101 宣戦布告
アフラシア王国のSランクパーティーである”気高き狼”を、パールシア共和国の冒険者がたった一人で壊滅させた。
その情報は、両国に大きな衝撃を走らせた。
パールシア共和国にとって、それは吉報だった。
アフラシア王国から突如パールシア共和国に訪れ、組合で何度も揉め事を起こしていた”気高き狼”は、少なからず疎まれていたのだろう。
「うへぇ……凄い光景ですね」
「……首が残っているそこの二人は見たことがあるな。ふむ、間違いなく"気高き狼"のメンバーだ」
ジェーンとミアが一夜を過ごした廃墟に、パールシア共和国の調査員が来ていた。
「でしたら、こっちの原型も留めていないのも、残りの奴らでしょうか」
「ああ、これだけの状況証拠があれば十分だろう……しかし、凄いものだな。"金色"を含めたSランク冒険者達を、一人でここまで屠れるとは」
「凄いのは……その冒険者ですかね……それとも、夢マタタビですかね……」
「両方だ。そして、両方とも我が国のものだ。本当にホッとするよ」
この事件により、ジェーンはパールシア中で英雄と称えられることとなる。
そして、Sランク冒険者が一人で同じSランク冒険者四人を無傷で討ったという話は、パールシアの上層部に夢マタタビの効果を改めて理解させた。
そして、夢マタタビさえあればアフラシア王国に負けないと判断し、来るべき戦争に備えるため、今では貴重になった夢マタタビを強引に集めだす。
そのことにより、貴重な夢マタタビは更に希少価値があがり、需要に対して供給が全く追い付かない状態になった。
夢マタタビの快感を忘れられず、それを求め、パールシア共和国と民は更に荒れていくのだった。
そして、この事件はアフラシア国王にとっても吉報だった。
Sランク冒険者を失ったことは確かに痛い。
だが、アフラシア大陸が統一されることは国王の望みだ。
失った者が呪われた獣人族であることを考慮すれば、十分にお釣りが来ると考えたのだ。
この事件は大きな火種となるだろう。
他国の者に、超貴重なSランクパーティーを殺害されたのだ。
これを理由に、アフラシア王国はパールシア共和国に宣戦布告をしようと考えた。
だが、その後の展開は予想外だった。
王国が宣戦布告をする前に、パールシア共和国が宣戦布告をしてきたのだ。
国王は慌てるも喜び、出兵の準備を始めるのであった。
「にゃはぁ……それにしても、明日から戦争だにゃんて……本当に始まるにゃんて思いもしなかったにゃ……」
パールシア共和国のとある宿にて、ミアはジェーンの腰に腕を回しながら呟く。
二人とも衣服を一切身に纏っていない。
つい先程までお楽しみだったのだろう。
「もうこの国は限界だ……仕方ない」
パールシア共和国は荒れに荒れ、貧困を迎えており、餓死していく民が後を絶たない。
このままでは滅亡は避けられないことは、誰の目にも明らかだった。
「それにね、パルティアン平原の西に、新しくダンジョンが発見されたらしい」
「にゃにゃにゃ? また発見されたにゃ? 珍しいこともあるもんだにゃ……でも西となるとアフラシア王国の領土だにゃ」
新しいダンジョンが発見されるなど、世界中でも数十年に一度あるかどうかといったところだ。
それがここ数年の間に、アフラシア大陸で二つも発見されたことにミアは驚いていた。
だが、次のジェーンの言葉を聞いた驚きはその比ではない。
「どうもそのダンジョンから……白い粉が発見されているみたい……それも大量に」
「にゃにゃにゃ!? ほ、ほんとかにゃ!?」
ダンジョンから発見される白い粉。
それが何を指しているのか、パールシア共和国の者であれば、誰でもすぐに見当がつくだろう。
「だけどねミア、奴等はまだその使い方に気が付いていないらしいんだ。戦争を仕掛けるタイミングは、今しかないんだよ」
アフラシア王国がまだ夢マタタビの有用性を分かっていないうちに、戦争を仕掛け領土を奪う。
新しいダンジョンがあるパルティアン平原の西まで奪うことができたら今回の戦いは勝ちなのだ。
新しいダンジョンをパールシアの手中に治め、大量の夢マタタビを手に入れることができたら、今後の戦いも勝ちなのだ。
「それは……戦うしかないゃ……でも、みゃー達が先陣を切るなんて……」
"気高き狼"を討ち取ったジェーンは、国から大きく期待されていた。
そして、ミアと二人でその力をアフラシア王国へ見せつけてほしいと依頼がきていた。
「ジェーン……その、逃げることは……駄目なのにゃ? 正直、みゃーは怖いにゃ」
「ミア、これは私達獣人族にとって、避けられない戦いなんだ。私達の……獣人族の未来のため、絶対に勝たないといけないんだよ」
ジェーンの言葉を聞いても不安そうなミアを抱きしめ、ジェーンはミアの耳を舐める。
「ひゃぅ……ジェーン……はぅぁっ」
「大丈夫だよミア、何も心配いらない。私が絶対にミアを守るから……」
「ふぐぅぅ……あっっ……んんぅぅっ!」
今日も快楽に溺れる夢のような時間が始まる。
二人がそう思った時に、ふと水を差す第三者の声が聞こえてきた。
「あはは、そろそろいいかな。夢から覚める時だよワンコちゃん」
自分達しかいないはずの空間で、少年の声が聞こえたことにジェーン達は驚く。
衣服はないが、枕元に置いてあった武器を手に取り、声の主に注目する。
そこには、黒髪の少年と少女が立っていた。
少女は眼帯を付けており、感情の無い目でこちらを見ている。
少年は悪魔のような笑みを顔に貼り付かせており、その目を見るだけで、ひどく不安を感じさせた。
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