158 ハイテンション
魔王ジャイターンを、銀と金の光が襲う。
体の至るところから血管を浮き上がらせたカスパールの動きは、”閃光”と呼ぶに相応しいものだ。
速さに特化したカスパールの夢マタタビによる強制的な身体能力の向上は、人間であれば目視することも適わないだろう。
「きた、きたきたきた!! わんわん! わん!! あはは! 光を感じるよぅ!」
それは、ベアトリクスにしても同じだった。
袋を一度に五つもあけたベアトリクスは、夢マタタビの過剰摂取により通常なら死んでいる。
だが、鼻や耳など至る所から血を流してはいるが、
死ぬ一歩手前の状態ではあるが、普通に生きているだけでは絶対に感じることのできない全能感に支配されたベアトリクスもまた、二つ名の”金色”たる動きを見せている。
それでも尚、魔王に傷をつけることはできない。
だが、一方的だった先までと違い、辛うじて「戦い」と呼べる程度には成り立っていた。
「くく、それが貴様らの本気か、面白いっ!」
魔王は笑う。
限界を超えたカスパールとベアトリクスのコンビは、パリカー三姉妹をも超えるだろう。
自分に遠く及ばないまでも、強者と戦えることに喜びを見出していた。
「かっはっは! まだまだ、こんなもんじゃないわ!」
「わん! わんわん! 光が私を導く! 今なら、なんだって出来る!! わん!!」
勝機は見えずとも、カスパール達のテンションはうなぎ登りに上がっていく。
「わしの愛の力を思い知れ木偶の坊!」
「私の愛のほうが深く重い、わん!」
先程までは通夜のように静かな二人だったが、今では軽口を言いあうようにもなっていた。
それは、精神を持ち直したというよりは、ただ単に夢マタタビで強制的に興奮しているだけだ。
「笑わせる犬コロが! 貴様の愛など、風船と一緒に飛んでいかぬか心配じゃ! わしがどれだけ長い間アンリを想ってきたと!?」
「初耳だな! 長ければ偉いのか!? 重要なのは、愛の深さだ! わん!」
そして軽口は口論に発展する。
「愛の深さなど、誰が理解できる! 愛した期間は、愛の重さを知るこれ以上ないバロメーターじゃ!」
「たまたま先に会っただけで偉そうに! 数年もすればそうは変わらない、わん!!」
「たわけがっ! わしが何百年、何千年アンリを愛してきたと思っておるのじゃ!」
「ははっ! 大分狂ってきたなダークエルフ! わん!」
うるさくなってきた二人ではあるが動きは変わらず速く、魔王はなかなか捉えることができない。
これといって体に傷を負うことはなかったが、鬱陶しい羽虫を潰すため、魔王はタイミングを計る。
それは、二人が魔王に近づく瞬間。攻撃の時だ。
魔王の体に傷を付けることができないことに焦ったのか、二人の攻撃は段々とあからさまになっていた。
「死ねっ! 虫けらがっ!」
あまりにも強引な攻撃を、流石に魔王は見逃さなかった。
「ごふっ!?」
魔王の右腕がベアトリクスの胸を貫く。
同時に、左腕はカスパールの首を掴み上げた。
「くっくっく、それなりに楽しめたぞ。さぁ、終わりだ。死なずとも地獄があることを、その体に教えてやろう……ん?」
魔王ジャイターンは違和感を覚える。
明らかに勝敗は決しているが、二人の目は死んでいなかった。
あれほどいがみ合っていたというのに、カスパールとベアトリクスはお互いの手を握りしめている。
「貴様ら、何を……?」
二人の手の中心に、赤い宝石があることを確認した魔王は首を傾げる。
「か……はっは……これがわしらの最後の攻撃じゃ」
「さらば……だわん」
二人が握りしめている宝石は、メガ・デス・ボールの魔石を基に作ったものだ。
その効果は、魔力を込めれば込めた分だけ、大きな爆発を生むというもの。
完全に自爆が用途の代物である。
目の前で大きな力の奔流を感じた魔王は、急ぎ両腕で頭を防御する。
「たんと味わえ……『<
赤い宝石を中心に、眩いばかりの光が炸裂する。
遅れて、轟音が魔王城に響き渡った。
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