106 Sランク

「それでは、Sランク冒険者の証であるプレートをお渡しします。本当に、おめでとうございます! 今後も、”永遠の炎”のお力添え、お願いいたします」


 冒険者組合の役員室にて、アンリ達は黒魔鉱石のプレートを受け取っていた。


 アフラシア国王からの個別依頼に対して、火種を作るだけでなく、パールシア共和国からの宣戦布告を引き出したこと。

 実際に始まった戦争では、アンリの魔法により勝利を確定させたこと。


 実績と国王の後押しもあり、アンリ率いる”永遠の炎”はSランクへの昇格を果たしていた。


兄様あにさま、私達までいいのかしら? いつも私は何もしていないのにランクが上がっちゃうから、なんだか申し訳ないわ」


「あはは、いいんだよシュマ。僕達三人で”永遠の炎”なんだから。パーティーってのはそういうもんさ。助け合いが大事だからね、そんな小さなこと気にしない気にしない」


 役員室から退出し、ロビーへと向かう階段を下りているアンリは上機嫌だ。


「しかし、アシャや犬ころは良かったのか? あやつらは”永遠の炎”のパーティーではないのか?」


「アシャは冒険者登録してないし……ベアトは元々Sランクだからね。それに、あの二人は”永遠の炎”の一員ではあるけど……そうだね、使い魔的なポジションと考えたら、僕らだけがこのプレートを貰っても仕方ないよ」


 カスパールに答えながらロビーへ降りたアンリ達を迎えたのは、喝采だった。


「”永遠の炎”の皆さま、おめでとうございます!」

「お前等すげえぇな!」

「最初見た時から普通じゃないと思ってたんだよ!」


 組合の職員や受付嬢、そして冒険者達が集まっており、”永遠の炎”を出迎えたのだ。

 少し、驚きつつも、アンリは貰ったばかりのプレートを皆に見せる。


「あはは、どうもありがとう。Sランク冒険者として恥じないように頑張るから、これからもよろしくね」


 ロビー中が拍手に包まれている中、同じくSランク冒険者のディランがアンリに近づく。


「アンリ、良かったな! モスマンから聞いてたってのもあるけど、俺はお前を信じてたぜ! だが、”気高き狼”はやっぱりやられちまったか……」


 アンリを祝福しつつも、ディランからは少し寂しさを感じさせる。


「あはは、大丈夫だよディランさん。そうだ、この後身内で祝勝会をする予定なんだけどね、もし良かったら、ディランさんもパーティーメンバーの人達と一緒にこない? 見せたいものがあるし、ディランさんもきっと喜ぶと思うよ」


「おぉ! 勿論行くぜ! だが、パーティーメンバーって言われてもな……悪いが俺だけで行かせてもらうぜ!」


「全然いいよ。そうだ、もし会えたらモスマンさんも連れてきてよ」


 ディランの親指が上がったことを見たアンリは、その場を後にするのであった。




 そして、ディランは祝勝会が行われているザラシュトラ家に訪問する。

 そこでは、皆が酒を飲み、何か見慣れない物を食べている。


「よぉアンリ! 悪いな、モスマンはどうしても外せない用があって来れなかったぜ。だが、お前に渡してほしいと祝いの品を預かってきたぜ」


 そう言いながらディランは背負った荷袋を床に降ろす。

 そこにある品の数々を見て、祝勝会に参加していたテレサが声を上げる。


「えぇ!? こんなに貴重な物をこんなに沢山……? Sランク冒険者って、そんなに稼げるんだ……うちも冒険者になってみようかなぁ……」


 目の前の少女の感想に、ディランは肩をすくめる。


「稼ぐには稼ぐが、こんなに祝いの品を渡してくるのはモスマンぐらいだと思うぜ? アンリは随分とあいつに気に入られているようだな。でもそれはいい事だぜ? あいつがここまで気を利かすってことは、将来大成すると言っているようなもんだからな。ってもSランクに上がったんだから、もう大成してるか」


「あはは、ありがとうディランさん。モスマンさんにもお礼を言っておいてよ」


 モスマンからの贈り物を運ぶ”さん”を横目に、ディランはアンリに目を輝かせて質問する。


「お前の家は化物揃いだな! とまぁ、それよりも気になる事があるぜ。皆が食っている丸いのは何だ? 見たことない食べ物だが、なかなかいい匂いだな」


「あぁ、あれは”たこ焼き”っていう食べ物なんだ。ほら、最近アフラシア王国で新しいダンジョンができたでしょ? あそこで採れる白い粉が原材料なんだよ」


 パルティアン平原の西に新たにできたダンジョンは”不思議なダンジョン”という名前が付けられた。

 そのダンジョンは、名前にもなっている通り、とても不思議なダンジョンだ。


 ダンジョンに入るたびに内部構造が変わるという、何とも不思議な仕様になっており、作成した地図が利用できないため、深い階層への探索者はまだ出ていない。

 ドロップ品の中に用途不明の白い粉があったことにも、皆首をかしげていたが、つい最近”たこ焼き”の原材料として、用途が発見された。


 また、浅い階層を探索していたはずのパーティーが偶に行方不明になることもある。

 血や遺留品等が見つからないことから、死亡ではなく行方不明なのだ。


 挙げていけばきりがない程、普通のダンジョンとは異なる点が多い。

 その為、”不思議なダンジョン”と呼ばれているが、それなりにドロップ品が美味しいということと、行方不明者が出ているのは気になるが、そこまでの危険性が感じられないことから、アフラシア王国で一番人気のダンジョンとなっていた。


「そういえば、ディランさんに会わせたい人がいるんだ。ほら、ワンコちゃん、こっちにおいでよ」


 アンリの命令により、近づいてくる人物を見たディランは驚愕する。

 そこには、首輪を付け四つん這いになり、恍惚の表情を浮かべてアンリに体を擦り付けているベアトリクスがいた。


 ディランは、ベアトリクスの女の顔を見てみたいと思っていた。

 そして今、そのベアトリクスは間違いなく雌の顔になっている。


「ほらディランさん。ディランさんに言われた通り、ベアトとはよろしくやってるよ」


「まじか……アンリ……いや、兄貴。これから兄貴と呼ばせてもらうぜ……」


 これまでディランが何をしても、ベアトリクスはその高飛車な態度を崩さなかった。

 その気高い女を、ここまで屈服させたことに素直に関心し、アンリを尊敬するのであった。




 成人に満たない双子が率いるパーティー、”永遠の炎”がSランクに上がったことは、アフラシア大陸だけでなく世界中で大きなニュースとなった。

 3人のパーティーメンバー全員が二つ名を持っていることも、非常に珍しく話題となっている。



 長い間姿を消していたが、最近になって突如冒険者に復帰した伝説のダークエルフ。

 ”閃光のカスパール”


 双子の妹であり、体中に不気味な刻印を光らせ、狂喜のままに獲物を屠る美しい少女。

 ”狂姫のアエーシュマ”


 そして、名前を呼ぶことすら恐怖される、パールシア共和国軍を一撃で皆殺しにした男。

 ”死ノ神タナトス


 皮肉な事に、アンリが一番恐れている”死”が、今後二つ名としてまとわりついてくるのであった。

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