第6話
そうやって付きまとっていても、彼等は私に注意を向ける事は全然無くて寂しい思いを味わっていたけど、それでも一人よりはマシだと必死に付いて行った。
どれくらい歩いたろう。
時々休憩しながら歩き、大きな木の根元に皆が集まっているのが分かった。
薪に使うのか、枯れ枝を集めだす皆に習って、私も枯れ枝を周囲から集める。
手に持った教科書達が邪魔に思えて、大木の根元に置いておく。
私が戻って来た時には焚火の火は付いていて、周りがかなり暗くなっている事に気が付いた。
今は一体何時なのかがさっぱり分からず、そう言えばずっと歩き通しで疲れたなあとどこか麻痺した頭で思いながら、枯れ枝が積み上がっている所に私が拾ってきたのを置いてから、教科書達を拾ってちょっと彼等から離れた所に座り込む。
少し離れたのは、やっぱり体臭がきついからと言うのもあるんだけど、何というか、私は彼等に仲間と認められていないのが分かってしまうっているから、かなあ。
だって、ちっとも私を見ないし、何か話しかけようとしてもチラリと見ただけで行ってしまうしで、何だか寂しい。
でも、一人はもう嫌なんだ。
こんな森の中に一人でいたら、あっという間におかしくなる自信だけは凄くある。
一日中、水を一度飲んだきりで歩いた影響だろう。
空腹を訴える腹を抱えていたのに、あっという間に眠りに落ちてしまった。
夢も見ないほどの眠りだったのに、唐突に破られる。
「え? なに!? なんなの!!?」
痛みと振動で目が覚めたけど、混乱しかない。
複数の男達に担ぎ上げられ、運ばれていく自分の状況がまるで分からない。
何がどうなってそうなったのかも全然分からず、声を出し続けた。
「あの、どうしたんですか? 私、何かしちゃいました? どこに、何処に連れて行くんですか?」
それに一切答えようとしない男の人達に、私はどうして良いかも分からず、わいてくる恐怖をどうにか無視して取りあえず話し続ける。
「そういえば、ご飯ってもう食べちゃいました? 私、昨日朝食べただけで、その後何も食べていないんです。何か分けてもらえたりって――――」
「×△●※□」
男の一人に何か言われたと思ったら、地面に放り投げられていた。
地面に強かに背中をぶつけ、一瞬息が出来ない。
辺りは暗闇で、焚火のある所からだいぶ離れたのが分かっても、それが何故かはどうしても分からない。
混乱しつつゴホゴホとしている私に構わず、男達は私の両手足を抑え込む。
「――――あ、あの?」
何とか搾りだせた声は掠れていた。
恐怖が、無視していたのに今更ながらに沸々と湧いて来て止まらず、身体が縮こまりそうになるのに、押さえつけれていてそれも出来ない。
そして男の一人が私に伸し掛かり、服を脱がせようとしてきた。
身近に感じる息や身体から漂ってくる悪臭に、これから起こる事態をようやく想像でき、もう身体は硬直して動かない。
暗闇に慣れて来た私の目が気が付いたのは、ガクガクと震える私の身体を見ても、男達が無表情な事で、それがより一層の恐怖を掻き立てる。
こういう事をする時の男の人って、もっと、こう、違うんじゃないの!!?
思考が明後日に逃げ出した。
もう涙は溢れて、鼻水だってぼたぼたと流れている。
男は、ボタンを外すのに慣れていないのか、四苦八苦しつつ、それでも何故か丁寧に服を脱がせていくから、恐怖を感じる時間はたっぷりとあり、もう、何もかもが嫌になる。
いっそ死んでしまおうと舌を思いきり噛もうとした瞬間、私に乗った男が、唐突に居なくなった。
同時に、男達の混乱する声。
「※●×*」
「▽◇※●」
何かを叫びながら私の手足を放し、それと同時に良く分からないが獣の唸り声っぽいのが確かに聞こえ、身が竦んで動けない。
暗闇に慣れたとはいっても、近く以外はまったく見通せないし何があったのかもまるで分からないから、その場にただ縮こまる。
遠くに男達の叫び声を聞き、それと同時に何か獣の声を聞いた気がした。
息を吐く。
何度も吐く。
深呼吸を何度も何度もして、どうにか心を取り戻す。
あの男達は、何かの襲撃を受けた。
そして襲った何かは、まだ近くに居るのかもしれない!!
そう気が付いて、逃げなくちゃと思っても、腰が抜けて全然立てない。
自分の情けなさにまた涙が出そうになって、慌ててどうにか抑え込み、何とか手足を動かし、叫び声がしたのとは反対側にズルズルと這って出来る限り頑張って移動した。
どれくらいそうやって移動したんだろう。
足も手も疲れて、動けなくなる。
横になり、自分の状態を確認。
摑まれていた手首には跡が残っているけど、血は出ていないし大丈夫だろうと思い込む。
掌も確認してみたけど、フカフカの地面だったからケガはしていないっぽい事に安堵し、スウスウと寒さを何故か感じる自信の状態に思考が回り、ボタンの外れた自分の制服に気が付いた。
ブレザーのボタンは全て外れ、中のシャツのボタンも大半が外されていた。
もっとあの獣の襲撃が遅かったら、私は……
そう思ったら、涙が溢れてくる。
無性に、家に帰りたかった。
家がどんなに素晴らしい場所だったのかが、ようやく理解できる。
当たり前の様に過ごしていた場所こそが、何よりも安全で温かな場所だった。
帰りたい。
家に帰りたいよお……
獣に気が付かれない様に必死に嗚咽を噛み殺し、それでも全身は震え、ただ泣くことしか出来なかった。
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