122 アエーシュマ救出戦4
テレサとフォルテは研究棟を上っていく。
幾度もウラジーミルの使い魔が襲ってくるが、二人にとってはそこまでの障壁とはなっていなかった。
「狩り尽くせ! 超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改!」
フォルテがアンリに作ってもらった真・覇王剛竜剣は、ただ切れ味がいいだけではない。
貴重な黒魔鉱石をふんだんに使ったその剣は、軽く重い。
黒魔鉱石は、魔力を通すことでその性質をある程度変えることができる。
「お前の真の力を見せてみろ! 狩れ! 超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改!」
魔力を通すことにより軽くなり、その大きな見た目からは想像できない程の早さで繰り出された大剣は、インパクトの瞬間に見た目以上の重量にすることが可能だ。
勿論、使用者の魔力を扱う技量に左右されるが、元々が優秀な魔法使いであるフォルテなので、その性能をいかんなく発揮していた。
「漆黒の竜よ! 今こそ狩りの時間だ! 穿て、超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改!」
「あんたさぁ……」
段々とテンションが上がってきているフォルテを見ながら、テレサは溜め息をはく。
「もう少し静かに戦えないの? うちの頭ん中がチョーシン剛竜剣マックスでいっぱいなんだけど」
「違う! 超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改だ! この叫びは必要な詠唱なんだよ!」
真・覇王剛竜剣は素材にこだわっただけではない。
その真価は、別にあった。
「迷える獣たちにせめてもの慈悲を! かりそめの命を奪え! 超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改!」
スクロールの技術を応用することにより、装備者がキーワードを唱えることで、斬撃を飛ばしたり形状を変化させたりといった効果を発生させるのだ。
「アンリに聞いたわよ? 必要なキーワードは”狩り”、もしくは"狩れ"と”剛竜剣”だけでしょ? あんた、余計な言葉が多すぎるのよ!」
「分かってねぇ、分かってねぇよテレサ! 男は叫びで強くなるんだ! これは、剛君だけじゃなくて、俺を強くしている詠唱なんだ! 俺の行く道に光を灯せ! 超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改!」
指摘をうけるも、無駄な詠唱を続けるフォルテを見て、テレサは何かを諦めたようだ。
「……まぁ、うちは魔力を温存できるからいっか。急ごうフォルテ、シュマが少し心配……何か胸騒ぎがするんだ」
押し寄せる魔物を物ともしなかった二人は、ウラジーミルが居ると思われる最上階に辿り付く。
しかし、ウラジーミルの部屋の前に立っているのは、二人が予想もしない人物だった。
「あれ? お前、確かシュマの……」
「”さん”と呼ばれていたわよね? あんた、自分の主人がこんな時に何してんの!? ちょっと通るわよ!」
シュマ専属の使用人である”さん”がここに居ることに、二人は疑問を感じるが先を急ぐことにする。
だが──
「──危ねぇテレサ!」
ウラジーミルの部屋に入ろうとしたテレサを、”さん”が襲う。
──ガギィィィン!
何とかフォルテの助けが間に合い、テレサは無傷だった。
テレサ達は急いで距離をとり”さん”を見れば、何処から取り出したのか、大きな斧を持っていた。
”さん”が持っている斧は、一言でいえば不吉だった。
様々な装飾がされているのにも関わらず、元は鋼色だったと思われるその斧は、そのほとんどが黒茶色に変色していた。
特に握りの部分と刃が強く変色しており、一体何人の血を吸ってきたのか、嫌な想像を掻き立てられる。
「あ、あんたねぇ! 何してくれんのよ! 冗談じゃすまされないわよ!?」
使用人が貴族に手を上げる。
それは完全な
更にそれが主人とは違う貴族なので、下手をすると家同士の問題にも発展するかもしれない。
しかし、当の”さん”はテレサの声が全く聞こえないのか、扉の前で仁王立ちしている。
「テレサ……こいつ……何か様子が変だ」
フォルテの言葉を受け、テレサは”さん”を注視する。
シュマの隣にいる時は常に無表情だった”さん”だが、今は少し違う。
喜び、怒り、哀しみ、笑いといった表情を繰り返している”さん”はひどく不気味だった。
その姿は、テレサには自分の感情と戦っているようにも見えた。
「こいつ、操られてるの!? そうね、ウラジーミルの使い魔ってことかしら……」
「はぁ!? 使い魔って、こいつは人間だぜ!?」
テレサの推測に、フォルテは素っ頓狂な声を上げる。
だが、再びどこかおかしな様子の”さん”を見たフォルテは納得したようだ。
「俺達はそこの部屋に用があるんだ! 通してもらうぜ!」
「足の一本や二本は覚悟してもらうわよ!?」
こうしてフォルテとテレサのチーム対”さん”の戦いが始まるのだった。
(それにしても……こっちはこんな大変なことになってるのに、アンリは何してんのよ!)
テレサの不満も尤もではあるが、アンリ達も厳しい戦いを強いられていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます