115 始まりのダンジョン
「グギャァァァァ!!」
「キョーーー!!」
アンリ達はダンジョンを進んでいた。
高難度と言われるだけはあり、”始まりのダンジョン”に出てくる魔物の数は多い。
魔物との遭遇が増え、当然戦闘回数も増えるため、通常の冒険者パーティーであれば一つの階層を進むのにも中々の時間を要すだろう。
「GYAAAAA!」
「ガァァァァァァ!!」
だが、アンリ達の進むペースは尋常じゃない早さで、攻略開始から1時間も経っていないのに15階層までたどり着いていた。
”始まりのダンジョン”は全20階層という前情報があるので、このままならあと数分で最深部へたどり着けるだろう。
「いやぁ、最難関って聞いてたから、それなりの覚悟をしていたのに……この調子だと、日帰りで帰れそうだね。休暇届、意味無かったかなぁ」
ここまで攻略が早いのには、次の三つの要因がある。
一つは、アンリ達の移動手段だ。
アンリ達は徒歩ではなく、空飛ぶ絨毯を移動手段として用いていた。
以前のように椅子までは乗せておらず小さな物だが、四畳ほどの広さの絨毯なので充分に5名が乗ることができる。
疲れ知らずで常に走っているのと同じようなものなので、当然物理的に攻略が早くなっていた。
二つは、マッピング精度だ。
アンリはダンジョンに到着した瞬間、
それぞれのアフラシアデビルがダンジョンの最深部を目指し飛び回り、その際に入手した情報をアンリの
結果、アンリは動かずして最深部までの最適ルートを導き出していた。
最後の要因は、アンリが現在使用している魔法だ。
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アシャの魔眼を参考に開発された魔法により、アンリの右目には魔法陣が浮かんでいる。
この魔法は、ダンジョンを効率よく攻略するために開発されたものだ。
敵と遭遇するためにいちいち魔法を唱えていては手間がかかると思ったアンリは、自分の視界に入った生物を自動的に燃やし尽くす魔法を作成した。
出力は高めに設定しており、時折ランクが高い魔物が悲鳴を上げることはあるが、大抵は瞬時に蒸発していく。
結果、魔物との戦闘時間は皆無であり、ただ目的地へと高速で移動しているだけなのだ。
ここまで攻略時間が短縮されているのは当然だった。
「それにしても、想定していたよりも易し過ぎてびっくりだよ。これじゃぁ、Bランクに上がった時に挑戦してても良かったなぁ」
アンリの言葉に、カスパールは溜息を吐く。
「はぁ……あのな、ここのダンジョンは本当に難度は高いんじゃぞ? あの学院長ですら、最深部には到達できなかったと言っておったぞ」
「え? 学院長もこのダンジョンに潜っ──」
「──待てっ! こっちを向くんじゃないぞ!? お主、今使用している魔法の効果を忘れてはおらぬだろうな!?」
先頭で座っているアンリが後方に振り向きそうになり、カスパールは慌てて後ろから抑える。
「こんな馬鹿な事で燃やされるのはごめんじゃからな……」
後ろから抱き着き、腕と胸でアンリの顔を固定したカスパールは落ち着きを取り戻す。
「あはは、冗談だよ冗談。流石にそんなミスはしないって。キャスはからかい甲斐があるなぁ。心臓の鼓動が凄く早くなってるよ?」
腕に込める力を強めながら、カスパールは周りを見渡す。
先ほど取り乱したのが自分だけだと気付き、少し恥ずかしさが込み上げてきたようだ。
「それにしても……お主はともかく、お主の周りも随分と狂人が集まっておるな……いや、お主が狂わせたのか」
カスパールは少し挑発してみるも、誰も乗ってこない。
シュマはいつも通りの笑顔を崩さず、指で輪っかを作りアンリの魔法を記録している。
アシャは無表情で、何を考えているのか分からない。
ベアトリクスは恍惚とした表情で、胡坐をかいたアンリの傍で伏せている。
ダハーグに至っては、不可視化の魔法を使用しており、どこにいるのかも分からない。
苛ついたカスパールは、標的を定め悪態をつく。
「そも、汚れた獣風情がこの絨毯に乗っておることが、わしは気に食わんのじゃ」
その言葉にベアトリクスの耳はピクリと動かし反論する。
「汚れているのはどちらのほうだ。鏡を見て考えろ、ダークエルフ」
「あはは、ベアト、僕のペットはそんな言葉喋らないよ?」
「……わん」
アンリの言葉に、ベアトリクスは耳を垂れさせ大人しくなる。
「まぁキャスも落ち着きなよ。皆仲良くしろとは言わないけどさ、僕の前でぐらいは仲が良いフリをしてほしいな。ほら、女の子は得意でしょ? 仲良しごっこ」
「女の子という歳でもないんじゃが……」
──チリィィン
鈴の音が聞こえてきたことにより、一同は話を止める。
この鈴の音は、先頭のアフラシアデビルが鳴らした合図だ。
"目的地へ到着"
その意味を共有されていた一同は、少し緊張感に包まれる。
「あはは、思ったより早かったね。さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……」
段々と大きく聞こえてくる鈴の音に向かい、空飛ぶ絨毯は速度を上げていった。
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