241 死闘2
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己の肉体を媒介に炎を生み出すこの魔法は、アンリが最初に開発した攻撃魔法であり、その威力もトップクラスのものだ。
「きひひ、やり過ぎたか? 体さえ残ってりゃ俺様は楽しめるが…………ちっ」
だが、カスパールとヤールヤは生き残っていた。
ゼロ距離から直撃を受けたヤールヤは、全身に傷はあれどその強靭な肉体でなんとか耐え抜いた。
奥の手であるペンダントを使ったカスパールに至っては無傷だった。
「…………危なかった。なんとか無事じゃったが、それにしてもなぜ……」
本家の<
「あぁ、かっはっは、それもそうか」
カスパールは咄嗟にペンダントを使ってしまったが、冷静に考えるとこの結果は当然だった。
そもそも、まず本家の威力がアンリの想定以上の代物なのだ。
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つまり、ダールトンがいくら魔法を使えるといっても、ザラシュトラと縁のない肉体ではその威力までは再現できなかった。
「ふん、脅かせおって。大人しく処分されろ。アンリの汚点を消させてもらうぞ」
「勝てる、あたいは勝てる。こいつはご主人様よりも全然弱い。良かった、本当に良かった……」
挑発しながらも、二人は安堵していた。
実のところ、今回の戦いは危ないものだった。
それほど”強欲”と
ヤールヤは、悪夢ような過去を振り払うためのきっかけを作ってくれたカスパールに感謝した。
カスパールは、何気なくヤールヤを連れてきた過去の自分を褒め称えた。
連れてくるのがヤールヤ以外では駄目だった。
この二人のペアだからこそ、勝利できた。
では、二人のペアで無ければどうか。
それは、考えるまでもない。
「きひひ、馬鹿がぁ、こいつを忘れてねぇかぁ?」
ダールトンは指輪を掲げる。竜王の指輪だ。
瞬間、雷のような咆哮が鳴り、ドラゴンの大群がヤールヤを襲う。
「こいつ!? 家畜の、分際でぇぇ!!」
アンリの戦闘を見ていれば誤解してしまうかもしれないが、ドラゴンは強い。
そんなドラゴンの中でもレッドドラゴンは上位の種にあたり、成体であれば一頭を討伐するだけでAランク冒険者が何十人も必要だ。
そんなドラゴンが、百を超えた群れを作り襲ってくる。悪夢だった。
ヤールヤは応戦するも、すぐに勝利は不可能と悟り、避けることに意識を置いた。
「きひひ、殺すんじゃねぇぞ? そいつも、後で楽しむからよぉ」
ダールトンの思惑によりヤールヤは死ぬことは無かったが、上位種のドラゴンが大勢で一人を相手にするなど、ただのリンチだ。
傷つき、倒れ、それでも現状を打開しようと立ち上がるが、また倒れる。
その為、ダールトンの相手をするのは、身体強化魔法を奪われたカスパール一人だ。
「返せ、それはわしのじゃ」
「きひひ、違う違う、俺様のだ。この世の全て、俺様の物だからなぁ」
凄みを効かせたカスパールに、ダールトンは軽く言葉を返す。
伝説とまで言われたダークエルフを前に、余裕の態度だった。
それもそのはず、”強欲”にタイマンで勝てる魔法使いはいない。
アンリは魔法使いの枠を超えており、尚且つ同じ大罪人でもあったため、その常識は当てはまらなかった。
だが、今回の結果は覆らない。
全ての魔法を奪われた魔法使いに、勝てる術などあるはずがない。
最初の内は、手持ちの装具を使いなんとか戦いにはなった。
だが、体の傷は癒えるも、一度壊れた装具は直らず、どんどん形勢は絶望的になる。
(最悪、じゃな。まぁ自業自得か)
通常であれば、エリュシオンの屋外はアフラシアデビルが監視しており、緊急事態であればアンリの元に情報がいくだろう。
だが、今回に限ってはそれはない。
覗き見を嫌うカスパールは、予め周囲のアフラシアデビルを遠ざけていた。
つまり、今この瞬間に助けがくる可能性は限りなく低いのだ。
「ごふっ……かっはっは」
カスパールは薄く笑う。
どのように愛の力が大きくとも、想うだけで助けを求めることは困難だ。
それを知った上で、カスパールはアンリへの想いを吐露した。
「最期に……アンリに会いたいなぁ」
遂には右手の小指に着けていた治癒効果のある指輪も壊れる。
剣は折れ、全身は傷つき、ボロ雑巾のように倒れた。
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