231 重なる訪問

「ハローエブリワン! 昨日ぶりダネ!? ……随分と元気がないようだけど、大丈夫かネ?」


 オズは届け物のため、再度ネスの元に訪れていた。

 そこで、昨日とは打って変わって意気消沈しているネスに気付く。


「もしかして、テルルという豚はとても大切なペットだったのかネ?」


 オズは再度話しかけるが、ネスからの返事はない。

 よく見ればネスは泣いており、文字通り枕を濡らしている。


「ふむ、部屋を変えたのかネ?」


 オズは従者から案内された部屋を見回す。

 そこは、以前通されたネスの自室とは違う部屋だった。


 オズが自爆したことにより、ネスの元の自室は汚れてしまった。

 いくら従者に掃除をさせたとしても、一度肉片と汚物がこびり付いた部屋では寝る気がしない。

 そのため、ネスは重い腰を上げ、自室を新たに構えていた。


 だが、そんなことはオズにとってはどうでもいいことだ。


「まぁ気分転換もいいものダネ。ほら、さっさとこれを受け取りたまえヨ、死ノ神タナトスからの届け物ダヨ?」


 以前と同じようにオズが果物を枕元に置いた時、やっとオズが反応する。


「や、やめろこの畜生が……テルルを、テルルを……返してくれ……」


 それは懇願であったが、”怠惰”による命令にもなった。


 ネスの命令は二つ。その内一つは、”テルルを返せ”ということだ。

 だが、これにオズは反応しない。

 テルルをネスに返すには、アンリとシュマから奪還しないといけない。

 それではオズ自身の命の危険を感じるため、”怠惰”の能力は発動しなかった。


 もう一つの命令は”止めろ”ということ。

 果物と一緒に手紙を渡そうとしていたオズは、行動を封じられた。


(……どうしたものかネ……あっ)


 手紙を渡せず立ち尽くしていたオズは、暫くして何かを閃く。


「……はっ!? ま、待──」 

 

 その様子を見たネスは、直ぐに何が起こるか理解した。

 急いで止めようとするも、オズの早さには及ばない。


「<最後の打上花火ラスト・ショータイム>!」


 ──パァァァァァン! 高い音と共に、オズの体は弾け飛ぶ。

 残ったのは肉片と汚物、それが付着した果物と手紙だった。


「ふざけろ……よ……」


 ネスは2回目の引っ越しを決意するのであった。



 3度目の訪問。

 オズの荷物は相変わらず果物と手紙の二つのみ。


「ハローエブリワン! 今日もいい天気ダネ!?」


 オズの姿を見たネスは、驚愕の表情を浮かべていた。


「貴様……なんで──」

「──生きてるのかって!? アハハハハ! 私は偉大なる魔法使い! 一度肉片となっても、完全に復活するなんて容易いことダヨ! 不可能を可能にする、それこそが魔法使いの存在意義だからネ! それにしても笑えるネ、その反応をなぜ前回見せてくれなかったのダネ!? それほど豚がいなくなったことがショックだったのかネ!?」


 前回よりも反応が良いネスに、オズは満足していた。


「くっ! 命令だ! 教えろ! お前がも──」


 だが前回の反省を活かし、己の楽しみよりも脱出を優先した。


「──<最後の打上花火ラスト・ショータイム>!」


 ──パァァァァァン!


 ネスに命令される前に自爆することを徹底したのだ、

 3度目の自爆は、またもネスの自室を汚物まみれにした。



 それから、オズは何度もネスの元へ通った。

 何度も、何度も荷物を届けた。

 届ける度に、ネスは苦渋に満ちた顔をする。


 二度目以降、ネスは自分で手紙を読んでいたため、オズにその内容は分からない。

 中身が気になったオズは質問するも、一切教えてくれなかった。

 その為、ネスが苦しんでいる理由がオズには分からない。だが、アンリの味方についたことが正解だったということだけは計り知ることができた。


 ネスにしてみれば、これ以上部屋の引っ越しをすることは面倒だ。

 オズに手紙の内容を秘匿したかったわけではないが、口を開けば自爆してしまう可能性があるため、極力オズとは喋らないようにしていた。



 5回、10回、20回。

 オズの訪問の頻度は高く、日を跨がずに何度も現れるようになった。

 それでもオズに飽きは来ない。毎度毎度同じような口上で挨拶を行い、丁寧に荷物を枕元に置く。


 訪問回数がそろそろ30になる頃だろうか。

 遂に終わりの時が訪れた。


「……うん? どうしたのダネ?」


 手紙を読み終えたネスが立ち上がったのだ。

 珍しい物を見たとオズが小さな喜びを感じている中、ネスはオズを一瞥したかと思えば、部屋の外に向かい大声を上げる。


「従者共! 支度だ! 余所行きの服を持ってこいよ!」


 これに、オズも従者も大きく驚く。

 普段寝ているだけのネスが、寝間着以外に着替えることは珍しい。

 ましてや外出するなど、歴史に刻まれるかというほどの大きなイベントだった。


「どこに行くのかネ? 私もついていっていいのかネ?」


 オズを無視し、ネスは身支度を整える。

 そして、手紙の中に入っていたスクロールを開いた。

 それは転移魔法が刻まれたものだ。


 いつの間にやら剣を握っていたネスは、オズが静止する間もなく消えていった。


「成程ネ、終焉フィナーレというわけダネ」


 オズは顎をさすりながら考える。

 今回の話がどういった結末を迎えるのか気にはなる。

 だが、認識阻害魔法オプティカル・ビーを使ってもヤールヤには覗き見がバレるだろう。

 結末が気にはなるが、アンリの不興を買うことはなるべく避けたいため、ここは大人しくしておくべきか。

 一度ぐらい殺されることを覚悟し、興味本位で覗いてみるか。

 笑って許してくれると楽観的に構えておくか。


 そこでふと、ネスの手紙がその場に落ちていることに気付いた。

 無論、止める者は誰もいないため躊躇なく読み進める。


「フフ、死ノ神タナトス、悪い男ダネ。”怠惰の大罪人”なんてものより、よっぽど悪人だと思うヨ」


 自分が届けていた物が、ネスの心にどのような影響を与えていたかを悟り、オズは若干の同情をするのであった。

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