120 アエーシュマ救出戦2
ウラジーミルが使用している研究棟の入り口には鍵がかかっていた。
それを確認もせず攻撃魔法で破壊したテレサは、ずかずかと中に入っていく。
「な、なぁテレサ。本当に二人で行くのか? も、もしメアリーの勘違いだったらどうするんだ?」
テレサの後ろには、フォルテがおそるおそるついてきていた。
「あんたねぇ! もし間違いじゃなかったらどうすんの!? シュマの心の傷はどうすんの!? どうしてあげられんの!?」
「だ、だけどよぅ……違ってたら、下手したら退学だぜ……?」
「うひょひょひょ! その通りなんだな!」
突如、自分達以外の声が聞こえ、フォルテとテレサは身構える。
その声色はウラジーミルのものだが、部屋の中心に佇むサーベルラビットから聞こえてくるようだ。
使い魔を通してウラジーミルが接触してきたことを知り、テレサは怒鳴り声を更に大きくする。
「このロリコンゴミデブ教師! よりによって、そんな可愛い使い魔にあんたの汚い声を喋らせるなんて、いくら何でもひどすぎる! あんたの声を喋るなんて、醜悪なゴブリンであっても可哀想なのに!」
「ひょ……ひょひょ……この糞ガキ……」
ウラジーミルの声は震えていた。
「でで、出てけ……出てけ糞ガキィィィ!! 僕とシュマちゃんの邪魔をしないんでほしいんだな! 僕たちは永遠に一緒になるんだから!」
その言葉を聞き、テレサとフォルテは目を合わせ頷く。
「そこから一歩でも進んでみろ!! お前達を退学にしてやるんだな! たかが生徒の分際で、身の程をわきまえろぉぉ!!」
"退学にする"
それは、魔法学院パンヴェニオンの生徒にとって、何よりの脅しになるかもしれない。
貴族が生徒のほとんどを占める魔法学院パンヴェニオンでは、退学する者は滅多にいない。
そのような環境でもし退学になれば、貴族中の笑い者になるのは間違いないだろう。
その記憶は簡単には拭えず、一生後ろから指を指されて生きていくことになるのだから。
いや、貴族としては死んだも同然かもしれない。
だが、テレサとフォルテは迷うことなく奥に向かって歩き出す。
「お、お、お前ら、怖くないの!? 退学だよ!? 僕は教師だよ!? 僕の権限で、いつでもお前らを退学にできるんだよ!?」
再度の脅しにも歩みを止めない二人を見て、焦ったウラジーミルは実力行使にでる。
「魔物どもぉぉ! こいつらを止めろぉぉ! いっそ殺せぇぇ!」
ウラジーミルの命令を受けた魔物達が、子供二人に襲いかかる。
「ロリコンクズ教師が! フォルテ!」
「おう! テレサ、伏せとけよ! 狩り尽くせ! 超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改!」
フォルテが放った大剣の一振により、襲いかかった魔物達はまとめて両断された。
「……へ? な、なんだぁ!? 何者だこのガキ共!?」
「何者か、ですって!? あんた本当に教師!? うちらを誰だか、本当に分かってないの!? ほら、フォルテ、教えてあげなよ!」
唯一残っていたサーベルラビットを見据え、フォルテが刃を模した家紋を見せながら口上する。
「おう! 俺はフォルテ、フォルテ・ヴェンディード! ヴェンディード家の執行権を行使する! 俺の超真打ち・覇王剛竜剣零式マークⅡ改が、お前を罪ごと断ち切るぜ!」
「ほえぇぇ!? 執行人!?」
「ついでに教えてあげるわロリコン野郎! うちはテレサ、テレサ・ウィーラーフ! ウィーラーフの天秤は、あんたを悪だと断定する!」
怒鳴るテレサのローブには、天秤を模した家紋が刺繍されていた。
執行人は、相手に暴力をふるっても──時に命を奪っても──罪に問われない。
その権限は、国王から託されたものだ。
勿論、ただの教師に過ぎないウラジーミルなど、断罪されても何も文句は言えないだろう。
「ふ、ふふ、ふざけるんじゃない! 僕が何の罪を犯した!! お前たちみたいなガキが、大人を裁けるわけないんだな!!」
自分が断罪されるかもしれないという恐怖から、ウラジーミルは取り乱す。
──チリィィン
ふと鈴の音に気付き、ウラジーミルが窓際を見れば、いつの間にやら真っ黒な鳥の魔物が入ってきていた。
アフラシアデビルという嫌われ者のその魔物は、赤い目でウラジーミルを見つめている。
その隣には、椅子に縛り付けられた血まみれのシュマがいた。
「み、みみ、見るなぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉぉおお!!」
アフラシア王家は執行権を三つの家系に与えており、その家系は御三家と呼ばれている。
全ての罪人を見通す目を持つ、ザラシュトラ家。
全ての罪人を量る天秤を持つ、ウィーラーフ家。
全ての罪人を絶つ刃を持つ、ヴェンディード家。
いくら当主ではないとはいえ、御三家全員から睨まれることとなったウラジーミルはパニックになっていた。
「やっぱりあんたが居る部屋は上ね! すぐに行くから、大人しく待ってろロリコン変態くされ野郎!」
テレサは指で銃の形を作り、サーベルラビットに人差し指を向ける。
『弾けろ! <
その言葉通り小さな兎の魔物は弾け飛び、ウラジーミルの奇声は途絶えたのだった。
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