしまい、それも本当に本当に恥ずかしいし頭がどうにかなりそうだけど、それより何よりそれでも止まってくれなくて垂れ流すばかりの身体に、羞恥心を通り越し絶望するしかなかった……

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