259 永遠の存在 1
玉座に座る少年、アーリマン・ザラシュトラ。
彼が持つ肩書は多く、彼に対して感じる感情は人により様々だ。
エリュシオンで冥王として君臨する彼は、一言で言えば絶対的な存在だ。
”光の三賢者”のサポート受けながら、荒れに荒れたペリシュオンをここまで国の形にできたことは、他国から見ても称賛に値する。
冥王として主張することはそう多くはないので、自国民からすれば強い印象を持つことは少ない。
しかし、奴隷やアフラシアデビルなど、国民の知らないところで監視の目が多いエリュシオンでは、アンリに対して負の感情を持った者には等しく不幸が降りかかっていた。
アフラシア王国で貴族であるザラシュトラ家の長男である彼は、尊敬の目を向けられることが多いだろう。
幼少期からその才は秀でて高く、執行人という面をもつザラシュトラ家において、強さは特に重要視される。
もうすぐ成人を迎えることもあり、アンリの母であるフランチェスカの元には婚約の話が多く舞い込んできていた。
当の本人は結婚する気は無いのだが、貴族の顔を持つ以上避けては通れない問題だろう。
冒険者としての顔を持つ彼は、羨望の目を向けられる。
10歳からでしか魔法を使えないこの世界で、10歳の内にAランク冒険者に上がったことはあまりにも特殊で有名だ。
アフラシア国王からの個別依頼を達成し”
SSランク自体は立てつけられたばかりで、一部冒険者の理解は得られていないが、流石に実力もそれなりとは認識されている。
エリュシオン冥王国とアフラシア王国を中心に新宗教として設立された真教会では、絶対神として崇められている。
アンリをこの世界の絶対的な存在としており、それ以外の全てはアンリのために存在を許されているだけであると本気で信じている信者達は、いつアンリに首を斬られてもいいように、頭を垂れうなじを見せて毎日祈りを捧げている。
彼ら信者にとって、アンリを神と信じていない俗物たちは、極めて不敬であり不幸な存在という認識だ。だからこそ、異教徒には心を鬼にして説法という名の拷問に努めるのだ。
信者たちはそれが必要なことと信じているし、真教会のトップ2の二人にいたっては快楽すら感じていた。
余談として、真教会の本山であるエリュシオン教会では、アンリの生首がご神体として崇められているが、それは本人の知らない話だ。
一方で、真教会が設立される前に幅を利かせていた聖教会の生き残りにとっては、当然ながらアンリは真逆の存在として認知されていた。
”厄災の大悪魔”。それがアンリを称したものだ。
彼らが信仰している神、スプンタ・マンユを真っ向から否定し、現存する人間であるアンリこそが神であるという真教会は、異端というより異常そのものだ。
しかしその力は本物で、一晩で聖教会の本山を潰したアンリを恐れ、逃げ隠れすることしかできないでいる。
”冥王”に”
本能で彼に対し恐怖を感じてしまい、名前を口に出すことすら憚れてしまっている証明なのかもしれない。
そんなアンリが、光の三賢者にとっては絶対的な存在であるアンリが、隠しきれない怒りを向けてきている。
「いやなに、わしとしては、お主がその怒りのままにわしの首をねじ切ったとしてもなんの未練もない。くふふ、むしろ幸せを感じる瞬間じゃろうて」
カスパールに焦りはあるが、それは自分の命の心配ではない。
自分にとって絶対の存在であるアンリが怒っていることが、ただ辛かっただけだ。
「私もマスターに破壊されたとして、何ら問題はありません」
「お、俺もだよ!? る、ルミスと一緒に死ねるなら命なんて……」
他の二人も声を上げる。
死に対して捉え方は三者三葉だが、三者の疑問は共通していた。
「じゃけどな、まずはお主が怒っておる理由を聞かせてくれぬか?」
「私達の行動履歴をいくら検索しても分かりません。マスターの考えを、是非聞かせてください」
「や、やっぱり俺、何かしちゃったかな……こ、公衆の面前でルミスとキスしたの、ばれてた……?」
カスパールは、愛しているが故に気になった純粋な疑問。
メルキオールは、”憤怒の大罪人”となった影響がでているのではという懸念。
バルタザールは、小さながら思い当たるところがあったという怯え。
背景は様々だが、三者の疑問は共通してアンリの怒りが発生した原因だった。
「お主が怒っているなら、わしらも一緒に怒りたい」
カスパールの言葉をきっかけに、アンリは苦笑いを浮かべる。
それと同時に、重苦しい雰囲気は僅かながら霧散した。
「あはは、ごめんごめん。みんなに気を遣わせちゃったようだね」
アンリがいつも通りの笑顔になったことに、三者はホッとし胸をなでおろした。
「いやぁ、みんなが少し許せなくてね……」
「お主がわしらを……? 気付かぬうちに、やはりわしらは何かしておったのか?」
首を傾げる三人に、アンリは説明を始める。
「僕はこれまで、魔力を高め魔法を学び、冒険者となって功績をあげ国も作った。これだけだとトントン拍子に聞こえるかもしれないけど、それなりには大変な道のりだったよ。それは偏に、ただただ一つの目標のためだ」
アンリの悲願。
それは何を指しているかは、身内の者であれば周知の事実だ。
「…………永遠か」
カスパールの呟きを頷いて肯定したアンリは、更に説明を続ける。
「そう、永遠だ。終わりのない永遠。将来に訪れるであろう死の克服。有体に言えば不老不死だね。僕が望むのはただそれだけ。それだけあれば、僕は幸せなんだよ。でもね、気付いたんだ」
アンリは三人を指さす。
「僕を差し置いて君達三人、永遠を掴んでるじゃないか」
今度こそ、アンリの目は憤怒に燃えているのだった。
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