192 代理戦争
「くく、くくく、かっはっは!!」
目の前の光景を見ながら、カスパールは高笑いする。
そのとなりで、ベアトリクスは机にドンッ、と手を打ち付けた。
「おいダークエルフ! 貴様、自分の子に余計なことを吹き込んだな!?」
アムル達と行動を共にすることになったナイト。
その正体は、カスパールの遺伝子を利用して作ったホムンクルスだった。
アンリはアフラシア王国が秘密裏に運営している教育機関に、アルバートと共同で作成したホムンクルスを何体か潜入させることに成功していた。
「子供に干渉するのはルール違反だったはずだ! どうしてそんなことを、いや、考えるまでもない! アムルに危害を加える気だろう!? 姑息な奴め!」
獣人族のアムルもまた、ベアトリクスの遺伝子を利用したホムンクルスだった。
焦りの表情を浮かべているベアトリクスに対し、カスパールは余裕の笑みだ。
「かっはっは! そんな姑息な手など考えておらんわ! まさかいつぞや酒場で会ったガキが、貴様の子だったとはな! なに、奴に教えてやろうと思ってな。格の違いという奴を」
カスパールは、自分の子供同然のナイトに絶対の自信を持っていた。
今回アフラシアに送られたホムンクルスは、皆が7000番台の名前を持っている被検体だ。
その中でも抜きんでて才能と実力があると評価された者に、アンリは番号に因んだ名前を与えていた。
被検体7110番。
別名
アンリが自ら命名したナイトは極めて優秀であり、直接名前を貰えなかったアムル達とは文字通り格が違う。
その為、近くで比べればアムルが劣等感を感じてしまい、早々に脱落するかもしれない。
カスパールはそれを狙っていた。
「なんとも悪趣味なやつだ! だけどアムルにはそんな手は通用しない! いくら才能で貴様の子供が優ろうが、アムルには努力できるという才能がある! あの子の行く道には金色の光が差すだろう!」
「かっはっは! ならば奴にも地獄への片道切符を渡してきてはどうじゃ!? そうすればまだ戦いの行方は分からんかもしれんぞ!?」
「下種がっ」
二人の喧嘩をよそに、アシャとジャヒーもまた、訓練施設の様子を映しているモニターを注視していた。
「…………厳しい戦い」
「アシャ様はまだいいほうじゃないですか。私の子供は、つい先ほどナイト様に見捨てられてしまったので……」
二人共気落ちしているが、その目は完全に諦めていない。
そんな異様な雰囲気に包まれた部屋で、聖女アリアは一人首を傾げていた。
「あ、あの……皆さん、何をそんなに殺気立っているのですか? お遊戯会のように、皆さん仲良く見ませんか? なぜ、そこまで必死になっているのですか? なんだかとても怖いのですが……」
子供の運動会などであれば、確かに子供が活躍するよう必死に応援する親はいるだろう。
だが、
「あぁ、そういえば
実験の内容を説明するジャヒーの言葉に、アリアは驚き固まってしまう。
まるで、地球の周りを太陽が回っているのではなく、太陽の周りを地球が回っているのだと初めて気づいた学者のようだった。
「
何度も声を掛けられ現実に戻ってきたアリアは、一度咳ばらいをしてジャヒーを見る。
「え、ええ、申し訳ありません。それで、なんでしたっけ?」
「ですから、掛け合わせた遺伝子はアンリ様の物です。つまり、あの子たちは皆、アンリ様と私達の子供といってもいいでしょう」
変わらない説明を聞き、アリアの視界は暗くなる。
もう少し早くアンリと出会えていれば、自分もアンリと子供を作れていたのに。
神様と子供を作るなど、とんでもなく不敬な行いだろうか。
それを考えてしまうだけでも、どんなにおこがましいだろうか。
それでも、そのような奇跡を賜ることができるなら是非もない。
果たして生まれてくる子は、天使なのか。
それとも自分のような脆弱な血が混じれば、ただの俗人になってしまうのか。いや、それでもその子供は絶対に特別な存在であり、自分はそれを愛すだろう。
アリアはもしもの話を脳内で再生することに精一杯になっていた。
「かっはっは! 驚くなよ聖女! 更にな、今回の施設で最終成績が一位になった子は、今後の扱いが優遇されると聞いておる。すなわち、子供が公認されるようなものじゃ! ホムンクルスの寿命は短いらしいが、既成事実には間違いないじゃろうて!」
これが、カスパールが必死になっている理由だった。
アンリにとっては、ただの実験の一つであり、その目的は強い子供を育成し自国の戦力に加えることだ。
しかしこの場の者たちからすれば、これは自分が
カスパールに至っては、アフラシア教育機関での実験は正妻戦争という認識だった。
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