第8話

 どれくらい走ったかな……

 息が切れそうになった頃に、人の姿を道の近くの広場の様になっている所で発見する。



 結構大勢、だと思う。

 どうやら火を起こして鍋をかけているのが分かった。

 食事をしようとしているのだと理解したけど、不審そうな沢山の目にも同時に気が付いてしまう。

 それに怯みそうになりがら、それでも必死に声を掛ける。


「あ、あの! 食事、分けてもらえませんか!!」


 身振り手振りを加え、分かって欲しいと心から願いつつ何とか伝える。


「▲○◇×●※■」


「○×■※△●、◇▼※□●□▲※※○」


「■○※×○◆」


「※△●、◇××▼□◇※●◇▲○○×」


「●※」


「×◇▲×。※■○△●」


 何人かの男の人達がどうやら話し合っていた。

 昨日まで一緒だった人達とは違い、剣や槍、鞭とか、きちんと武器らしい武器を彼等が所持している事に恐怖を覚えながら、それでも私は審判を待つ。

 もうそれしかない。

 あとはどうして良いかも本当に分からない。

 これで無理だったら、私は……


「▼×。■※●◇▲○※◆」


 武装した男の一人が、鍋から何かすくい、木の椀に入れて持ってきてくれる。



 飛び上がりそうに嬉しかった。

 良かった! 分かってくれたんだ!!

 良い人達で助かった!

 やっぱり格好って大事だよね。

 昨日までの人達とは服装、全然違うもの。



 そう思いながら、もう色々何も考えられず木の椀を受け取る。

 見てみると、薄い薄いお粥っぽい。

 量はお椀の半分ほどかな?

 スプーンが無いのは残念だけど、そこまで贅沢は言っていられない。

 この人達だって日本の普通の人達より服装は悪いんだから、当たり前だと言い聞かせ、口を付ける。


「薄っ」


 味が薄い。

 本当に薄い。

 塩味は辛うじて感じるけど、それだけだ。



 入っているのは、何だろう、粒々していて、お米じゃ無い感じだし……

 それも凄く量が少ない……

 ほとんど白いお湯状態……



 餓えていた私には、丸二日ぶりの食事な訳で、文句は言っていられない。

 もしかしたら一緒に行動させてもらえて、また食事を分けてもらえるのかもしれないし!



 そんな事を考えてはいたけど、兎に角お腹は空腹を訴えていて、もっと食べたいと主張して来る。

 頭はひたすら食べ物食べ物の大合唱。

 私にも拒絶する理由は無く、空腹に任せて一気にスープを飲み干した。


「……あの、もっともらえたりって、無理ですか……?」


 あんな量では到底足りなくて、図々しいのは分かっていたけどお腹の訴えには逆らえず、また手振り身振りで頑張って訴えてみる。


「□●▽■※○▼。×■○×▲※※。●◇▼×○◇、■×○▼△※×」


 木の椀を受け取った武装した男の人は、鍋からまたスープをすくい、渡してくれる。


「あ、あの、ありがとうございます」


 餓えすぎて頭が回らなかったけど、ご飯を分けてくれるのだから、お礼を言わないとと思い出した。

 無言でこちらをちらりとだけ見て、男は行ってしまう。



 考えてみれば、言葉、通じなかったよね……

 溜め息を吐き、今度はじっくりと味わって飲んだ。



 そうすると、久しぶりの食事は殊の外美味しいと気が付く。

 こんな質素な料理でも美味しい。

 染み渡るとはこの事だと実感する。



 ちょっと臭いが気になっと言えばなったけど、贅沢は言っていられない。

 これしか彼等は持ち合わせがないのだから仕方がない。

 分けてもらえるだけでも幸せな事だよ。

 そう言い聞かせ、ゆっくりゆっくり何度も噛みながら飲んでいく。



 もっとよこせと訴える腹を無視し、じっくりじっくり何度も噛みながら飲むと、お腹が膨れてくるのを感じた。

 まだまだ足りないけど、それでも気力が回復していくのを感じる。



 飲み干して、辺りを見回す。

 ここに居るのは、三十人位かな。

 武装しているのが五人いて、全員男性だ。

 その武装している人達は、他の一緒にいる人達より服装が良いと思う。



 使い古してはいそうだけど、ボロボロとはいかな上着に、パンツ。

 何だろう、鎧? 鉄っぽいのを所々に入れた鎧だよね、それを着ている。



 そして、その武装した五人で固まって食事をしているのが気になった。

 同じ様に鍋を食べているんだけど、具材が私が食べた物より良さそうに感じ、ちょっと不満。

 普通に考えたら見ず知らずの突然湧いた人の分は無いって事かなと納得させる。



 彼等の一番の特徴は、剣だとか槍だとかを持っている事だと思う。

 そんな格好で大丈夫なの?

 ここって本当にどこなのよ……



 そして目に付くのは、昨日まで一緒だった人よりはマシだけど、ボロっとした格好の残りの人達。

 ボロ布のローブに貫頭衣にズボンという出で立ちで、靴はやっぱり布製。

 女性もズボンを履いている。

 あれはパンツじゃなくてズボンという言い方があっている気がする。

 だって、何だかこう、野暮ったいし……!



 私が食べたのはそのボロ布を着ている人達と同じ物だというのも分かって、まあ、人の食べる物ならと息を吐く。

 分けてもらえるだけでも良いんだからとも言い聞かせた。



 次に目が気になったのは、馬車かな。

 馬が荷台と繋がっているのだから、馬車だと思う。

 荷台には布で囲ってあって、なん言ったっけ、幌馬車だったかな、それだった。



 結構大きな馬車だと思う。

 馬車と繋がっているのは馬が二頭で、それ以外に鞍だっけ? それが付いているのが四頭。



 もしかしてあれかな、昨夜まで居た人達を襲った獣が居るから、護衛で武装しているのかな……?



 そんな感想を座りながら思っていたら、木の椀を回収に来たらしい武装した男の人。


「あ、ありがとうございました」


 恐る恐る礼を言って木の椀を返すと、何かを差し出し、何かを言ったのが分かる。


「▽○×■△※、●□▲」


 すると、男の人が手に持っていた物が、私の首にチョーカーの様に嵌ったのが分かった。



 首を傾げるしか出来ない私を置き去りにして、その男の人は自分の食事に向かってしまった様だった。

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