147 ザラシュトラ家防衛戦

「はぁ、やれやれ……本当に仲が悪いな……二人共、後でお仕置きが必要かな」


 味方同士で争っている光景を見て、アンリはため息をつく。


 カスパールとベアトリクスの戦闘は、死闘と呼ぶに相応しいものだった。

 本来の任務を放棄している二人ではあるが、その戦闘の余波により周りの王国兵にも多大な被害が出ている。

 結果的に玉座の間へ王国兵が辿り着くことは無かったが、私情から始まった争いはアンリの不興を買っていたようだ。


「くく、くくく……馬鹿めがっ! 貴様の戦力はこれで出尽くした!」


 先ほどまで慌てていたマズダールは、大声を上げて勝ち誇る。


「あはは、何言ってるの? いやぁ、嘘つきの裸の王様の言うことは分からないなぁ」


「貴様……守るべき場所を一つ忘れてはおらぬか!?」


 マズダールが指さした先には、ザラシュトラ家が映し出されていた。


「くくく、ドゥルジールが如何に優れた使い手であろうが、憲兵騎士団が相手では防衛は不可能だ。ボードゲームは苦手か小僧? 貴様の大事なものはこれで壊れる」


「あはは、実家だよ? 勿論そこも守っているさ。人手が足りなかったからね、とある冒険者パーティーに依頼してるんだよ」


 これにマズダールは大きく笑う。


「くくく、わはははははは!! 笑わせるな小僧! 王国が誇る憲兵騎士団が、たかが冒険者風情に後れをとるとでも!? 見ておれ! 余を愚弄した罪、まずは貴様の肉親に償ってもらおうか!」




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「準備はいいか!?」


 ザラシュトラ家の屋敷を前に、部隊を率いている団長が大声を上げる。


「逆賊、ザラシュトラを根絶やしにするぞ! これは王命である! これは王命である! 皆の者、いざ続けぇぇ!!」


 王から直接命令を受けた憲兵騎士団の士気は高い。

 そんな騎士団を、ザラシュトラ家の門前で眺めている冒険者パーティーがいた。


「まじかぁ!? 本当に王様の兵と戦うのかよハンク!」

「…………意外」

「仕方ないんだ……アンリ様からの指名依頼を断れるわけなんてないだろ……」


 ハンク、バーバリー、ガーランドの3人で構成されたAランクのパーティーだ。


 アンリがザラシュトラ家防衛のために雇ったのは、昔からの馴染みである”ハンバーガー”だった。

 出てくる言葉はネガティブなものばかりだが、憲兵騎士団を睨む3人の目は、真剣そのものだった。


「なんだぁ貴様ら!? 逆賊に味方するとは、貴様らの肉親も淘汰されると思え!」


 騎士団長は叫びながらも、”ハンバーガー”が身に着けているプレートの色を確認していた。

 それがAランクを示す物だと分かり、団長は笑い出す。


「はっはっは!! 本気か貴様ら! たったの3人で、誉れ高い我ら騎士団を止められると思っているのか!?」


 団長の笑いはもっともだろう。

 今回の戦いに赴いている騎士団は、憲兵騎士団の中でも選りすぐりの者たちだ。

 規模は100人にも満たない小さなものだが、その一人一人がAランク冒険者と対等以上に戦える力を持っている。

 Aランクの3人パーティーが勝てるわけがないのだ。


「まぁ今回の依頼は簡単なもんだ。俺たちは見ているだけで終わるんじゃないか?」

「…………同意」

「へへっ! たまには他人の不幸を見るのもいいかもな!」


 しかしハンク達は、まるで負けるとは思っていなかった。

 アンリから秘密兵器を託されていたからだ。

 ハンクはそれを掲げる。


「スクロール!? 今更魔法一つでどうこうできるとは……いや、全員急いで防御態勢をとれぇぇ!!」


 スクロールは魔力消費無しで一度だけ魔法を行使できる。

 そのことは今では周知の事実である。


 たった一度の魔法では、実力者揃いの憲兵騎士団を全滅させることは不可能なはずだ。

 団長はそうは思いつつ、パールシア共和国との戦争で流れた噂を思い出す。

 もし1分戦争の噂が本当で、3万の兵を全滅させた魔法が実在するのであれば、確かに危険かもしれないのだ。

 ザラシュトラ家が近くにあるので、大規模攻撃魔法を使うわけがないと思いつつ、全員が防御態勢をとっていた。


 しかし、攻撃魔法が飛ぶことはない。

 そのスクロールに刻まれた魔法は、転移魔法だったのだ。


「…………南無」

「へへっ! 見せてやるよお偉いさん達! ”不思議なダンジョン”の主を任された、本物の化け物ってやつを!」

「アンリ様から許可を貰えた。今日は……今日だけは──」


 ハンクが掲げたスクロールが光を放つ。


「──”竜の牙”復活だ! こい、モス!!」




 その時、厄災が姿を現した。




「ひひ……ひひひ…………」


 騎士団の顔は青くなっている。

 それは、スクロールにより転移されてきた化け物が、あまりにも異形だったからだろうか。


「ひひ……今日は……お祝い……楽しい楽しい……ぱーちー」


 デーモンキングレオの体に、ナイトメアパイソンが何十と纏わりついている頭部。

 アフラシアデビルに似た大きな羽に、アジ・ダハーカの尻尾。


「ひひひ……今日は、殺してもおっけーおっけー……派手に、はでな、ぱーちーだから」


 極めつけはその顔だ。

 あまりにも異形な化け物だが、その顔がごく普通の人間だということが、更にその化け物を不気味に思わせる。

 そしてその顔が、涙を流しながらも下卑た笑みを見せているのは、生理的な嫌悪感を抱かせていた。


「ひひ、今日は、処女も……犯して、おっけー……ひひ、ぱちぱちぱーちー」


 あまりにも膨大な化け物の魔力にあてられて、憲兵騎士団からは撤退する者も出てきていた。

 しかし、それは許されない。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」

「助けっ! がぁぁ!?」


 その巨体からは想像できない速さで、マンティコアは逃げようとした者から襲う。

 アンリからは好きなようにしていいと言われているが、”一人も逃がさなければ”という枕詞もついていたからだ。

 圧倒的な戦闘力を持っているマンティコアだが、一人も逃がさないようにするという点だけは、慎重に慎重を重ね完遂させようとしていた。


「ひひ……俺様強い……殺す……愉しい……いい、すごく愉しい、ひひ」


 逃亡を図るものがいなくなった後は、ただマンティコアが愉しむだけの時間だ。

 アフラシア王国が誇る憲兵騎士団は、たった一匹の魔物に蹂躙される。


「ひひ……処女……処女だぁぁぁぁ!! 今日はおっけー! ぱーちーぱーちー! 処女おっけー!」


 興奮したマンティコアは、その場で凌辱を始める。

 人間の体ではとても収まりきらないであろう、デーモンキングレオの性器が騎士団の一人を貫く。

 マンティコアはこの戦いを戦闘とも思っていないのだろう。

 ただ自分の欲求を満たしている魔物に、ガーランドが声を上げる。


「おい! モス! よく見ろ! そいつは男だ! モス!」


 ひたすら男の尻に腰を振り続けているマンティコアを見て、もう4人でパーティーを組んでいた頃には戻れないのだと、ハンクは改めて悟ったのだった。


「……任務ミッション……完了コンプリート

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