196 仲間

 子供達に休みはない。

 今日も訓練施設のカリキュラムとして、死闘を強いられていた。


「ていっ! やぁ! はぁ!」


 ヘルは短剣で一体の魔物を相手にしている。

 その魔物の名前はデュラハン・リーダー。一見プレートアーマーを着た騎士にも見えるが、その頭部は存在しない。

 これまでの訓練の中では一番に強い魔物であり、実際にAランクと高位の魔物だ。

 Aランクの冒険者パーティーで討伐することが妥当な相手ではあるが、他の3人は先に取り巻きの魔物を処理するため、ヘルは一人で足止めを行っていた。


「うわわわわ!?」


 流石に相手が悪かったのか、ヘルは劣勢だ。

 それでもなんとか体を捩り、デュラハンの斬撃を辛うじて避けていた。


「短剣を武器として使い過ぎだ! お前の左手は何のためにある! お前の両足は何のためにある! 短剣を軸に全ての四肢を攻撃に使え!」


 デュラハンの取り巻きを蹴散らしながら、ナイトはヘルを叱責する。


「そ、そんなこと言ったって! わわわわ!」


 動きが改善される様子の無いヘルに、ナイトはため息をついた。


(こいつ……才能が感じられない……)


 ナイトはヘルの短剣を注視する。

 そのボロボロの短剣を見れば、ヘルがいかに訓練に励み使い込んだのかが分かる。

 大人しい顔をしているが根性があり、これまでに限界を超えた鍛錬をしてきたのだろう。


 だからこそ、ナイトはヘルに失望していた。

 それだけの鍛錬をして尚、この程度の実力のヘルの才能に同情さえしてしまった。


「……ヘル、下がって。『この魂に宿るは悪を絶つ聖なる光。光よ、我に力を。光よ、悪を討つ力を。光よ、その感情の滾りのままに無数の紫電となりて、敵を討たん。<紫電の雨ライトニング・レイン>!』」


 複数の稲妻がデュラハンを襲う。

 見かねたハルが魔法で援護をしたのだ。


「……やった?」


 ハルは呟くが、ナイトは首を横に振る。


(駄目だな。雷魔法はいい選択だったが、純粋な火力不足だ。こいつらでは一生かかっても倒せんな)


 ヘルの成長を考え任せていたが、ナイトの目から見て彼がデュラハン・リーダーに勝てる可能性はゼロだった。

 今の攻撃魔法の結果を見れば、ハルの力でも無力だろう。

 二人の力はこんなものかと諦め、ナイトはデュラハン・リーダーを視界の中心に置く。


「俺がヘルを援護する。ハルは雑魚共の処理に戻れ。流石にアムル一人では荷が重いだろう」


「いや、こっちは終わったよ」


 驚き振り返れば、いつの間にかアムルが佇んでいた。

 返り血にまみれているが、その黄金の髪は美しい。

 雑魚とはいえ大量の魔物を相手にここまで早く処理をし、かつ無傷のアムルを見てナイトは口角を上げる。


(アムルのやつ、また強くなってるな……負けてられん。なにせ俺は──)


「──特別な存在なのだ! 『<敵穿つ雷光サンダーボルト>』!」


 ナイトはデュラハンに瞬時に接近し、全力で魔法を叩きこんだ。

 直撃を受けたデュラハンの上半身は吹き飛び倒れる。即死である。


「はは! 頭だけじゃなく、体も行方不明になったな!」


 Aランクの魔物を一撃で仕留める。それはSランクにも手が届くという確かな証明だ。

 アムルだけでなく、自身の成長も実感したナイトは、魔物の全滅を確認し勝利の笑みを浮かべる。

 魔物に勝利し、好敵手ライバルにも勝利したと思ったのだ。


「凄いねナイト! あんなに強い魔物を一発で倒しちゃうなんて!」

「…………しかも無詠唱。なんかずるい」


 そのタイミングで純粋な称賛の言葉をかけられたナイトは、鼻を指で擦りながら照れを隠す。


「ふ、ふん、当然だ! 俺は特別な存在だからな! お前たちは未熟だが、完全に見込みが無いというわけではない。このまま励み強くなれば、俺には遠く及ばんが多少の戦力にはなるだろう! よし、俺がこの施設を出て神様にお目通りが叶ったら、お前たちの活躍をお伝えしてやってもいいぞ!」


 訓練施設に来る前のナイトは、自分以外の子供達は全てがゴミであり無価値な存在と思っていた。

 しかしアムル達のパーティーに合流し、昼夜問わずに彼らと過ごす内にその考えは徐々に変わっていく。

 得には背中を預けることもあった彼らを、生まれて初めての仲間として認識したのだ。


 そのため、ナイトは自分がアンリの剣となる時は、今のパーティーで力を合わせようと考え出していた。


「え、えぇ! 本当に!?」


 神様に活躍を伝える。

 その言葉に反応したのはヘルだ。


「神様に僕の活躍を……ようし、頑張るぞぉ!」


 ナイトにとっての神様はアンリであり、ヘルにとっての神様も死ノ神アンリだ。

 そのため、ヘルはナイトの生まれなど知る由も無かったが、ナイトの言葉の意味を奇跡的に理解するのであった。

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