146 閃光と金色
「かっはっは! 弱い弱い! こんなのが噂に聞く王の近衛兵か!?」
カスパールとベアトリクスはたったの二人で、玉座の間への入り口を防衛している。
大抵の死体は原型を留めていないため正確な数は分からないが、流れている血の量を考えれば災害ともいえるだろう。
「全く話にならんのぅ……これはこれで少し退屈じゃが……っとっ!?」
とんでもない速さで生首が飛んできたことに、カスパールは少し慌てるも身をかわす。
何事かと見れば、ベアトリクスが原因のようだった。
「わんわん!! あははは! これで更に百人! ご褒美、ご褒美!!」
ベアトリクスはアンリから、ご褒美の夢マタタビを先払いで貰っている。
敵を100人殺す度に、小指の爪ほどの大きさの袋を開封していいと言われており、モチベーションは極めて高い。
「わん! わんわん!! きたきた! イイ、イイよこれぇ!!」
戦闘中ではあるが、ベアトリクスは構わず鼻から夢マタタビを吸い込みだす。
トリップ状態となっても、アンリから定められたルールを破ることは決してないのは、これまでの躾の成果だろう。
「わんわん! さぁ、もっともっところ──きゃんっ!?」
調子を上げてきたベアトリクスの眼前を、カスパールが投げたナイフが横切る。
「かっはっは! 少しは周りが見えてきたか? まぁ、犬ころは前しか見えぬものかもしれぬが」
「ふん……またお前か……やけに突っかかってくる。私がご主人様の寵愛を受けているのがそんなに悔しいか? これだから年を取った女は醜い……わん」
「ほぅ? 言うではないか腐れジャンキー。言っておくがお主が受けているのは寵愛などと大層なものではない。ペットに向ける愛でもない。部屋の隅に住み着いた、虫に向けるそれよ。あぁ、害虫を処分しないとは、アンリは意外と慈悲深い奴よな」
普段なら、とうにアンリからお灸が据えられていることだろう。
だが今は止める者がいないため、両者はヒートアップしていく。
「喧嘩を買うぞ。あの世で後悔しろ、呪われたダークエルフ!」
「これは面白い。呪われた犬ころがそのような台詞を吐くとは!」
そして、遂に戦闘にまで発展する。
お互いがSランク冒険者であるとはいえ、ベアトリクスは夢マタタビにより身体能力が格段に向上している。
ベアトリクスが本気で拳を振るったことにより、決着は一瞬でつくかと思われた。
「かっはっは! 見るがいい! これが、寵愛というものよ!」
だが、その拳がカスパールに届くことは無かった。
その光景に、ベアトリクスは目を見開く。
カスパールがアンリから受けた寵愛。
その正体は、数多くのアクセサリーだ。
指輪、ブレスレット、ネックレスやピアス。
その種類は様々ではあるが、カスパールはこれまでにアンリから貰った物を全て身に着けている。
そのため、同じ部位に対して複数を身に着けることとなり、多少ゴテゴテしており、さながら奇抜なギャルのような見た目になっているが、その恩恵は絶大だった。
「これはっ!? 魔力障壁!? 詠唱もなしに……っ!」
貴重な魔石を宝石や貴金属で装飾したそれらは、アンリの実験での成果物だ。
通常の魔石に魔力を込めれば、種類に応じた現象が発動するが、アンリはそれを自在に再現しようとした。
現在効力を発揮しているネックレスでは、物理攻撃に対しての魔力障壁を再現している。
「そら! わしからも躾が必要か!?」
左手の親指につけた指輪では、衝撃魔法を再現できるようになっていた。
込めた魔力はそこまででないにしろ、直撃を受けたベアトリクスは吹き飛び壁に激突する。
「かっはっは! これが愛の力というやつよ! 貴様がいかに下卑た存在か理解したか!?」
アンリとしては、実験の試作品を身近な人間に送っていただけかもしれない。
もしかしたら、照れ隠しとして試作品と話していたのかもしれない。
どちらにせよ、何年にも渡り煌びやかな装飾品をプレゼントされたカスパールは、そこから愛を感じていた。
「何が愛の力だ……私が、私こそがご主人様の隣にいるべき存在だ! お前より私のほうが強い! お前は邪魔だ! ここで殺す……殺す殺す殺すぅぅぅ!!」
瓦礫から這い出したベアトリクスの髪は逆立っていた。
獣人族には、その感情の高ぶりに合わせて戦闘力が上がるという特徴がある。
同時に理性が欠落し暴走する可能性が高いため、呪われた種族と認知されてしまうのだが、それはまた別の話だ。
元々がSランクであるという実力に加え、夢マタタビによる強制的な身体能力の向上。
今のベアトリクスは、最強に近い存在なのかもしれない。
「ふん、あの双子に身体強化魔法を教えたのは誰だと思っておる? 何が”金色”か。どちらが最速か、その体に教えてくれるわ! 安心しろ、アンリにはお主は戦死したと伝えておくぞ!」
しかし、アンリの成果物を受け取ったカスパールもまた、最強に近い存在だ。
いつの間にか恋焦がれていた最強の隣に立つため、二人の死闘が始まっていた。
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