230 嫌がらせ
「…………」
アンリとカスパールは、共に冷めた目でその光景を見つめていた。
「あれが”怠惰”への対抗策……か」
「命令される前に木端微塵になる……あはは、随分と力技だね」
”怠惰”に対抗すべく同じ大罪人の能力でも発動するのかと、アンリはちょっとした期待を持っていた。
だが、実際のオズの対抗策は、命令される前に自爆するという、何の解決にもなっていないものだった。
「よっぽど爆発したいのかな? 大した回復魔法だと思ったけど、もしかして頭までは回復できてないとか?」
ここ最近でオズの評価を上げていたアンリだったが、この時ばかりは上げ過ぎていた評価を下方修正する。
「アンリ様、先ほどアンリ様と面会したいという男が来られました。”偉大なる魔法使い”と名乗る怪しい仮面の男ですが、いかがいたしましょうか」
そして、その下げた評価をすぐさま引き戻した。
「あはは、仕事が早いね。通して通して」
かしこまりましたと頭を下げジャヒーが退室しようとする中、思いもよらぬ人物から声が上がった。
「くせぇ……」
ヤールヤである。
その言葉に、一同の表情は一気に凍りついた。
今のヤールヤはアンリの足置きとなっている。
つまり当然、ヤールヤの言葉はこう捉えられる。
”アンリの足が臭い”
ベアトリクス、アシャ、アリア、ジャヒーの4名は、口が過ぎた愚物を排除するために腰を上げる。
アンリは静観。ヤールヤの真意に気付いたのは、過去同じ言葉を聞かされた経験のあるカスパールだった。
「臭うか? わしら以外の人間が」
「あぁ、妹さんの椅子から……」
全員の視線が空席の椅子に集まった時、笑い声と共に男が姿を現した。
「アハハハハ! いやはや、まさか気付かれるとはネ! この魔法も完璧ではないのダネ!?」
オズである。
先ほどまで映像に映っていた男と分かり、腰を上げていた者は元の姿勢に戻る。
「ジャヒー、来客って」
「はい、こちらの御方でございます」
呆れているアンリとカスパールに、オズは弁明を図る。
「持っている力は試したくなるヨネ? ジョーク、ジョークだよ。私が颯爽と現れたら格好いいと思ってネ」
依然として表情を変えないアンリに、オズは両手を上げた。
「はぁ、すまない、私が悪かったヨ。でも君もなかなか酷い男だね。いや、罪な男と言った方がいいのかネ?」
オズの視線の先にあるのはアンリの足だ。
女性を足置きにしているだけでも鬼ではあるが、更に別の女性に舐めさせているのは流石にいい趣味に映らないだろう。
「あはは、僕がお願いしてるんじゃないよ? この子達がしたいっていうからね。他人の意思を尊重するなんて、いい男だと褒めてほしいけど?」
オズは少し考えた後、両手をポンッと合わせて納得した。
「それは罪ではないネ。それにしても、あの国王はなんであそこまで怒っていたのかネ? テルルとかいう豚が大切だったのかネ? そんなに愛らしい豚なら、是非私にも見せてほしいがネ。そうだ、私が国王に届けてあげようかネ?」
「あはは、ありがとう。テルルは今シュマと遊んでるから、オズさんに見せることは難しいけど……あぁ、悪いけど、またこれを届けてくれる?」
アンリが差し出したのは、つい先ほど届けたのと同じような、果物を包んだ風呂敷だ。
そして、風呂敷のすぐ隣に手紙が添えられており、アンリの目線はそちらにある。
「随分と人使いが荒いネ君は。まぁ、私は別にいいけどネ」
オズは風呂敷と手紙の両方を手に取った。
アンリが笑顔になったので、これは目論見通りに進んでいるのだろうと判断する。
去っていくオズに、カスパールは声をかける。
「今更ではあるがよいのか? 一国の王を敵に回したことになるが……」
「アハハハハ! 王である前に大罪人だからネ。あの豚を敵に回しても、私の名声が更に高まるだけダヨ!」
言葉ではそうは言っているが、オズのこれは多少の強がりが入っていた。
他者からの評価を何よりも求めているオズは、王様を敵に回すことに強い抵抗があった。
だが、直感からアンリの味方についたほうがいいと判断している。間違いなくこの直感は正解だっただろう。
「こんな手紙を送ったところでどうなるか分からんがネ……それでも私は、君の味方ダヨ。なんといっても心友だからネ」
深く考えず勘に従い生きているオズは、Sランク冒険者の中では突出して危機管理能力が低いだろう。
だが、常に自信を持ち余裕を持っているオズは、偉大なる魔法使い”仮面のオズ”の名声に直結していた。
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