140 派閥争い
ペリシュオン教会は、長い歴史の中でも一番に荒れていた。
それも仕方ないことだろう。
それ程、教会に訪問してきた人物は特殊だったのだ。
教会に全くの無関係と思われるアンリ達が、懺悔や礼拝目的でなくやってきたこと。
ウォフ・マナフの後任を名乗る、序列一位のアエーシュマ・ザラシュトラがやってきたこと。
何年も前に行方不明になっていた、聖女アリアがやってきたこと。
どれか一つでも異常事態だが、それが同時にやってきたのだ。
教会の者達は大いに慌て、客人の前だというのに走り回っていた。
そして幾分か時間が経ち、やっと責任者と思われる男がやってくる。
その男はアリアの姿を見るや否や、全ての汗腺が馬鹿になったかのように、大量の汗が噴き出していた。
「せ、聖女……アリア? う、嘘だ……偽物?」
その反応を見て、アンリとカスパールは自身の推測が当たっていたことを確信する。
大方、目の前の男が、アリア襲撃に一役を買ったのだろう。
「ご、ごほんっ! よ、ようこそ聖女様……と皆様。私は、現在ペリシュオン教会の大祭司を務めております、ジューダスと申します」
大祭司という聞きなれない単語にアンリが質問すれば、要はここで一番偉い人物とのことだ。
ペリシュオン教会の実権を握っていたアリアが行方不明になってから、ジューダスが大祭司に任命されたらしい。
(一役を買うどころか、主犯かもなぁ……。もう少しポーカーフェイスに……ってのも無理な話か。何年も前に殺した女が突然訪ねてきたらホラーだよな)
アンリが確信を深めている中、アリアが目を閉じたまま説明を始める。
「ご苦労様です、ジューダス。ふふ、心配しなくとも、私は本物ですよ。長い間留守にして申し訳ありませんでした。実は、アフラシア大陸に訪問しようとした際、賊に襲われてしまったのです。本当に運が悪かった……いえ、運が良かったのかもしれません。おかげで、アンリ様に助けてもらったのです。ふふ、これは運命なのでしょうか」
アリアの説明に、ジューダスは何も答えない。
ジューダスのように大量の汗を流している者もいれば、生きているアリアを見て涙を流し、神に祈りを捧げている者もいる。
そこには、はっきりと”派閥”というものが形として見えていた。
「どうしましたジューダス? 何か、言ってくれないのですか? 喜んでいただけないのですか?」
不思議に思ったアリアは、その目を開ける。
その十字の魔眼で、ジューダスを見つめたのだ。
「そ、それはぁぁぁ!? なぜぇぇぇ!?」
これに、ジューダスは大きな反応を示した。
アリアの魔眼は”
その能力は、対象の魂の叫びを
心の底から強く思っていることを
(共感覚みたいなものかな? 便利そうだけど、見えたくないものまで見えちゃいそうだなぁ)
余程
ジューダスは腰を抜かし、なんとかアリアの視界から外れようとしていた。
しかし、それはもう遅い。
「……あぁ、神よ、何ということでしょう。折角美しい世界が見えるようになったというのに……こんなに醜いものを見てしまうことになるなんて。そうですか……私を襲ったのは、あなた達でしたか」
人を疑うことのないアリアでも、実際に見えてしまえば確証をもつ。
”なぜお前が生きている”
”雇ったゴロツキ共は何をしている”
”騒音を出す魔法具まで用意したのに”
”なぜその目が見えている”
”マズイ、俺の地位がマズイ”
”とりあえずここは逃げてから”
ジューダスの心の叫びに、アリアは涙を流していた。
代わりに裁きを与えたのはシュマだった。
「がぁぁぁぁぁ!?」
シュマは、ジューダスの足に舐めプレイピアを突き刺すと、笑みを深めながら質問する。
「うふふ、教えてジューダスさん。あなたのお仲間は誰? あなたの悪巧みに乗った、悪い子は誰?」
色欲の力で命令され、ジューダスは次々と共犯者を指さしていく。
『<
指を指された者はギョッとするが、何か行動を起こす前にアンリの魔法により意識を刈り取られていった。
呆気なくアリア襲撃の犯人を捕らえたことに、アンリは拍子抜けする。
「えっと、勝手に手を出して悪かったかな?」
「い、いえ! とんでもございません! アンリ様のご助力、心から感謝いたします」
教会の者がジューダス達を拘束している中、シュマがアンリとカスパールに声をかける。
「うふふ、二人は応接室でくつろいでいて。これは教会の問題だから、後は私と聖女様で対応するわ。あなた達、
シュマの指示に、教会の半数は従いだす。
ジューダスからシュマへ。
ペリシュオン教会の実権が移った瞬間だった。
魔王討伐の使命を忘れたわけではないが、楽しそうなシュマの顔を見たアンリは、それもいいかと了承するのであった。
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