149 永遠の願い
「くくく、成程。余の”傲慢”の能力自体を失くそうとしておったのか。しかし、それは無理な注文だ。この国は別に余にとって大事ではない。ただの暇つぶしで作ったものなのだからな」
「国づくりが暇つぶし……ねぇ」
「然り。そして、余が傲慢であることは、余が余であるが故よ。”傲慢”の大罪人が最強であるという事実が、余を傲慢にさせておるのかもしれぬ。この事実は何があっても変わらぬ。余が”大罪人システム”を創ったのだからな」
マズダールの言葉に、アンリは笑いながら指摘する。
「あはは、それ、それだよ王様。さっきも言ったけど、あんたは嘘をついている」
その言葉に、マズダールはピクリと反応する。
「あんたは”大罪人システム”を創ったと言った。それなら、大罪人の能力ぐらいは把握していないとおかしい。なのに、あんたは”色欲”の能力を知らなかった。つまり、あんたは嘘つきってことだ」
「ふむ、これだから物事を局所的にしか見ることができない輩は……いいだろう、冥土の土産に教えてやろうか。”大罪人システム”がいかに創られたのかを」
そして、マズダールが放った言葉は、アンリに衝撃を走らせる。
「余は……死にたくなかったのだ。欲しかったのだ、永遠の命が」
マズダールの望みは、アンリが欲するものと全くの一緒だったのだ。
「貴様は”始まりのダンジョン”の最深部に辿り着いたのであろう? ならば知っておるだろう、改変前の世界を。技術に満ち溢れた世界を。技術は格段に進歩して魔法が生まれた。しかし、余の望みとする永遠だけは生まれなかった。生まれなかったのだ……」
マズダールが抱えた苦悩は、アンリには十分過ぎる程に理解できるものだった。
「永遠が生まれないだけではない。この世界は壊れようとしていたのだ。だから余は、システムの管理を行っているコンピュータに命令した。世界改変をな」
世界の崩壊を危惧した者が、AIに対して世界改変を命令した。
そこまでは、AIから聞いていた通りだ。
そして、その指示をした者がマズダールだった。
アンリが想定したことではあるが、いざ事実として告げられると、やはりアンリは驚いていた。
(このじじい……羨ましい……一体何年生きてるんだ?)
アンリが少しジェラシーを感じている中、マズダールの言葉は続く。
「しかしな、世界改変の際、世界を延命させる意味の無さを、どうしても脳裏から拭うことができなかった。だから余は最後の最後で願ったのだよ……この世界の破滅を」
マズダールの魂が憑依している骸骨の目が、怪しく輝く。
『死ぬのなら 壊してしまえ この世界』
それがマズダールの信念だ。
アンリにも、少しだけ共感できる部分があったのだろう。
複雑な表情でマズダールを睨んでいた。
「だがそこで奇跡が起こった。あぁ、それは本当に奇跡だ。神が与えた奇跡、”大罪人システム”が生まれたのだ」
マズダールは世界を壊すべく、AIが改変した世界にバグを仕込んだ。
イメージとしては、この世界の敵となる者に対して、大きな力を与えるというものだが、ここまで特異な能力になることは予想外だったのだろう。
「そして、くくく……余が”傲慢”に選ばれた……くく、くっくっく……わははははははは!!」
マズダールの語りは、次第に声が大きくなっていく。
「信じられるか!? 永遠が手に入らないと知り、世界を壊そうと思った余が、永遠を手にしたのだぞ!? わはははははは!! いや、本当に人生とは面白いものだ!! これこそ──」
「──はいはい、成程ね。要は、素人のまぐれ当たりってやつかな。どんな高等な技術を使ったのかと思えば、そんなしょうもないことだったのか……そりゃ仕様もあるはずがないよね、馬鹿馬鹿しい。まぁ、まぐれとは言え、今は王様に感謝かな。僕が永遠になる道を作ってくれたんだから」
話を遮られ、小馬鹿にもされたことに、マズダールは遂に激昂する。
「無礼だぞクソガキ! もうよい、暇つぶしになるかと思ったが、貴様の相手はもう十分だ。あの世があるかは分からんが、そこで一生反省しているのだな」
マズダールは剣をとり、アンリに向かって走り出す。
迎撃しようと思ったアンリだが、その体に異常が生じる。
「ぐぅっ!? こ……これは……?」
アンリが感じたのは初めての痛みだ。
回復魔法の特訓のせいか、アンリは痛みにはかなり慣れているといっていいだろう。
そんなアンリでも、この痛みには顔を歪ませた。
体の奥がガリガリと削られてるような感覚があり、意識を保つことに必死になる。
剣以外で何らかの攻撃をされているはずだが、
体の傷であれば、
つまり、これは別の個所への攻撃となる。
「魂への……直接攻撃……っ!?」
「然り! ほれほれ、余所見していいのか!?」
激痛に顔を歪めながら、アンリはマズダールと剣を交えるのだった。
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