119 アエーシュマ救出戦1

「……ぅうん……あれ……? えっと……確か兄様あにさまとダンジョンに行って……魔法が使えなくなって……あぁ、そっか……」


 意識を取り戻したシュマは、自身に起こった事象を理解したようだ。

 しかし、現状は中々理解できないでいた。


「ここは……? それに……」


 シュマは椅子に縛り付けられており、全く身動きがとれないようだ。


(魔法のアヴェスターグ模造本・レプリカは……ダンジョン……アシャが持ってるの? ……まだ探索を続けているのかしら)


 シュマが現状の理解に努めていると、脂ぎった小太りの男が部屋に入ってくる。


「うひょひょひょ! しゅ、しゅしゅ、シュマちゃん! 待たせてごめんね! やっと完成したんだな!」


 ウラジーミルだ。

 シュマにとっては予想外の人物だった。


「ウラジーミル先生? うふふ、ご機嫌よう。この縄をほどいてほしいのだけど」


「うひょ、うひょひょ! シュマちゃん、ごめんよ! それは無理なんだな! もう少ししたらほどいてあげるからね!」


 他人の力を借りることは諦めたシュマは、魔法刻印に魔力を流し、自力での脱出を図る。


「あら? あららら?」


 しかし、魔法により強化された力でも、縄を引きちぎることはできなかった。


「うひょひょひょ! 危ない危ない! シュマちゃん、ほんとに力が強いんだな! ドラゴン捕獲用の魔法具にしといて正解だったんたな!」


 自力での脱出を諦めたシュマは、ウラジーミルに尋ねる。


「ウラジーミル先生? あの、何を?」


「うひょひょ! あぁ! シュマちゃん! 可愛い可愛い可愛い! 世界一可愛いよ! 僕が一番シュマちゃんを愛してる! だからシュマちゃんも、僕を愛してほしいんだな!」


 興奮しているウラジーミルに、シュマは微笑みかける。


「うふふ、嬉しいわ。私を愛してくれるの? 勿論、私も先生を愛してあげるわ」


 シュマの返答に、ウラジーミルの興奮は絶頂を迎えた。


「ひょぉぉぉぉおお!! 嬉しい!! 嬉しいよシュマちゃんんん!!!」


「うふふ、私も嬉しいわ先生。だから、まずはこの縄をほどいてくれないかしら?」


 その言葉を聞いたウラジーミルは、急に真顔になった。


「ごめんよシュマちゃん。シュマちゃんを信じてはいるけど、やっぱり口約束は怖いんだな。それをほどくのは、この術式を結んでからだよ」


 ウラジーミルは言いながら、羊皮紙を取り出す。


「これは、さっき完成させてきた”従属の術式”なんだな。この術式を結んで、シュマちゃんを一生愛してあげるんだな! しゅしゅしゅシュマちゃん、僕のものになってよ! "ウラジーミルのものになる"って、そう宣言してくれるだけでいいんだ!」


 ウラジーミルは人間的には褒められた人種ではないだろう。

 だが魔法、特に使い魔の分野では才があった。

 今回ウラジーミルが用意したのは、使い魔を主に従属させるための術式を、対人間用に改造したものだ。


 三つほど条件があるアンリの<隷属化スレイヴ>と違い、ウラジーミルの術式の条件は二つだけだ。

 一つは、対象の血で羊皮紙に魔法陣を描くこと。

 もう一つは、対象本人の口から"ウラジーミルのものになる”と宣言させること。


 中々に難しい条件と思われるが、ウラジーミルにとっては破格のものだった。

 それさえ満たせば、シュマが永遠にウラジーミルのものになるのだから。


 だが、シュマは首を横に振る。


「うふふ、駄目よ先生。先生の物にはなれないわ」


「ななななな、なんで!? なんでなのシュマちゃん!? おかしいよ! 愛してくれるって言ったじゃないか!!」


 ウラジーミルは取り乱し、シュマに手を上げる。


 ──ばちぃぃぃん


 その大きな手で繰り出された平手打ちにより、大きな音が部屋中に響き渡った。

 シュマの頬は赤くなり、鼻から血が流れている。


「せ、先生……? なんで……?」


 シュマの言葉は、熱くなったウラジーミルの耳には入っていない。


 ──ばちぃぃぃん


「だだ、だって、だってあんなにいつも僕に笑顔を向けてくれてたのにぃぃ!!」


 ──ばちぃぃぃん


「嘘だ嘘だ嘘だぁぁ! 僕にだけ、僕にだけ笑ってくれたのにぃぃ!!」


 ──ばちぃぃぃん


「騙したな! 僕を騙したなぁ!? 悪い子だ! 悪い子だぁぁぁ!!」


 ──ばちぃぃぃん


「許せないぃ! 僕の気持ちを、踏みにじったなぁぁぁ!!」


 ──ばちぃぃぃん


「なんで!? なんでなのシュマちゃん!?」


 ──ばちぃぃぃん


「僕は、こんなに君のことが好きなのにぃぃぃ!!!」


 ──ばちぃぃぃん




「ひゅうっはぁ、はぁ、はぁ、……ふぅ」


 ウラジーミルの気が鎮まる頃には、シュマの顔は血だらけになり、意識が飛びかけていた。

 顔も大きく腫れてはいたが、魔法刻印の効果により次第に癒されていく。


「全く、悪い子だなぁ……でも、そんなところも可愛いんだな。大丈夫だよシュマちゃん、時間はたっぷりとあるんだから」


 ウラジーミルはベルトに手をかけながら、下卑た笑いを浮かべる。


「まずは先に愛し合うんだな! しゅしゅしゅシュマちゃん! 僕の初めての相手になってよ!」


 下半身を露わにしたウラジーミルは、縛られたシュマの服を強引に引き千切る。

 シュマの乳房もまた、露わになっていた。


「あぁぁ! 凄い! 凄く綺麗なんだな! シュマちゃん! ほんとに天使なんだな! それじゃぁ、シュマちゃん……愛してるんだな」


 強引にシュマの唇を奪おうとした時、大きな衝撃が走り研究棟が揺れた。


「なななな、何!? 何なの!?」


 ウラジーミルは慌て、使い魔の目を借りて研究棟の入り口を見る。

 そこには、二人の子供が立っていた。


「このくそ変態ロリコン教師! シュマに手を出したら、本気で許さないからね! あんたの汚い金玉を、うちが引き千切って鳥の餌にしてやる!」


 13歳のテレサの脅しに、ウラジーミルは顔を青くするのであった。

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